東海林のり子、雨宮処凛 撮影/松山勇樹

ヴィジュアル系の母、東海林のり子のバンギャ人生を雨宮処凛が深堀り「88歳で現役」

2023.04.01 07:03
提供:ENTAME next

格差・貧困問題に取り組み、メディアで積極的に発言をしている作家・雨宮処凛が、バンドやアイドルなどを愛でたり応援したりする“推し活”について深堀りするコラムシリーズ。1回目は米寿を迎えてもなお現役でイケメン俳優やヴィジュアル系バンドを推す、フリーアナウンサーの東海林のり子さんに話を聞いた。文・雨宮処凛

「人生って楽しいのよ。ヴィジュアル系、韓ドラ、BL。そういう自分の好きなもの追っかけてると、たぶん100歳以上までいけると思ってるの」

昨年「米寿」(88歳)を迎えたという東海林のり子さんはそう言って笑った。都内某所のスタジオ。この日、東海林さんはもう200回以上の放送回数となるラジオ『現場の東海林です。斎藤安広アンコーです。』の収録をしていた。斎藤安弘氏はオールナイトニッポンの初代パーソナリティ。さすが大ベテランの二人、テーマだけ決めてあとはアドリブでどんどん話が展開していく。ブースの中で話す東海林さんに「ホンモノだ…」と感激しながらも、私は緊張の中にいた。なぜなら私にとって「現場の東海林」は特別な人だからだ。

その理由は、私がバンギャということにある。歴史は長く、現在48歳で15歳頃からやっているから33年ほど。そんなバンギャの間で東海林さんは30年以上前から「ロッキンママ」と慕われている存在だ。

きっかけは、X。ボーカル・TOSHIのラジオに呼ばれたことからメンバーたちと親しくなり、彼らの熱いライブを見た東海林さんは熱烈応援するように。自らの番組で彼らのライブを紹介するなどし、当時、大人たちに眉を顰められがちだった「過激なバンド」Xの認知に絶大な貢献をしたのである。ちなみに当時10代だった私は親から「ライヴに行くと不良になる」などと言われてライヴ行きを阻止されるなど激しい「弾圧」を受けていたのだが、東海林さんがXを応援する姿がテレビに映し出されるたびに「ほら、東海林さんだって応援してるんだから!」と親を説得。「”現場の東海林”が推している」という事実に、親の態度も軟化したのだった。

そんな「恩人」である東海林さんが、最近さらにパワーアップしていることを知ったのは昨年12月に見た『徹子の部屋』でのこと。ここで東海林さんは、最近韓国ドラマにハマり、さらには「タイのBL」も観ていることを公言。平日昼間、地上波で80代女性の口から「沼落ち」という言葉が語られるという奇跡を起こしたのである。

ロッキンママ、健在。変わらぬ弾けっぷりが嬉しくて、そのことをに書いたのが1月。そうしたら、エンタメnextの編集者がその原稿を東海林さんサイドに送ってくれた上、対談を打診してくれたのである。そうしてこの日、憧れの東海林さんとの対面が叶ったのだ。

「この前のLUNA SEA行った?」

顔を合わせるなり東海林さんが口にしたのは、現役バンギャそのままの言葉だった。そう、バンギャにとってはライヴに「参戦」したかどうかが挨拶代わり。「この前のLUNA SEA」は行けなかったものの、昨年のSAITAMA SUPER ARENAには行ったことを伝えると、「私も行った!」と即答。そうして「プレゼントがある」と渡してくれたのは、目薬の袋。中には輪ゴムで止められたテープ状のものが入っている。広げてみると「Lunacy 黒服限定GIG 2022 12.17.18 SAITAMA SUPER ARENA」と書かれた銀テープではないか! ライヴの最中、”バン!” という音とともに客席に放たれ、みんなが手を伸ばすアレである。

「うちに3本くらい吊るしてあるから、絶対喜ぶなと思って持ってきたの」

さすが東海林さん、バンギャが一番喜ぶものをわかってらっしゃる!!

ということで、まずは10代からの頃の感謝の気持ちをお伝えした。東海林さんのおかげで、どれだけのバンギャがヴィジュアル系=不良という偏見や親の無理解から解放されただろう。東海林さんは言う。

「番組でXを取り上げるようになったら、女の子たちから手紙をもらうようになったの。その中に、『母がライブに行っちゃいけないって言うけど、どうしても行きたい』っていう内容のものがいくつかあって。当時は手紙に住所も電話番号も書いてあったから、取材の合間に電話したの」

まさかの直電である。

「そうしたらその子が出たんで、『ちょっとお母さん呼んで』って代わってもらったの。それで、ライブっていうのは全身全霊で応援するから、あの子たちはホールを出たら足を引きずって歩けないくらいになってるんです、そのくらい夢中になってるから、不良になるなんて想像できないって言ってあげたの」

「現場の東海林」からの臨場感溢れる報告は、多くの親の態度を変えたようだ。

「今でもライブに行くと『東海林さんが電話をくれて母親と話してくれたのでライブに行けるようになりました』って言われることがあります。そう言ってくれるのはすごく嬉しい! みんな成長して、お子さんができていたりね」

それにしても、なぜ東海林さんはバンドにハマる若者たちをあたたかい目で見てくれていたのだろう。当時、全身黒ずくめなどのヴィジュアル系ファンの少年少女に向けられる大人の視線はひたすらに冷たかった。

「あの頃は少年事件がいっぱい起きてる時だったんですけど、ライブではちょっと悪そうな子なんかも夢中になって応援してるんですね。そういう姿を見ると可愛いなって。ひとつのことに夢中になってれば、悪いことしようなんて思わない。何かに夢中になることが、その子なりの将来とか人格を作ってると思うの。それに武道館なんかだと、みんな地方から電車賃を払って来る。コスプレの子は、家からコスプレのまま来ることもある。『電車なんかでジロジロ見られるけどここまで来ました』なんて言われると、『頑張ったね! あなた勇気あるね、素敵よ!』って言ってあげるの」

なんだか泣きそうになってきた。励ましは、バンギャに対してだけではない。

「ヴィジュアル系のライヴに行くと、帰り際、道端でこれから出ていく子たちがチラシ配ってるでしょ?」

アイドルなどの現場もそうだと思うが、武道館など大きな会場でライブがある時は、その客目当てにそこまでは売れていないヴィジュアル系ミュージシャンたちがチラシを配る姿がある。

「寒空の下、立ってるじゃない? そんな子たちを見ると『ちょうだい』ってチラシ貰いに行って、『いつデビューするの?』って聞くの。『まだなんです』って言われたら、『頑張ってね、デビューしたら取材してあげるから!』って。すごく喜んでくれるんですよ」

これが東海林さんが「ロッキンママ」と慕われる所以である。そんな東海林さんがXに出会ったのは50歳頃。50代で多くのミュージシャンとの付き合いが生まれ、人生が変わっていくなんて最高じゃないか。美しい彼らに囲まれるだけで絶大なアンチエイジング効果もありそうだ。

ちなみにXに出会う前は、何かを熱烈に応援したり……今でいう推し活……という経験は皆無だというから、人生何が起こるか本当にわからない。

▽雨宮処凛バンギャやフリーターなどを経て、2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年から格差・貧困問題に取り組み、取材、執筆、支援活動を行い、メディアなどでも積極的に発言をしている。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)ではJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。著書多数。新刊『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)が絶賛発売中。

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