映画を潰そうと本物のマフィアが襲撃、命懸けの現場だった「ゴッドファーザー」舞台裏を再現ドラマで振り返る<ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男>
イタリアンマフィアの存在を世界的に知らしめた映画「ゴッドファーザー」の舞台裏をドラマ仕立てで描いた「ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男」(毎週日曜夜7:00-9:20)が、1月12日(日)からBS12 トゥエルビ(BS222ch、全国無料放送)にて、2話連続放送を開始する。無料BSでは初放送。1972年に公開され、いまなお映画ファンを魅了し続ける名作「ゴッドファーザー」はいかにして生まれたのか。さまざまなエピソードが収録された興味深いドラマ内容に迫る。
稀代の傑作「ゴッドファーザー」は低予算スタート、プロデューサーに吹き荒れる逆風
稀代のマフィア映画としてアカデミー賞作品賞を受賞し、世界的大ヒットとなった「ゴッドファーザー」。リッチに浮かぶ世界観は今見ても惚れ惚れするものだ。だが、スタート地点は低予算で作る映画だったことは監督のフランシス・フォード・コッポラが後に回顧している。
会社側の案ではセットの予算を削るために原作の1940年代再現ではなく、現代のニューヨークを舞台にする方針であったともいう。それがいかにして半世紀を超えても評価される大作へと生まれ変わったのか。本作は、そんな「ゴッドファーザー」が映画化に至った経緯から大ヒットするまでを再現ドラマとして描いた波乱万丈のエンターテイメントだ。
ドラマの主人公は、映画製作の中心となったプロデューサー、アルバート・ラディ(マイルズ・テラー)。映画製作への強い情熱から業界へ飛び込んだプロデューサーのラディは、経営難にあったパラマウント・ピクチャーズで、ベストセラー小説「ゴッドファーザー」の映画化という大任を与えられる。しかし、パラマウント・ピクチャーズの要求は「400万ドルで作れ!」(現在の価値で約14億円)というもの。
ラディは製作部長ロバート・エヴァンス(マシュー・グード)、製作助手ベティ・マッカート(ジュノー・テンプル)らのサポートを受けながらスタッフやキャスト集めに奔走するが、それは想像を絶する茨の道だった。
本物のマフィアに襲撃されるスリリングすぎる舞台裏
「ジ・オファー」で明かされるのは、映画「ゴッドファーザー」の製作は、まさに“事実は小説より奇なり”であったこと。本作がヒットしなければクビという瀬戸際に立たされていたラディはどうにか撮影を成立させようと躍起になるが、予算はもちろん、四方八方で問題が山積みになっていく。「ゴッドファーザー」の作者であるマリオ・プーゾ(パトリック・ギャロ)は、映画の脚本を3日で書くと豪語するが、言葉とは裏腹に執筆は遅々として進まない。
監督と脚本を務めることになったコッポラ(ダン・フォグラー)は、まだ大作を手掛けた経験がないうえに、ヒットに恵まれず借金を抱える若手監督だ。しかし、会社側が求める商業的映画ではなく、芸術的映画を撮りたいのだとこだわりは強い。さらに、映画製作に反対するイタリア人団体からの抗議活動。小説におけるマフィアの描写を不快に思うマフィアたちが映画を潰そうと、ラディを襲撃するという事件も発生する。
文字通り命懸けだった舞台裏で、第1話から暗雲が漂いまくる。製作部長エヴァンスも良質な映画を作り出すことへのこだわりが強く、会社の利益を最優先する会長補佐バリー・ラピダス(コリン・ハンクス)と対立するなど、製作・撮影現場は進むほどに逆風にさらされる。結局、予算もスケジュールもオーバーしていく流れ。こうしたエピソードを知るにつけ、映画「ゴッドファーザー」がいかに苦労と奇跡を重ねて誕生したのかと驚くほかない。
俳優のギャラ事情も知れる、1970年代のハリウッド事情も興味深い
映画製作の裏側だけでなく、ラディたちの姿を通して70年代ハリウッドの空気を味わえるのも「ジ・オファー」の魅力だ。今なら倫理観を問われそうなエヴァンスの奔放な女性関係。マフィアと関係があったと噂された世界的人気歌手フランク・シナトラと原作者プーゾとの確執。ベストセラー小説の映画化の権利を巡る企業間の争い。ハリウッドというきらびやかな世界も、裏側を覗いてみれば生き馬の目を抜くような愛憎や闘争が渦巻いていることが色濃く描かれる。
また、ラディやエヴァンスらの会話の端々には当時の俳優名や作品名が登場する。「明日に向かって撃て!」(1969)のロバート・レッドフォード、「サンセット大通り」(1950)のグロリア・スワンソン、「アパートの鍵貸します」(1960)のジャック・レモン、「脱出」(1972)のバート・レイノルズなど、小話から彼らのギャラ事情や映画業界での立ち位置などを窺い知れるのも面白いところだ。
ラディらの尽力の末に完成した「ゴッドファーザー」は世界的大ヒットとなり、製作に関わった人たちの人生を大きく変える作品にもなった。世界的に名を広めた監督のコッポラ。マフィアのドン、ヴィトー・コルレオーネ役を演じたマーロン・ブランドは、落ち目の烙印を払拭し見事に復活。コルレオーネの息子役を演じたアル・パチーノはまだ無名の役者だったが、本作で一躍名を挙げる。その後、彼らは米映画界を牽引するレジェンドへと飛躍を遂げていった。
ラディ自身も「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)でアカデミー賞作品賞を受賞するなど、その後もヒットメーカーとして活躍。本作「ジ・オファー」では製作総指揮に名を連ね、「ゴッドファーザー」製作現場の生き証人としてドラマに圧倒的なリアリティーをもたらしている。2024年に94歳で逝去した彼の遺作となったのは、自身の人生を変えた名作「ゴッドファーザー」を題材にした「ジ・オファー」であったのだ。
「ジ・オファー」で世界的名作の“答え合わせ”をするのも一興
BS12 トゥエルビ「土曜洋画劇場」(毎週土曜夜7:00~)では本作に先がけて、1月11日(土)に「ゴッドファーザー」、18日(土)に「ゴッドファーザー PART II」、25日(土)に「ゴッドファー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期」を放送する。「ジ・オファー」で答え合わせをすることで、「ゴッドファーザー」への興味もより深いものになるはずだ。
マフィアを“家族の愛と確執の物語”という新しい視点で描いた同シリーズは、荘厳にして抒情的な主題歌「ゴッドファーザー 愛のテーマ」と共に、半世紀を経てもなお映画史に燦然と輝く傑作としてファンを魅了し続けている。
◆文=豆山しば
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