「Raiken Nippon Hair」より

「テレ東らしさ」はもはや死語?「若手映像グランプリ」企画者・優勝者の3年目ディレクターに聞く、彼らが目指す新しいテレビ

2022.03.26 08:30
「Raiken Nippon Hair」より

3月17日に決勝戦が行われた「テレビ東京若手映像グランプリ2022」。30歳以下のテレビ東京社員が「予算ひとり100万円」「15分以内」「ジャンル自由」のルールで映像を作り、地上波放送枠をかけて競うという企画の発案者は、入社3年目の若手ディレクター。さらに、「架空の国のクイズ番組」という内容がインターネットで大きな話題を集めた優勝作品「Raiken Nippon Hair」制作者も、同じく入社3年目の若手だ。どんな経緯でこの企画が実現したのか、そしてぶっ飛んだ優勝作品はなぜ生まれたのか。「テレビ東京若手映像グランプリ2022」企画・演出の千田洸陽さんと、優勝者の大森時生さんに話を聞いた。

最大級の映像メディアであるテレビ局の若手が、いちばん自由に発信できない矛盾

同期で制作局に入社し、3年目からディレクターとなったふたり。しかし番組の企画募集で若手の案はなかなか通りにくく、30代以上の案が大半という状況があったという。千田さんは「若手映像グランプリ」の立ち上げ経緯についてこう語る。

「20代の企画が通過する率は低くて、若手は諦めモード。一方でYouTubeやTikTokなどで活躍しているクリエイターは、若いうちからどんどん自分で作ったコンテンツを配信して有名になり、同世代の支持も得ている。このまま30代になってから自分の企画が通ったとしても、その頃には時代に乗り遅れているんじゃないかという懸念がありました」

危機感を覚えた千田さんは、昨夏の全社的な企画募集タイミングで「若手映像グランプリ」を提案。社長や役員への直プレゼンを経て実現に至った。予算もかなり大きい本企画、どのようにアピールしたのか?

「面白いアイデアを考えている若手はたくさんいるのに、それを表現できる場が担当しているレギュラー番組のワンコーナーしかない。昔とは違って、今はだれでも自由に発信できる時代。映像メディアとしてテレビは今でも最大級なのに、その中にいる若手が一番自由に発信できないという矛盾はもったいない、と話しました。制作3年目の若手が言ったからこそ、伝わりやすかったのかもしれません」(千田さん)

多彩な26作品が集まり、優勝作は満場一致で決定

こうして走り出した「テレビ東京若手映像グランプリ2022」。集まった26作品のジャンルはバラエティ、ドラマ、ドキュメンタリーなど様々。まずは再生回数や、テレ東社員・テレ東ファンの投票による予選を経て、5作品が決勝進出。そして田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、劇団ひとり、大根仁、佐久間宣行、ファーストサマーウイカという豪華審査員を迎え決勝審査が行われた。

「『M-1グランプリ』なんかもそうだと思いますが、審査員の方々は『この人に褒められたら嬉しい』という基準でお願いしました。なおかつ、テレ東でMCをされている方や、バラエティだけでなくドラマについても知見がある方など。理想通りの豪華な方々に出演いただけて嬉しかったです」(千田さん)

結果は、大森さんの作品「Raiken Nippon Hair」が満場一致で優勝。審査員も「めちゃくちゃ面白かった」(劇団ひとり)「才能あると思います」(大根仁)など大絶賛のコメントを寄せた。しかし、候補作は他にも個性的な作品が集まっている。3月31日までYouTubeで全候補作が無料配信中のため、面白かった作品をふたりに紹介してもらった。

千田さんのおすすめは2作品。「『いつも通り。』は、納品〆切の3日前に撮影を始めたんです。どうするんだろうと思っていたら、時間がないことを逆手にとってワンカットドラマ。現場も見に行きましたが、チーム一丸となって何度も撮り直していて、制作現場の熱が感じられました。もう1作は『ハン=フィクション』。岡野陽一さんの密着VTRにラバーガールさんがコメントするというフェイクドキュメンタリーです。すごく面白いのに再生回数が伸びないなと思っていたら、決勝戦が終わった後に話題になって急に伸び始めて、やっぱり面白いものは見つかるんだなと」

