星野真里「若い頃は世界が狭まって見えていた」年を重ねて見つけた開放された自分

──本作のオファーを受けた際の心境を聞かせてください。

星野　原作が本当に素晴らしすぎて、「この世界に入っていいんだ」「こんなに素敵な女性を演じさせていただけるんだ」と、原作を読んだイメージの先に、私の顔を思い浮かべていただいたことが、本当にたまらなく嬉しくて、是非ともやらせていただきたいと思いました。

──実際に作品に参加してみて、改めて感じたことはありますか。

星野　好きな人が、“好きな人”なだけではなく、それ以前に“心を許せる親友である”ということに「すごく難しいかも」とふと立ち止まった瞬間がありました。きっと何でも悩みを打ち明けられたり、色んなことを相談できたりする相手だけど、自分は彼女に対してときめいてしまっている。

　その部分を隠さなくてはいけない、ということを桜はどうやって整理してきたんだろうと考えると、「大変なことをやらなくてはいけないんだ」って。実際に現場で加藤さんとお芝居をさせていただく中でどんどんとその沼にはまっていって、複雑さに戸惑った瞬間もありました。

──本作の記者発表会では、星野さん自身が学生時代の恋で猛アタックをしたという話も出ていました。桜の内に秘めた恋心とは対照的ですよね。

星野　そう、私はそれができないんですよ。すぐに白黒はっきりつけたがる性格なので、秘める恋はとても難しいです（笑）。恋をする気持ちはすごく分かるし、色々な願望もきっとあるはずだと思いますが、桜はそれよりも萌音と一緒にいる時間を選んだのかもしれません。それでも萌音の結婚という大きな出来事があって、そのバランスが崩れてしまったんだと思うので、難しいです。

──萌音が結婚した後、シングルマザーとなった桜の心情を星野さんはどう想像しましたか。

星野　桜という女性は「大切だ」と思ったものを本当に大切にできる人だから、萌音に対する思いにふたをしてしまったその時期はとても辛かったと思います。でも子どもに出会えた瞬間からは、自分の愛情を注げる相手ができて、一緒にいられる幸せを感じながら生きてきたんじゃないのかなと想像しました。

──本作は、萌音に対する桜の恋心だけでなく、親子間の愛情、家族愛がしっかり描かれた作品だと感じました。

星野　そうなんです。この作品を紹介する時にはどうしても“同性に対する恋心”というものがフィーチャーされがちなんですけれども、特別にそこをフィーチャーしたいというわけではない。そもそも企画の段階で、色々な心、感情、それぞれが持つ揺れを描きたいというものでした。

　原作もそうですし、ドラマの脚本にした時も、それぞれの気持ちが丁寧に描かれています。“家族愛”と言葉にした時にイメージするような家族ではないかもしれないけれど、物語を見てもらえれば「これは家族愛以外の何者でもないよね」と思っていただけると思います。その言葉の持つイメージを、良い意味で裏切ってくれるような世界だと思いました。

──お芝居の世界では実際にはお子さんがいらっしゃらなくても母親役を演じることもあるかと思いますが、星野さんご自身もお子さんがいらっしゃる立場だからこそ生まれるリアリティもあるものですか。

星野　いかに想像できるかというところだと思いますが、リアルに感じる色々な感情は想像をはるかに超えることが多くて、だからこそこの役をやりたいと思いましたし、“本当に大切なものを大切にできる人”を演じる上で「今の私ならその感覚がきっとどこかにある気がする」「どこか共鳴できるところがあるかもしれない」と思えたので、少なくとも私の場合は、リアルとどこか繋がっていると思います。

──今井柊斗さん演じる息子・透輝が恋人を家に連れてくるシーンは、“母親”として複雑な感情になることもあったでしょうか。

星野　大切にするとしても別に所有したいわけじゃないんです。大切な人が生き生きと楽しそうに生きてくれるということが桜にとっての幸せだと思います。だから萌音に対しても、自分の恋心や欲求はあったとしても、萌音には笑っていてもらいたい。大切なものの大切にし方が、桜はすごく優しいんですよね。

　だからその人が発する新しい行動なり思いなりに対して、きっと抵抗はないし、それごと「良かったね」と言えるのかなって。だから私の感覚では、「この子がときめいたんだ！」とむしろ嬉しい。その彼女が萌音の娘だったということに対する嬉しさもどこかにきっとあるんですよね。良いと思うものが好きな人と一緒だと嬉しい、みたいな感覚もあったのかな、なんて思いました。

──キャスト発表時の「戻りたい過去があるわけではなく、もはや辿り着かなくてはいけない未来もありません」という星野さんのコメントが印象的でした。

星野　よく「いつに戻りたいか」という話をしたりするじゃないですか。戻ったらもう一度大変な思いをしなくちゃいけないので、今がいいと思っています（笑）。それに、若い頃は何歳までに結婚して何歳までに子どもを産んで、何歳くらいにこのくらいのキャリアで、というように自分でリミットを作ってしまうようなところがあったんですが、実際にその年齢になってみると、「なんでそんなこだわりがあったんだろう」って。そう思い込んでたからこそ、世界が狭まって見えていたことがあるんだと感じることも多いです。

　年を重ねたことでどんどんそういうものがなくなって、思い込みから少しずつ開放されている今の私が、今回の物語に関われるということに、運命的なものを感じました。もちろん目標を持つことはそこに向かう原動力にもなるので、それはそれでいいんですけど、そうしなくちゃいけないわけじゃない。「今したいからしよう」みたいな心の持ちように変わってきている気がします。年は重ねてみるものですね（笑）。

──最後にドラマを楽しみにしている方に向けてメッセージをお願いします。

星野　ドラマのあらすじを文字で見て想像する内容と、実際にこのドラマを見ていただいた場合とで、ギャップに驚かれるんじゃないかなと思うんです。今回のテーマに限らず、ネガティブな要素を持っている色々な言葉も、見るこちら側の心持ちを変えれば、もしかしたらそこから広がる世界がすごく変わるのかもしれない。もっと世界を温かく見られるような、そんなきっかけになる登場人物、ストーリー、音楽が詰まっている作品です。寒い冬にぴったりなので、見て温まっていただきたいなと思います。

『きみの継ぐ香りは』毎週金曜よる9時25分より放送中（TOKYO MX）出演：星野真里　加藤ローサ　今井柊斗　滝澤エリカ　朝日奈まお　池田良　武田航平　/　原日出子配信情報：民放公式テレビ配信サービス「TVer」にて2週間無料見逃し配信HP：https://s.mxtv.jp/drama/kimitsugu/X：＠kimitsugu_mxInstagram：@mx_dramaniaTikTok：@mx_dramania