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大ヒットホラーゲームから生まれた台湾映画「返校 言葉が消えた日」のホラーの枠におさまらない魅力とは
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台湾の名作映画を紹介する上映イベント「TAIWAN MOVIE WEEK」が10月に開催されるなど、近年盛り上がりを見せている台湾映画をWEBザテレビジョンでも特集。今回は、注目すべき台湾映画の過去の名作をクローズアップし、大ヒットホラーゲームから生まれた映画「返校 言葉が消えた日」を紹介する。台湾史の暗黒部である”白色テロ”時代を舞台にした本作品がもつ、ホラーという枠におさまりきれない多面性のある魅力にせまりたい。
廃墟のような夜の学校で、悪夢に閉じ込められた2人の運命は
時は1962年。台湾では蔣介石が率いる独裁政権が戒厳令を敷き、政府に従わない反体制派を弾圧していた。いわゆる、“白色テロ”の時代だ。
教官と呼ばれる人物が所持品や服装の乱れなどに監視の目を光らせるなか、男子生徒のウェイ・ジョンティン(ツォン・ジンファ)は、学校の備品室でひそかに開かれている読書会に参加している。政府に禁じられた書籍を、読んだり書き写したりする会だ。自由が罪になる抑圧された世界では、それは知られてしまえば死刑の対象にもなりうる危険な行為だった。
場面は急転、ジョンティンが逆さに吊るされ、水のなかに窒息寸前まで頭を沈められる拷問のシーンとなる。「僕を苦しめたのは、憲兵の拷問ではなく、襲ってくる悪夢のほうだった」という独白の通り、拷問で痛めつけられて意識を失った途端にジョンティンは悪夢へと閉じ込められてしまう。
ジョンティンが意識を失うのと呼応するように、女子学生のファン・レイシン(ワン・ジン)は異様な空気が立ち込める学校の教室で目を覚ました。教室は暗く、荒れ果てており、廃墟のようなありさまだ。レイシンは蝋燭に火を灯して校内をさまよううちに、同じく悪夢に閉じ込められているジョンティンと出会う。
2人で学校からの脱出を試み、恐ろしいクリーチャーから逃げ、先生や仲間を探して校内を探索するうちに、やがてある真実にたどりつくのだが……。
台湾でも忘れられつつあった”負の歴史”に光をあて社会現象に
本作は、台湾でつくられ大ヒットしたホラーゲーム「返校 -Detention-」を原作としている。ゲームは社会現象とも称されるような大きな反響を呼び、映画だけでなく、小説やテレビドラマも制作された。
ここまでの大ヒットになった要因の1つは、台湾国内でも忘れられつつあった“白色テロ”という歴史の暗黒部を背景にしたという点にある。1987年に戒厳令が解除されるまで約40年にわたって続いたこの政治的な弾圧で、諸説あるものの数万人もしくは10万人以上が政治犯として逮捕され、数千人が処刑されたという。
映画でも冒頭で「スパイ告発は国民の義務。匿う者は同罪となる。思想の扇動は厳罰に処す。反逆者には死刑あるのみ」と放送が流されていたように、当時はスパイの告発が推奨されていた。そのため、冤罪で処刑された人や、拷問に耐えかねて無実の人間に罪を着せてしまった人なども多くいたといわれている。また、戒厳令の解除後も長く影響が残ったこともあり、”白色テロ”への恐怖の念や、友人らを売ってしまった後悔の念などから、経験が十分に語り継がれないまま次第に風化しつつあったのだ。
「返校 -Detention-」は、負の歴史にスポットライトをあてたことで、ゲームやホラーに興味がない層からも注目を浴びて、大きなヒットとなったのである。本作「返校 言葉が消えた日」も公開から3日で興行収入が2億円を突破し、2019年度の台湾映画No.1ヒット作となった。また、台湾のアカデミー賞と称される映画賞の第56回金馬奨では12部門にノミネートされ、5部門で受賞に輝いている。
青春の煌めきも謎解きもー、ホラーだけではない多面的な魅力
本作は「ダークミステリー」と銘打たれていることが多い。ホラーゲームであった「返校 -Detention-」を映画に翻案するにあたって、いろいろな工夫が行われた結果だろう。
ゲームではプレーヤーは不気味な夜の学校の脱出を目的とし、ほとんど何の情報も与えられないまま、学校を探索し、謎を解きながら徐々に状況を把握していく。だが、本作では冒頭で“白色テロ”の時代が舞台であること、禁じられた読書会が開かれていること、ジョンティンが拷問を受けていることから読書会のことがばれたのであろうことなど、情報が矢継ぎ早に提示される。そして、レイシンとジョンティンがなぜ廃墟のような学校に閉じ込められているのか、読書会に何が起きたのかという謎の解明を軸にストーリーは進んでいく。
ゲームよりも政治的な時代背景をクローズアップしていることもあり、台湾のあまり知られていなかった歴史のダークサイドを描いた「ダークミステリー」であるということも確かにできるだろう。そして、荒廃した夜の学校に閉じ込められるという設定、次々と起こる怪異、恐ろしいクリーチャーたちからの逃走など、間違いなく「ホラー」でもある。
また、処刑される危険性と隣り合わせの状況で開かれている読書会の様子は、ひそやかで、でもにぎやかで、刹那的な美しさもある。抑圧された状況下でも人は笑ったり、恋をしたりするのだという点でも、「青春もの」もしくは「奪われた青春もの」という見方も可能だ。もちろん、“白色テロ”のことを描いた「社会派ドラマ」であり、「歴史もの」でもあるだろう。1つのジャンルにとらわれない多面的な魅力が本作にはある。
そして何より、“恐怖”にも多面性をもたせていることが印象深い。教官やクリーチャーといった形のある恐怖、独裁政府や時代といった物語の背景的な恐怖、脱出できない学校や怪異現象などのホラー的な恐怖、疑念や裏切りや嫉妬といった心理的な恐怖…。本作では、恐怖の正体が多様に描かれており、それに応じて恐怖の種類・質も多面性をもって描かれている。
自由が罪になるというヒリヒリするような息苦しさのなか、懸命にもがき、ときには過ちを犯しながら、必死で生きた登場人物たちに共鳴しながら、ホラーという枠におさまらない多面性のある恐怖を味わってみてほしい。
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