大森さんは「記念日にとらわれて」をプッシュ。「短編映画としてクオリティが高く、面白いと思いました。ドラマはセンスが問われるし、オモシロに逃げられないから大変で、僕はできない。予算的にもドラマを作るとなると100万では厳しいので、再生数は稼ぎづらいだろうと思いましたが、演出もグッときましたし、素敵な作品です」

作品のためだけに架空の言語・ネラワリ語を制作

大森さんの優勝作「Raiken Nippon Hair」は、「架空の国・ネラワリで放送された、日本に一番詳しい人を決めるクイズ番組」だ。なんとこの動画のためだけに一から架空の言語・ネラワリ語を作り上げている。この発想はいったいどこから生まれたのか。

「Vaporwave(様々なジャンルの楽曲をサンプリングし、ループ・エフェクトをかけて独特のノスタルジックな印象に仕上げる音楽)が好きなんですが、日本語の天気予報なんかをサンプリングして作られた曲があるんです。全体としては意味がわからないんだけど、世界観が統一されていて、その中にちょっとだけ理解できる単語が出てくることの面白さがある。出演者が何を話しているかも、テロップの意味も全く理解できない中で、ところどころ”理解できる”という不思議な感覚を生み出すために、クイズ番組という形式をとりました」(大森さん)

「Raiken Nippon Hair」は、現地のテレビ番組がYouTubeに違法アップロードされているという設定で、画質もやや粗く、途中で違法動画によくある謎の枠が表示される。ここにも工夫がある。

「今回は候補作がYouTubeで視聴されるということだったので、その場所を生かすために『違法アップロード動画』という設定にしました。あの演出が伝わる人は違法アップロード動画を見たことがあるわけなので、その背徳感が面白いかなと」

言語を一から作る大変さはかなりのものだったが、言語学者の協力も得て実現したという本作。特に気に入っている点を尋ねると「冒頭がCMから始まるところです」とのこと。「いきなり架空のCMから入ることで、これは何だ、わけがわからないと思わせたかった。こういう動画のコンテストって、普通サムネイル時点からわかりやすいことが基本だと思うんですが、逆を行くことで、他の作品とは”何か違う”と印象付けたかった」(大森さん)

テレビがつまらないものだと思われているからこそ、フリに使える

「Raiken Nippon Hair」を見た千田さんの感想は「これをやられたらかなわない」だった。「それまでバラエティ、ドラマ、といったジャンル分けでやっていたところに、いきなり『わかる/わからない』という新しいカテゴリ分けを持ち込まれた」と舌を巻きつつ、一方では「普通に企画書を出したら『Raiken Nippon Hair』は絶対に通らない。15分の動画をいきなり作って企画書代わりにする、このグランプリならでは」と嬉しさも感じたという。

わかりやすいコンテンツが好まれる近年で、あえてこの作品を作ったのはなぜなのか。大森さんの中で、ネットの動画とテレビ番組には違いがある。

「テレビはつけたら流れていて、自然と目に飛び込んできます。”見たいものを探して、それを見る”というネットとはそこが明確に異なります。とにかく視聴者に何だこれ?と思わせることが大事だと思います。あと最近はテレビがつまらないものだと思われているから、逆にハードルが下がって話題になりやすい。他のテレビコンテンツのフォーマットがしっかりとしているので、それをフリにした演出を行いたくなる」

確かに、大森さんが初めて演出を手掛けた番組であるBSテレ東「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」も、お笑い芸人・AマッソをMCに迎え、忙しい奥様を応援する家事バラエティ番組という体裁をとりながら、どこかに違和感を潜ませていく構成が話題となった。これも一般的なバラエティ番組のフォーマットをフリに使った例といえよう。

