あなたの知らない猛獣の能力「時速40kmのカバ」「握力300kgのチンパンジー」

今年4月、ベラルーシでビーバーが人を襲う事件が起きた。写真を撮ろうとしたところ、あの巨大な歯でかみつかれたというから、愛嬌ある風ぼうからは想像できない獰猛(どうもう)さだ。

もしも猛獣に襲われたらたち打ちできるのだろうか？時速40kmで突進するカバ、300kgとも言われるチンパンジーの握力の前では、人間の非力さを痛感することになるだろう。

■悪食なカバ

ずんぐりとした身体に短い脚、ヒゲ面、小さな目とは対象の巨大な口が特徴のカバは、豚やイノシシの仲間と思われていたが遺伝子的には牛に近い動物だ。

草食性哺乳（ほにゅう）類らしい温厚そうなフォルムとは裏腹に、アフリカでは毎年3,000人近くの被害者が出るほど、カバはどう猛で危険な存在なのだ。

巨大で鈍重そうに見えるが実は俊足の持ち主で、最高時速は40kmにも達する。

体長4m、体重2.5トン超にもなるカバを戦争映画でおなじみのハンヴィーと比較すると、全長は1mほど短いものの重量はほぼ互角と、軍用の四輪駆動車にひけをとらない。

2,500kgの体重が時速40kmで突進するエネルギーは、60kgの人間が時速258.2kmで移動するのと同じだ。カバ体当たりは交通事故に等しく、致命傷になりかねない。

カバは縄張り意識が強く、侵入者を見つけると追い払うために攻撃する。においで縄張りを主張するために、ぐるぐる回したしっぽでフンをまき散らすという、子供が見たら幻滅するような行動をとる。

動物ならにおいを識別できるのだろうが、人間の場合は気づかずに侵入してしまうことが多い。そのため敵と見なされ被害に遭うのだ。

カバと言えば、口を大きく開いている姿が定番で、直角を超えておよそ150度まで開く。さながら口のイナバウアーだ。

動物園ではエサをねだるシーンに見られ、大きな口に放り込んだキャベツもまるごとかみ砕く様子が爽快（そうかい）だ。

だが、野生のカバが口を開けていたら、とにかく逃げ出そう。これは威嚇のポーズで、印象的な上向きの犬歯とともにやりのように前を向いた門歯がカバの武器なのだ。

肉食動物と比べて本数は少ないものの、縄張りに侵入したワニにかみつくことも多く、人間もかまれる被害があとを絶たない。さらには、草食動物でありながらほかの動物を襲って食べる例も報告され、牛に近いわりにはエグい食生活を送っている。

■カニバリストなチンパンジー

日本では、人に危害を加える恐れのある危険な動物を特定動物と呼び、飼う際には地方自治体の許可が必要となる。

クマやワニのようなどう猛な動物、コブラやドクトカゲなどの毒性生物はもちろんだが、芸達者で知られるチンパンジーも特定動物に名を連ねているのは意外に知られていない。

チンパンジーの武器は発達した犬歯だ。人間のよりはるかに大きいのに加え、小臼歯つまり奥歯に近い歯と擦れ、切れ味が悪くならないよう常に研がれる構造になっているのだ。

主食は果物や種子など植物で、札幌市丸山動物園のwebによると大人のオスで1日3.5kgほどを食べ、食費は1頭当たり1,000円ほどのリーズナブルな生活を送っている。

鋭利な犬歯など不要な生活に見えるが、野生のチンパンジーはかなりえげつない嗜好（しこう）の持ち主なのだ。

チンパンジーは時に、ほかの哺乳（ほにゅう）類を集団で襲って食べる。中でも好物はアカコロブスと呼ばれるサルで、捕獲量の80%を占めているのだ。

また、ライオンで有名な子殺しもおこない、新たにボスの座に就いたオスは、前ボスの子を殺し血脈を断つ。

ここまでは自然の摂理なのだろうが、時にはその子を食べるというから、いったい何がしたいのか分からない。

京都大学・霊長類研究所の資料によると握力は300kgにも達するとされ、強い腕力と相まって猛獣にふさわしく、管理や接し方に注意が必要とされている。

同じ霊長類だけに親近感を感じていたが、ハンニバル・レクター顔負けの共食い好きと知れたら、子供に見せたくない動物ナンバー1に指定される日が来るかもしれない。

■まとめ

子供のころ「野生の王国」というTV番組が好きだった。時には残酷なシーンも含まれていたが、人間の世界とはルールが違うことを子供ながらに学べた気がした。

動物の容姿や仕草がかわいいと思うのは、人間の作り出した幻想にすぎない。人間の尺度を自然に持ち込むと、痛い目にあうのでご用心を。

(関口　寿/ガリレオワークス)