「水平線のうた」に出演する阿部寛

主演・阿部寛が語る“震災を描くドラマ”への思い「多くの方に伝わると、ドラマの力を信じています」<水平線のうた>

2025.03.01 19:00
「水平線のうた」に出演する阿部寛

3月1日(土)、8日(土)に前後編で放送する土曜ドラマ「水平線のうた」(土曜夜10:00-10:49、NHK総合)。本作は宮城・石巻市と女川町を舞台に、主演・阿部寛、原案・音楽を作曲家の岩代太郎、脚本・港岳彦、演出・岸善幸で描く“音楽を通していとしい人の思いをつなごうとする”人々のヒューマンドラマだ。

WEBザテレビジョンでは、震災で妻子を失った主人公・大林賢次を演じる阿部寛にインタビューを実施。作品への真摯(しんし)で深い思いを語ってもらった。

涙のシーンは慎重に考え演じました

――最初に台本を読んだ時の感想をお聞かせください。

最初に脚本を読んだ時は正直、(賢次が)めそめそしすぎじゃないかと思ったんです。芝居の中で悲しみを表現する際に、涙することよりも、涙をこらえていることの方が悲しみの深さが視聴者に伝わるという過去の芝居での経験があって。監督にその部分を質問すると、「震災後13年(※撮影当時)経っているけれど、震災を経験した大人はその悲しみをずっと忘れることができずにいる。そんな中、震災後に生まれた子や震災の時には記憶がないくらいに小さかった子たちは悲しみを抱えた大人にある種の“そういう空気”を押し付けられているんじゃないか。本人たちは普通に生きていきたいんだけれども、すでに重い空気の中で育っていて、前を向いて生きていけないといういうことがあるのではないか」とおっしゃっていて。

僕はそれを聞いた時に、今回の話の中でりら(白鳥玉季)という女子高生の目線から見た僕の役というのは、悲しみや痛みを忘れられずにずっと苦しんでいる姿を若い世代に見せてしまっている、そういうことの表現の一つだと理解しました。なるほど、と。

――賢次を演じる上で大切にされたことを教えてください。

やはり涙のシーンに関しては慎重にやりたいと思っていましたので、監督と相談しながら演じていきました。人が悲しい時にこらえている姿というものが悲しさの表現として一番見て下さる方の心に届き、動くのではと思っていたのですが、今回の作品は自分自身でも勉強になって、また違う考えになりましたね。

現地で取材をさせていただき、この作品に挑みました

――東日本大震災の時は、阿部さんはどちらにいらっしゃいましたか?当時の記憶をお聞かせください。

東京にいて、次の日から海外での撮影があるという時でした。ちょうどスポーツクラブから出て来て、コインパーキングに向かうところで地震が発生しました。おそらく地震を経験したことのない国の方だと思うんですが、外国の方がパーキングに逃げて来て、周りのビルが揺れているのを本当に恐怖の表情で見ていたのを覚えています。“earthquake(地震)”と伝えました。その時はまだ正式な情報も入って来ず、これほど大きな震災になるとは思っていませんでしたね。

次の日から撮影でイタリアに行きましたが、その時に現地のエキストラの方から「大変なことになってるぞ」と彼らから状況を聞き…どんどん被害の状況が明らかになっていきました。

――被災地に行かれた経験などはありますか?

震災後、岩手・陸前高田に行かせていただき、落ちている写真などを拾ってケースに入れる作業をしていました。その後何年か経ち、陸前高田に行くととても静かな感じになっていて。家も建ち直っておらず、まだまだ終わっていないんだと感じましたね。今回再び訪れましたが、公園などもできて整備がされていたんですが、まだ“静けさ”のようなものを感じて何とも言えない気持ちになりました。

今回、被災地の方々にお話を伺うと、僕がいくら想像しても分からないようなことがいろいろと起きていたんだと。お話を聞かせていただきすごく複雑な感情になりました。そのように取材をさせていただき、それを胸に今回のドラマに挑んでいます。

――震災をドラマで描く意義についてどのように感じられていますか?

今回の作品は、白鳥さん演じるりらの目線だったと思うんですよ。その目線ってすごく大事だなと。若い世代が大人たちに対してどう思っているかという目線は、僕はすごく新鮮でしたし、若い世代や苦しんでいる方々含め、多くの方に伝わるのは今回のようなドラマなんじゃないかなと思ったので、その力を信じています。

ドラマだということを忘れていました

――後編では賢次が音楽会をレインボーシアターで開きますが、そのシーンでは地元でレインボーシアターを実際に運営する支配人の遠藤さんとの場面が登場します。ドラマの中でドキュメントスタイルで描かれていますが、このシーンはいかがでしたか?

ドラマだっていうことを忘れてましたね。震災での経験をご本人から聞くということはすごく衝撃的なことでしたし、遠藤さんの目を見て、遠藤さんが経験なさったことを出来る限り受け止めるようにしたいと思って演じました。

――特に印象的だったことはありますか?

遠藤さんの顔ですね。ドラマの中で遠藤さんとご一緒していますが、せりふじゃない会話を交わすということはすごいなと思ったんです。ドラマをやりながら、こうして遠藤さんと会話をしているという…遠藤さんの目の繊細な感情の動きと、ご自分が経験されているその深さと、僕を見るまなざしの真っすぐさを感じました。なので僕自身も、ここは演技じゃなくていいんだ、と思ってやれたんだと思います。

――最後に阿部さんの中で、ここは見てほしいというシーンを教えてください。

賢次が主催となって演奏会を開くシーンですね。町の方たちがエキストラで出てくださって。そこで50人くらいの方たちと触れ合うシーンがあるんですが、皆さんが本当に涙していて、会場が一体となるような…音楽の力を感じさせる、その力ってすごいんだなと思えるシーンでした。

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