ちなみに、インターネット上では公開されているネラワリ語の資料を用いて「Raiken Nippon Hair」の日本語訳に取り組むユーザーが多く見られ、「奥様ッソ」でも番組中の演出についてSNSで多数の考察が生じた。近年の考察系ドラマブームなども踏まえ、視聴者のSNS投稿を生み出そうとする狙いがあったのかと尋ねると、そうではないという。「個人的には、初めから考察させようと思って作っている作品はあまり好きじゃないんです。ギミックを作っているというよりは、余白を作っているという意識でいます。結果的に考察が起きているという感じです」(大森さん)

4月にはグランプリの特典として、「Raiken Nippon Hair」が地上波放送される。一体どんな番組になるのか。「今まさに頑張って制作しているところですが、クイズ番組ではないです。今回の動画を見てくれた方は、地上波で同じクイズ番組が流れてるのを見てもあんまり面白くないと思うので。ネラワリ語だけ生かして、違うジャンルの番組にします」(大森さん)

「テレ東らしさ」はもはや死語?

ふたりはこれからどんな番組を作っていきたいのだろうか。テレビマンへの憧れを持ち、好きなテレビ番組は「SMAP×SMAP」だという千田さんは、「テレビ東京版の24時間テレビ」を作ってみたいと語る。「全社が一体となって作る大きなお祭りをやってみたいです。日本テレビのような横のつながりをテレ東はやって来なかったと思うので、嫌がられると思いますが、無理やりくっつけたらどうなるか、見てみたいですね」

一方、大森さんの好きなテレビ番組は「バミリオン・プレジャー・ナイト」。2000年に放送されていた深夜のシュールなコント番組だ。やってみたい番組は「テレビで放送するからこそ面白い番組」だという。「たとえば以前通らなかった企画だと、一般的な形通りの通販番組で、でも商品が全部一億円以上するという番組を考えました。真珠のネックレスを売るような感じで島なんかを売って、番組内の番号に電話したらちゃんと買える」

いかにも独自性の強い番組が多い印象のテレビ東京。最後にふたりの思う『テレ東らしさ』とは何かを尋ねてみた。

「予選の1位が同率で『Raiken Nippon Hair』と『THE RAMPAGEにオトされたい!』(THE RAMPAGEの 3 人が、1人で食卓につくあなたと「一緒にご飯を食べる」妄想シチュエーションバラエティ)だったときに、改めて面白い局だと思いました。笑わせようが、カッコつけようが、感動させようが、最後は全部『製作著作:テレビ東京』に収束する。あと、テレ東って『テレビ番外地』『振り返ればテレビ東京』なんて言われてきて、失うものがない。うまくいかなかったとしても、いい意味で『テレ東のせい』にできるところ」(千田さん)

一方、大森さんは、「僕みたいな若輩者がこんなことを言うのは大変恐れ多いんですが…『テレ東らしさ』という言葉はよく聞きますが、正直なんだかわからないんです。もう死語じゃないかと思います。一時期は『Youは何しに日本へ?』や『家、ついて行ってイイですか?』など、一般の方が出演する番組のパイオニアというイメージがあったかもしれないけど、今はもう他の局もやり始めた。それ以降は新たな『らしさ』を生み出せていない気がします。だから個性豊かというイメージがなくなるのも時間の問題かもしれませんし、新たな『テレ東らしさ』を作っていかないと」

