女子アームレスリング世界王者・竹中絢音、10歳で誓っていた世界一「私の場合、出力は最初から100%」
10歳で「世界一になる」と父の前で宣言してから、16年。女子アームレスリング世界王者・竹中絢音は今、26歳。父との二人三脚で重ねたトレーニング、号泣した敗戦、欲張りな勝ちパターン――。卓上の格闘技で世界の猛者を凌ぐ彼女の現在地を直撃した。(前後編の前編)
――まずアームレスリングを始めたきっかけから教えてください。
竹中 小学3年生の頃、父がアームレスリングの大会に初めて出ることになって、家族で観に行ったんです。その翌年か翌々年ぐらいに私も出場しているので、父が本格的に競技を始めるタイミングで私も一緒にやり始めました。
――当時はどんなお子さんでしたか?
竹中 スポーツは特にやっていなかったですし、めっちゃ普通でした(笑)。ただ、負けず嫌いなのは元の性格としてあったので、できるものはとことんやり込むタイプではありましたね。例えば、漢字とか計算ドリルってあるじゃないですか。先生からは「2周はやりましょう」って言われていたのですが、5、6周やっていました。目に見えて結果が分かるものは好きでしたね。
――お父さんに連れられて観に行った大会は、どんな印象でしたか?
竹中 予備知識ゼロで、ただただ「腕相撲だな」という感覚で見に行きました。でも大人がスポーツに本気で打ち込んでいる姿ってあまり見ないじゃないですか。みんなが全力で戦う様子を見て、楽しそうだなと思いました。
――その「楽しそう」から、いきなり「世界一になる」と宣言したそうですね。
竹中 うちの家族って、「やるならとことん」という教訓があるんです。私が「やる」と言い始めたときに、父から「じゃあ目標は? どうなりたいの?」と聞かれて、「世界チャンピオンになる」と答えていました。子どもの頃って、根拠ない自信ってあるじゃないですか。多分それですね(笑)。
――最初の頃のトレーニングはどのように?
竹中 設備もまだ揃っていなかったので、父が使っていた20キロのダンベルを、両手で持って持ち上げていました。「今日は上がるかな」と試すぐらいから、安定して上がるようになって……という感じで段階を踏んでいきました。子どもの頃は成長も早いので、次にやるときにはできるようになっていることが多くて、辛いとかは全然なかったです。
――そして小学5年生で、初の大会。
竹中 愛知県大会が最初です。実は父の大会にみんなで観に行ったんですけど、私がトレーニングしていることを仲間内に知られていたので、主催者のほうから「じゃあ娘も出してみれば?」と言われて、当日出場が決まったんです。
――その結果は?
竹中 社会人女性の部で3位でした。同級生や周りの小学生にはまったく負けたことがなかったので、3位という結果に「あ、私が負けるんや」「大人は普通に強いんだ」と分かった大会でした。
――ちなみに、学校でも腕相撲をしていたんですか?
竹中 休み時間にやっていました。「他のクラスのあの子、強いらしいよ」という噂を聞きつけたら、その子を呼び出したり、こっちから出向いて勝負したり。
――アームレスリングで「ここが強いと勝てる」というポイント明確にあるのでしょうか?
竹中 パワーじゃないですか。中でも一番使う筋肉は背中と言われています。腕より背中のほうが大きい筋肉で、出力も大きい。腕は、そのパワーをどれだけ伝えられるか、連動させられるかという“つなぎ”なんです。
――試合相手の手を握った瞬間、実力は分かるものですか?
竹中 大体は分かります。ただ、何かスポーツ経験がある方とか、力よりも瞬発力が優れている方がいるので、握っただけでは分からない強さもあります。
――そこからの戦い方、駆け引きについても聞かせてください。
竹中 大きく分けると、自分の100%の力を相手にぶつけたい方と、相手の出力を下げることを優先する方がいると思います。でも私は欲張りなので、自分が100%当てつつ、相手の力も出させない試合の運び方です。
――その出力を支えている今のトレーニングは、週どのぐらいですか?
竹中 週6、7です。でもアームレスリングで使う部位ってかなり限られているので、1回1〜2時間で終わります。
――試合前に必ずやるルーティンがあれば教えてください。
竹中 自己暗示をかけまくります。試合前はメンタルが追い込まれていくので、直前まで「勝てる、勝てる、勝てる」と言い続けていて。あとは深呼吸をして自分を落ち着ける、というのを前日から繰り返しています。
――そこまで自分を追い込んでも、思うようにいかない試合はあるのではないかと思います。競技人生のなかで、悔しかった試合はありますか?
竹中 2年前のプロのタイトルマッチです。トーナメントと違って、タイトルマッチは1人のチャンピオンと7本やって、4本取ったほうが勝ちなんです。同じ相手と休憩もあまり取らずに戦い続ける、自分の体力やスタミナがすべて見える戦い。そこで自分の見えていなかった弱さがすごく分かって、舞台を降りた瞬間に号泣しました……。
――その悔しさは、どう乗り越えたんですか?
竹中 変わらず、同じトレーニングですね。それでしか強くなれないと思います。
――鍛え上げられた身体のパーツの中で、自慢できる場所を教えてください。
竹中 形が綺麗だと思っているのは、上腕二頭筋。一方で、競技をやっていない方から見ていびつに見えるというか、競技特性が出るのは前腕です。手首を動かすときによく使うので、普通にトレーニングしている方とはまた違う筋肉のつき方ですね。以前測ってみたら前腕が30センチ、上腕が35センチぐらいでした(笑)。
▽竹中絢音(たけなか・あやね)1999年6月29日生まれ、26歳。岐阜県出身。身長156センチ。U.A.G TOKYO所属のプロアームレスラー。10歳で競技を開始し、中学3年で全日本王者、世界ジュニア2連覇、2023年にはWAF世界選手権シニア女子-55キロ級で世界一に輝く。全日本選手権の男子A2-60キロ級で女子として優勝した経歴も持つ。
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