おかえりなさい! 帰ってきた「ヘタミュ」で描かれるそれぞれの“愛”【ゲネプロレポート】

2021.12.23 22:09
提供:2.5ジゲン!!

12月23日(木)、 ミュージカル「ヘタリア〜The world is wonderful~」の東京公演が東京・品川プリンスホテル ステラボールで開幕した。

本作は、シリーズ累計60万部を突破した日丸屋秀和による人気コミック『ヘタリア World★Stars』が原作のミュージカル、通称ヘタミュ。第3弾公演の「in the new world」から約4年、「FINAL LIVE」から約3年が経つが、キャスト続投で新シリーズ公演が上演されることとなった。

2.5ジゲン!!では、東京公演初日に先駆けて行われたゲネプロの様子をレポート。ストーリー上の大きなネタバレには触れないが、あらすじや見どころ、劇中写真を含む記事のため、初見の感動を大事にしたい人は観劇後に読むことをおすすめする。

上演開始時間。場内が暗くなると、とある歌が聞こえてくる。ヘタミュ初見の人にとってはかっこいいオープニングとしてワクワクした気持ちになるであろうし、3年前の「FINAL LIVE」を観たファンは「この公演は、あの時と地続きなのだ」と初っ端から情緒と涙腺を壊されることだろう。

舞台にライトが当たり、横になっている人物たちが静かに浮かび上がる。まるでこの数年間はシエスタに入っていたかのようだ。おかえりなさい、そんな気持ちで舞台を見つめると、ゆっくりと目覚める彼ら、そして真ん中に立つ人物はどこかで見たような姿をしておりーー?

「全ての道はローマに通ず」の言葉どおり、大きくて広い心を持ったローマ爺ちゃんのもとで、イタリア(演:長江崚行)とロマーノ(演:樋口裕太)の兄弟は楽しく陽気に暮らしていた。しかし時は流れ、気づけばローマ爺ちゃんの姿はなく、周りの者たちが次々と力をつけ始める。

そしてイタリアはオーストリア(演:ROU)に、ロマーノはスペイン(演:山田ジェームス武)に引き取られることになった。バラバラになった兄弟は再び出会い、一緒に暮らせるようになるのだろうか…?

今作のストーリーは、歴史で言えば19世紀のイタリア統一運動が中心。ここにオーストリアとスペイン、フランスの動向が絡んでくると同時に、力を持ったプロイセンの侵攻も描かれる。

事前に歴史を少し知ってから観劇したい場合は、イタリア統一運動と、その年代にあった周辺での戦争や情勢(パリ万博、普墺戦争、普仏戦争、クリミア戦争とロシア南下政策など)をおさらいしてから臨むといいだろう。しかしもちろん、何も知らずに観ても大丈夫だ。

テーマは愛であり、広い意味でのラブストーリーだと事前のインタビューで聞いていた。イタリアとロマーノ、イギリス(演:廣瀬大介)とアメリカ(演:磯貝龍乎)、日本(演:植田圭輔)と中国(演:杉江大志)の兄弟愛。独立しようとするイタリアに対するオーストリアと、ロマーノに対するスペインの庇護の愛とも言える感情。そして、強大であるが故に孤独を抱えていたローマじいちゃんから孫二人への愛。

あちこちに散らばっている仲間を一つに集めて統一しようとするプロイセン(演:高本学)が持つのは、祖国愛とも言えるものだろうか。舞台の上にはさまざまな愛と大きな感情が渦巻いている。

数年ぶりの公演ともなれば、何か変わってしまったのではないかと不安に思うファンも多いことだろう。しかし、大笑いしたかと思えば次の瞬間には涙が溢れる、感情が忙しいのに何が何だか分からないということはない。これぞヘタミュだ。

セットも音楽も主題歌もこれまでとは違うのに寂しさを感じないのは、ヘタミュの根幹的な要素はそのままであるからだろう。明るく華やかでとにかく楽しい。しかしストーリーや描いているものはドラマチックであり、センシティブな部分にも挑戦している。

特殊な映像効果は使わず、照明とミザンス、人力でのセット移動、スーパーアンサンブルズたちの活躍でアナログに進められる吉谷演出。国旗は物理的にも心情的にも使われ、時に銃などの武器にもなる。

バックダンサーでもあり、その国の雰囲気を伝える役割も担い、民衆や神聖ローマにもなるアンサンブルは、20人はいるのではないかと感じてしまうが何と6人だ。彼らの活躍にも大きな拍手を送りたい。

メインキャストたちは、この数年の間に各々の道で培った演技力、歌唱力、存在感などを存分に発揮している。強い個性のかたまりのようなメンバーであるにもかかわらず、ぶつかり合うことなく互いを引き立たせているのはカンパニーの力故だろうか。

交代がなくそのまま続投となったキャストたちはもちろん、今作から参加となったロマーノ役の樋口裕太も、まるで第1弾からその場にいたかのようにカンパニーに溶け込んでいる。

時に無茶振りに肩を震わせ笑いをこらえ、時に毎日ヒートアップしていく箇所に突っ込みを入れる。アドリブの多さは今のところまだ感じないが、千秋楽に近づくにつれて遊びが増えていくのだろう。千秋楽では生のトマトやニシンのパイが登場するのかもしれない。

ゲネプロとは別の話になるが、本作は12月16日(木)の大阪初演の直前に大きなトラブルに見舞われた。音響機器の全壊、大道具小道具の破損、神聖ローマ人形の一時行方不明など、公演自体が全て中止になってもおかしくない状況の中、大阪公演初日、ゲネプロを飛ばしてぶっつけ本番で1時間の遅れだけで初日の幕が開いた。この舞台に関わる全ての人が、公演を行うために数日間寝ずの努力を続けたという。

何としてもこの公演をやり遂げよう、帰ってきたヘタミュを多くのファンに届けたい。そんな気迫が東京公演のゲネプロでも伝わってきた。大きな試練を乗り越えたからこその強さと、もう些細なトラブルには動じないというほどのどっしりとした自信も感じる。

これからも新シリーズが続いていくこのヘタミュカンパニーに、心から「おかえり」の拍手と声援を送りたい。

公演は12月31日(金)まで東京・品川プリンスホテル ステラボールで行われる。

取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル

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