それぞれに強い個性と明確なビジョンを持っている若手ディレクターたち。テレビ東京の未来は明るそうだ。

関連リンク

関連記事

  1. 新垣結衣が語りに!“伝説の家政婦”タサン志麻さん夫婦に密着「たくさんの人の心にスッとしみこむはず…」<ふたりのディスタンス>
    新垣結衣が語りに!“伝説の家政婦”タサン志麻さん夫婦に密着「たくさんの人の心にスッとしみこむはず…」<ふたりのディスタンス>
    WEBザテレビジョン
  2. 東京03の超絶サクセスストーリー 全国ツアーだけで「1年食えるくらいはもらえる」
    東京03の超絶サクセスストーリー 全国ツアーだけで「1年食えるくらいはもらえる」
    WEBザテレビジョン
  3. <BLACKPINK>「あつまれ どうぶつの森」内に“BLACKPINK島”がオープン!MVのセットやステージを再現
    <BLACKPINK>「あつまれ どうぶつの森」内に“BLACKPINK島”がオープン!MVのセットやステージを再現
    WEBザテレビジョン
  4. 松井玲奈、大粒の涙…新型コロナ感染中の思い吐露「人生の中では一番苦しいぐらいの数日間」
    松井玲奈、大粒の涙…新型コロナ感染中の思い吐露「人生の中では一番苦しいぐらいの数日間」
    WEBザテレビジョン
  5. ジャニーズWEST中間淳太 “探偵”イメージの細身スーツで「小説現代」表紙に!推しミステリから自身の創作活動まで明かす
    ジャニーズWEST中間淳太 “探偵”イメージの細身スーツで「小説現代」表紙に!推しミステリから自身の創作活動まで明かす
    WEBザテレビジョン
  6. 瀬戸朝香、“なかなか良い感じ”7歳長女によるメイクSHOTに反響「優しくて自然な感じすごくいい」「娘さんお上手!」
    瀬戸朝香、“なかなか良い感じ”7歳長女によるメイクSHOTに反響「優しくて自然な感じすごくいい」「娘さんお上手!」
    WEBザテレビジョン

「ニュース」カテゴリーの最新記事

  1. timelesz菊池風磨、中学2年でもらった初任給を回顧「Hey! Say! JUMP兄さんの後ろにつかせてもらって…」
    timelesz菊池風磨、中学2年でもらった初任給を回顧「Hey! Say! JUMP兄さんの後ろにつかせてもらって…」
    モデルプレス
  2. timelesz菊池風磨、新体制初のアルバム「FAM」に込めた思い タイプロ選考の指標の1つになっていたものとは
    timelesz菊池風磨、新体制初のアルバム「FAM」に込めた思い タイプロ選考の指標の1つになっていたものとは
    モデルプレス
  3. 齋藤飛鳥、地元・葛飾での新たな出会い告白「すごくいい気分になった」
    齋藤飛鳥、地元・葛飾での新たな出会い告白「すごくいい気分になった」
    モデルプレス
  4. 「Eye Love You」共演の中川大志&チェ・ジョンヒョプ、2ショット公開で再会報告「エモすぎる」「会えて良かった」と反響
    「Eye Love You」共演の中川大志&チェ・ジョンヒョプ、2ショット公開で再会報告「エモすぎる」「会えて良かった」と反響
    モデルプレス
  5. 壇蜜が「PR動画炎上」騒動で発作に!? 夫・清野とおる氏が描いた夫婦漫画が話題
    壇蜜が「PR動画炎上」騒動で発作に!? 夫・清野とおる氏が描いた夫婦漫画が話題
    ENTAME next
  6. 嵐・櫻井翔「timeleszの時間ですよ」初回SPゲストで登場「この時間帯でもう冠番組やるなんて末恐ろしい(笑)」
    嵐・櫻井翔「timeleszの時間ですよ」初回SPゲストで登場「この時間帯でもう冠番組やるなんて末恐ろしい(笑)」
    モデルプレス
  7. 杉浦太陽、長女・希空撮影の青空くんとの親子ショット公開「似てるとよく言われる」「どんな青年になるのか楽しみ」
    杉浦太陽、長女・希空撮影の青空くんとの親子ショット公開「似てるとよく言われる」「どんな青年になるのか楽しみ」
    モデルプレス
  8. ファンを大切にする藤田ニコル もらった手紙が捨てられず、“保管用アパート”を借りるハメに<上田と女が吠える夜>
    ファンを大切にする藤田ニコル もらった手紙が捨てられず、“保管用アパート”を借りるハメに<上田と女が吠える夜>
    WEBザテレビジョン
  9. 声優・洲崎綾、直筆で第1子出産発表 手繋ぎ2ショット公開
    声優・洲崎綾、直筆で第1子出産発表 手繋ぎ2ショット公開
    モデルプレス

あなたにおすすめの記事