“嘘しか言わない”漫談家・街裏ぴんくが語る唯一無二の芸風「コイツ、アホやなと思ってほしい」
嘘しか言わない架空漫談家としてお笑いライブシーンを独走する街裏ぴんく。芸歴11年以上のプロのみが参加できる「Be-1グランプリ2022」で優勝を果たし、また『マヂカルクリエイターズ』(テレビ東京)などで嘘エピソードを披露しバラエティ番組でも存在感を発揮している。その唯一無二の芸風はどこから生まれたのか…。そのルーツと、今後の展望を聞いた。
──最初に街裏さんを観た時、バックグラウンドが見えない方だなと思いました。
街裏 これはコンプレックスでもあるんですけど、映画も観ないし、小説も読まないんです。何かに影響されていないから、そう見られるのかもしれません。
──影響されていないのに「〇〇さんのようだ」と言われることもあると思います。
街裏 言われますね。具体的に「このネタが」というわけじゃなく、筒井……さんに似ているとか。筒井さんの下の名前が出てこないくらい、僕は知らないんですけど(笑)。
──本当に知らないんですね(笑)。街裏さんと同じようなことをしている芸人はいないと思います。
街裏 1年くらいフリップを使ったネタもやっていたんですけど、絵を描けなくて情報を貼り付けていただけなので、だったら、しゃべりだけのほうがいいんじゃないかと思ったんです。お笑いライブで、僕の立ちしゃべりを誰が求めているんだろうと考えたら、なんか滑稽に感じて。
──自分を俯瞰した時に。
街裏 はい、はい。架空の話に熱をこめて話している自分の姿が滑稽で、お客さんにも「コイツ、アホやな」と思ってほしいんです。ツッコミがいませんから。
──ツッコミが訂正しないまま届けたい気持ちがあるんですか?
街裏 今の(架空漫談の)形が一番やりたいことではあるんですけど、もちろん難しさもあります。お客さんを漫談の世界に没入させたうえで笑わせなきゃいけない。そのためには僕が好かれて、何を言っても面白いという状態になるのが一番だと思うんです。今はその前段階なので、ネタを作るしかないんですけど。
──ネタの数はどれくらいあるんですか?
街裏 400くらいあって、捨てるネタもあれば、4~5年前のネタをリメイクすることもあるんです。
──まるっきり同じではないんですね。
街裏 何かひとつ足すだけで、その部分を活かそうとネタ全体に潤いが戻って新鮮にしゃべることができるんです。
──芸人によって完璧を求めて練習を繰り返す方も、新鮮さを保つために練習しすぎない方もいると思いますが、街裏さんはどちらのタイプでしょうか?
街裏 僕は練習しすぎないタイプですね。一言一句ノートに書いて、自分でブツブツ言いながら“絵”を思い浮かべて、本番ではその“絵”をイメージしてしゃべってます。旅行の思い出を友達に話すような感覚というか。本番で“絵”が抜け落ちることがあっても、思い出して「言い忘れてんけど」と付け加えれば、それはそれでリアルなんじゃないかと。落語のように文化を背負っているわけではないので、ラフにやっているところではあります。
──街裏さんの架空漫談を本気で信じる人もいましたか?
街裏 いますねぇ。『アンパンマン』にトルコアイス男爵が出てきて……というネタを本当だと思った方もいますし、「大阪にある高槻プラチナ温泉のCMに出た」と言ったら、YouTubeに「嘘じゃないか!」と怒りのコメントがきました。怒るんじゃなくて、もう一歩踏み込んで楽しんでほしいんです。そもそも、何で僕の漫談から情報を得ようとしとんねんという話で。温泉を知りたかったら『じゃらん』を見れくれと(笑)。
──リアリティを出すための工夫はあるんですか?
街裏 ネタごとにどこまで情景描写をするか考えているんですけど、リアリティを出すための一番の方法は本音でしゃべることだと思ってます。自分が本気で面白いと思ってないと、お客さんに伝わりますから。ただ、ハリウッドザコシショウさんからは「それがあかん」と言われるんです。
──何がダメなんでしょうか?
街裏 漫談を褒めていただいたうえで「3分で絶対に爆笑を取れるパッケージを作っておく必要がある」と言われました。「自分が面白いかどうか」に固執することが甘えなんだと思います。
──大衆に向けてプレゼンできるパッケージがあったほうがいい、と。
街裏 今年は街裏ぴんくの「入り口」になるようなパッケージを作ることが目標のひとつです。
──漫談では「街裏さん自身はまとも」という設定が多いですよね。
街裏 僕がおかしい人というネタは1~2割くらいかもしれません。僕がツッコミ側に立つことで、お客さんと距離ができてしまうのかな、という懸念もあるんです。独演会だとじっくり聞いてくれるんですけど、普通のライブで3~4分のネタだとなかなかウケない。
──お笑いファンが集まるライブだとそんなことはないと思いますが。
街裏 いや、3、4年前はもっとウケていたんです。お笑いファンは最初こそ驚いていたんですけど、僕が頑なにスタイルを変えないこともあって見慣れてしまった。「今のスタイルで名作を生みたい」という気持ちもあるんですけど、お客さんは新たな驚きを期待していると思うんです。
──2月に放送された『マヂカルクリエイターズ』(テレビ東京)にゲスト出演した街裏さんを観た時は「異形な人が出てきた」感覚がありました。
街裏 まさしくそうで。あの番組の僕はよかったんじゃないかと思います。今後も観ている人の度肝を抜かすようなことをしたいですね。
──同じライブに出ることも多かったランジャタイやモグライダーの活躍には刺激を受けていますか?
街裏 彼らの活躍を見ると、僕もそろそろ決めなあかんなと感じます。そこに向けて頑張り続けている人もおるなかで、舞台で勝手なことをしてきた僕が「テレビで活躍したい」と言うことがおこがましい気持ちもあるんです。だけど、多くの方に僕の漫談を見てもらいたいですから。
──5月13日には「街裏ぴんく漫談独演会『みそ汁おめでとう』」が開催されます。
街裏 独演会では、自分が面白いと思うことをブツけて、これまでの漫談の最高値を更新したいです。世知辛い世の中なので、めでたくいこうかなと思ってます。
▽街裏ぴんく第十二回漫談独演会『みそ汁おめでとう』」日時:5月13日(金)場所:東京・武蔵野公会堂で開催
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