<SHOGUN 将軍>宮川絵里子P、真田広之の“心の広さ”に感動「イライラしているところを見たことがありません」
「第76回エミー賞」で史上最多の18冠を達成した真田広之主演の戦国スペクタクル「SHOGUN 将軍」が、11月16日(土)から8日間、全国の一部映画館にて第1、2話が劇場公開される。それを受けてWEBザテレビジョンでは、長年海外で活躍している同作のプロデューサーの1人・宮川絵里子氏にインタビューを実施。作品が大ヒットした要因や制作の裏話、俳優としてだけではなくプロデューサーとしても作品を支えた真田と組んで感じたことなどを語ってもらった。
同作は、1980年にアメリカで実写ドラマ化されたジェームズ・クラベルのベストセラー小説「SHOGUN」を新たに映像化。1600年代の“天下分け目の戦い”前夜の日本を舞台に、真田演じる戦国最強の武将・吉井虎永、伊豆網代に漂着したイギリス人航海士ジョン・ブラックソーン(のちの按針/コズモ・ジャーヴィス)、ブラックソーンの通訳を務めることになったキリシタン・戸田鞠子(アンナ・サワイ)らが直面する陰謀と策略を描いた物語だ。
エミー賞18冠に「まだ、夢覚めやらぬといった感じ」
――「エミー賞」18冠受賞、おめでとうございます。周囲の反響はいかがですか?
日本でもいろいろなメディアで取り扱ってくださって、祝福の言葉もたくさんいただきました。日本のキャストの皆さんとロサンゼルスの会場で受賞の瞬間に立ち会えるなんて、とんでもない経験をしてしまったなと。まだ、夢覚めやらぬといった感じで本当にうれしいです。
――世界各国で支持されている要因はどんなところだと受け止めていますか?
アメリカはもちろん、モンゴル、ベネズエラ、ヨーロッパ、台湾など、世界中から高い評価を受けてありがたく思っています。多くの方たちの心を動かしたベストセラー小説を原作にジャスティン・マークス主導で制作が行われ、主演でありプロデューサーの1人でもある真田広之さんをはじめとする日本人キャストやスタッフ、そしてカナダの撮影スタッフたちと力を合わせてディテールまでこだわったものが一つの形に。さらに、たくさんの奇跡が重なって、そこからどんどん大きく広がっていったような感覚です。
――今回の作品に参加するまでにはどんな経緯があったんですか?
私は、もう20年くらいハリウッドだったり日本の要素がある海外の作品を専門にやってきて、最初はクエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビル」で通訳として参加。そこから、コーディネーターやスーパーバイザーなどを経て、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙 -サイレンス-」で共同プロデューサーという肩書を頂きました。それが大きなステップアップとなって、今回の「SHOGUN 将軍」につながったのかなと思っています。
――「SHOGUN 将軍」のプロデューサーとしては、どんな役割だったんですか?
いろいろなことをするのでなかなかうまく説明できないんですけど(笑)、日本側のことをまとめたり物事を前に進めたり。クリエーティブな面では脚本周りや時代考証のサポート。日本人キャストやスタッフの労働環境を整えることもありましたし、監修やマーケティングのフォローなどもやっていました。
プロデューサー・主演の真田には「頭が上がらない」
――主演を務める真田さんもプロデューサーとして参加されていますが、ご一緒にお仕事をされた感想はいかがですか?
頭が上がらないと言いますか、たくさんのことを学ばせていただきました。ハリウッド作品だと主演の方もプロデューサーの肩書をもらうケースがよくあるんです。でも、真田さんの場合は肩書だけではなく毎日現場にいらっしゃって、撮影の最初から最後までずっと立ち会っていたんです。1シーン、1シーンモニターで細かくチェックをされて、ずっと作品にかかりっきり。
主人公を演じないといけないのでものすごくたくさんのものを背負っているにもかかわらず、現場でイライラしているところを一度も見たことがありません。スタッフ全員に声を掛けて、時には冗談を言って現場の空気を和ませたり。とても心が広い方なんだなと感動しました。
――真田さん自身がハリウッドで活動していたということも大きかったんでしょうか?
