水谷竹秀 撮影/松山勇樹

なぜ騙される!?被害者急増の国際ロマンス詐欺を取材する記者に聞いた“引っかかる人”の特徴

2023.06.25 07:03
提供:ENTAME next

SNSやマッチングアプリなどで別人になりすまし、言葉巧みに金銭を騙し取る「国際ロマンス詐欺」が社会問題化している。被害額が甚大なケースが多いことに加えて、それまで信じていた相手に裏切られたという事実が、被害者の心に大きな傷を残す。SNSを利用している誰もが引っ掛かる可能性があるが、被害者たちにはなにか、共通するものはあるのか。被害者への綿密な聞き取り取材にくわえて、犯人の素顔に迫るために西アフリカのナイジェリアまで飛び、実際に何人もの実行犯と対面してその正体を暴いた「ルポ 国際ロマンス詐欺」(小学館刊)の著者、水谷竹秀氏に話を聞いた。(前後編の後編)

「被害者の傾向として、もともとは自分に自信があったけど、今はおかれている環境のせいか、あるいはたまたま人生でうまくいっていないからか、少し自信を失ってしまっている…そんな人が多いように思えます。そういった状況でSNSを通して美女や美男からアプローチをされると、『やっぱり俺は、わたしは…』って潜在的にあった自信を取り戻して、ハマっていってしまうんじゃないのかな、と僕は思いました。あとは孤独や寂しさを感じている人も多いです」

実際に取材した被害者たちには、男女ともに恋愛経験はそれなりにあり、決してモテないタイプではなかったと振り返る人が多かったという。

「ある男性は、妻との離婚後に知り合った女性と別れたタイミングで、ロマンス詐欺に引っ掛かったといいます。よく言えばホストみたいな感じで、ビジュアル的に『どうしてこの人が引っ掛かるんだろう』っていうような。実際に『なんでロマンス詐欺に引っ掛かっちゃったんですか?』と聞いてしまったくらい。でもその人はロマンス詐欺の相手に惚れたんじゃないんですよ。

アプローチをしてきた女性とやりとりをする中で、暗号資産の投資で儲けさせてもらって、うまみを知ってしまった。完全にお金に対する欲だって言っていました。でもアプローチしてきた相手が美男や美女でなかったら、たぶん引っ掛からないとは思います。いくら金銭欲に取り憑かれたといっても、そこのプラスアルファがないと、そもそも見知らぬ外国人からのダイレクトメッセージに返信したりしないと思うので」

インタビューの前半でも述べたように、国際ロマンス詐欺には、儲けたいという欲から引っ掛かってしまう場合と、相手への恋愛感情によって貢ぎ続けるように金銭を支払い続けてしまう場合がある。どちらにしても被害者たちの受ける金銭的ダメージは大きいが、後者の場合はさらにそこに心理的ダメージが加わる。

「ダブルパンチですよ。色恋でロマンス詐欺に引っ掛かった人たちは、ものすごく恨みつらみが続いている。なかなか立ち直れないし、人にも言えない。周囲の友達とかに言ってもバカにされることがわかっているので、言えないわけです。で、借金だけ残って、それでも生きていかないといけない。本にも書いたんですが、取材した人の被害者の女性のひとりは、ロマンス詐欺で使われたプロフィール画像の主、いわゆるネットのインフルエンサーで、もちろん犯人とは別人の、まったく関係ない人のことを、『そいつも一枚、噛んでるんじゃないか』って疑っていて。

そのインフルエンサーのところには、ロマンス詐欺に引っ掛かった女性たちから『わたしとやりとりをしていた、この画像の人はあなたですか』って問い合わせが多く届いていたのですが、その女性は『自分の画像を悪用されていることを知りつつ、何も動いていないのは、どういうことだ。お前も責任持て。次の被害者が生まれる可能性だってある』って主張していました。一理はあると思いますが…」

画像を悪用されているという意味で、インフルエンサーも被害者だが、そこにも責任を問いたくなるほどに、ロマンス詐欺が被害者に与えるダメージは大きい。幸せの最中から、絶望の淵へと突き落とされるからだ。逆をいえば、やり取りをする中で、犯人が与えてくれる喜びはそれほどに大きい。「多くの人はお金や富を求めるでしょう。でも僕は、あなたが最高の気分で目覚めることだけを祈っている」「僕はあなたに100万回の笑顔を送っている、そのうちの1つは今日のために、もう1つは明日のために」といった、同じ日本人の口からは到底出てきそうもない気障で甘いメッセージに、判断能力を狂わされてしまうという。

「これが国際ロマンス詐欺の特徴で、同じ日本人が相手だと、ちょっとありえないと思うんですよ。やっぱり外国人だからこういう熱烈なアプローチなのかな? と納得しているところもあるし、舞い上がってしまう。被害者も倣って同じような愛情表現で返していくうちに、酔ってきてしまうんです」

まさに恋は盲目という状態だ。

「犯人は信じ込ませるために、ボイスメッセージを送ってくることもあるし、ビデオチャットをしたりもするんです。プロフィール画像と同じルックスの男性が、スクリーンに出てきて、口を動かしてしゃべっていて、英語の声が流れるんですけど、見れば一発で口としゃべりがまったく合ってないことがわかるんです。

英語がわからなくてもおかしいと思うレベル。だけど被害者は、違和感を感じなかったって言うんですよね。ある程度、相手のことを信じちゃうと、どこか不信感を持ったとしても、イメージを崩したくない、信じたい、あの人がそういうことをするなんて思いたくないっていう思いに囚われちゃう。『あんなにわたしのことを思ってくれてるんだから、変なことをする人じゃない』って」

国際ロマンス詐欺の被害者は日本人ばかりでなく、オーストラリア人やイギリス人など、いわゆるネイティブの英語圏にも存在する。ナイジェリアやガーナといった西アフリカの犯人たちがしゃべる、なまりの混じった英語を疑うことなく、相手を欧米人の美男美女だと信じ込んでしまうのもこの心理だろう。

「日本の被害者の場合、彼らの送ってくるメッセージの日本語が多少おかしくても、翻訳ソフトがちゃんと訳せてないんだなって納得してしまうんですよね。それにそもそも、日本人って欧米人に対してあまり強く出られないというか、みなさん、多かれ少なかれ、コンプレックスを持っていることも要因だと思います」

心の奥底にコンプレックスがあるからこそ、相手が自分に積極的にアプローチを掛けてくれることへの喜びが増す上、暗号資産という聞きなれない資産形成の手法も、グローバルな相手からの提案だからこそ、あっさりと信じ込んでしまう。

「会ったことのない人に、金銭を預けないこと。騙されないためには、これに尽きると思うんです。うまい話のわけがないので。でも、そういう当たり前のことさえ崩れてしまうほど、国際ロマンス詐欺の手口は巧妙なのです」

いまや常識となったSNSでの出会い。しかし見誤れば奈落への入口ともならない。もしもあなたが今やりとりしている相手に、少しでも「おかしい」という意和感を感じたすぐに、勇気ある撤退をしたほうがいいかもしれない。

取材・文/大泉りか

▽『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)著/水谷竹秀定価1100円(税込)絶賛発売中!

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