それはあったと思います。ハリウッドのやり方やシステムを理解されているからこそ、日本の文化のことを考えながら折衷案を出して問題をクリアにしたり、うまくバランスを取ることができる。5歳の頃から子役として活躍されていて時代劇の経験も豊富ということで、作品にとって一番いいことを考えられる点がすごいなと。できるだけ近くにいて、いろいろなことを吸収しようと思いました。
俳優・真田は「あらためてスターならではのオーラを持った方」
――吉井虎永を演じる“俳優・真田広之”は、どのように映っていましたか?
プロデューサーのときの真田さんはスタッフの一員として、撮影現場の寒いテントの中でモニターを見ながらいろいろなことを細かくチェックされていて、みんなの中に溶け込んでいるんです。でも、虎永としてカメラの前に立った瞬間にパッと光り輝くというか、あらためてスターならではのオーラを持った方なんだなと感じました。
主演としてクリエーティブに作品を引っ張ってくださいましたし、プロデューサーとしても前向きな姿勢でスタッフを支えていただいて。真田さんがいたからこそみんなの気持ちが盛り上がって、それが作品にとってプラスになったような気がします。
――主役・脇役問わず、多くの日本人俳優が出演していますが、キャスティングで工夫した点はありますか?
5年、10年くらい前のハリウッド作品だと、英語を話す必要がない役でも現場での利便性などを考えて英語がしゃべれるロサンゼルス在住の日本人や日系人俳優がキャスティングされる傾向が強かったんです。今回は、ジャスティンが日本のプロダクションの役者さんが演じるのがベストだと考えていて。日本で大々的にオーディションを行うことができました。
ジャスティンは日本人俳優に関する基礎知識がないから、純粋に自分が書いた役に合った人を選んでいく。その過程は非常に面白かったですし、参加された日本の俳優さんたちにも刺激的だったんじゃないかなと思います。
――ハリウッドや海外の作品における日本の描き方が変わって来たという実感はありますか?
それは、すごく感じています。最近はハリウッドでも、普段スポットライトが当たらないような文化や人々を題材にするときはちゃんと本格的に描かないといけないという雰囲気になっていて。「SHOGUN 将軍」はそういう時代の流れに重なることができたし、ちょっと先を行ってさらに引っ張ることができたんじゃないかなと。それが認められたということは大きかったような気がします。
宮川Pの転機は「沈黙 -サイレンス-」
――そういう意味ではエンタメとしての1つのターニングポイントになったのかもしれませんが、宮川さん自身にとっての転機は何ですか?
やっぱり「沈黙 -サイレンス-」でのプロデューサーとしての経験値がなかったら「SHOGUN 将軍」でもここまで機能できていなかったと思うんです。だから、この2本は私のキャリアにとっても大事な作品になりました。
――ちなみに、日本の映画はどんなジャンルが好きですか?
何でも見ますけど、作家性が強い作品に惹かれます。是枝裕和監督、北野武監督、三池崇史監督の作品は独特の視点とスタイルがあって面白いですよね。
――今後、携わってみたい作品はありますか?
今は台湾、シンガポール、マレーシア、インドネシアといった日本とも近いアジアの国々に興味があって。何か面白いことができたらいいなと考えています。
――「SHOGUN 将軍」のシーズン1を見た人たちにとっては続編が待ち遠しいと思うんですけど、次回作の構想などはありますか?
世界中で盛り上がってくださっているみたいですごくうれしいです。内容に関してはまだお話できないんですけど、シーズン1の脚本家チームが再結成して、今まさに書いている段階。シーズン1で原作の最後の1ページまで使い切ってしまったので、シーズン2は前作をベースに完全オリジナルストーリーになる予定です。時代考証のリサーチもさらにしっかりとやっていて、きっとシーズン1を超えるものになるだろうと私自身も楽しみにしています。
――今回の大ヒットを受けて、劇場で1話と2話が上映されることになりました。大きなスクリーンで見る際に「序盤のここを見逃さないで!」というポイントを教えてください。
映画館ならではの大きな画面と音響システムを楽しんでいただけたらうれしいです。音に関しては刀を抜いたり、収めたりするときや着物を着た女性が歩くときの足音などが違和感なく自然と耳に入ってくるので、すんなりと物語の世界観に入り込めると思います。
「SHOGUN 将軍」第1、2話の劇場公開は11月16日(土)から11月23日(土)まで、ディズニープラスのスターでは全話独占配信中。
◆取材・文=小池貴之
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