初の小説を上梓したかが屋・加賀翔にインタビュー

かが屋・加賀翔、初の小説は「全部実話か、全部フィクションと思って読んで」

2021.12.06 07:00
初の小説を上梓したかが屋・加賀翔にインタビュー

講談社より発売中のかが屋・加賀翔の初の小説「おおあんごう」が、書店のベストセラーランキングで1位を獲得するなど、話題を呼んでいる。

同作は、加賀自身の生い立ちをベースに、両親や祖母、小学校の同級生らとの物語をつづった半私小説作品。岡山弁で大馬鹿者を意味する「おおあんごう」が口癖の破天荒な父親に振り回される少年・草野とその家族の日常や、幼なじみの伊勢との交流が切なくもコミカルに描かれていく。

そんな小説家デビュー作を発表した加賀に話を聞いた。

編集者さんからの依頼にふんわりと「…はい」って答えちゃって

――まずは、小説を書くことになった経緯から聞かせてください。

又吉直樹さんが書かれた自由律俳句の本を読んで衝撃を受けたのがきっかけで、いろんな作家さんを知って本の世界にハマっていったんですけど、自分で書くことになるとは思っていなかったんですよ。

1年半くらい前に講談社さんが出されている文芸誌の『群像』の編集者さんが「随筆を1本書いてみませんか?」とお声掛けくださって、恐れ多いながらも自分の経験を基に書かせていただいて。

それを担当の方が面白かったと言ってくださって、「これをもうちょっと長い小説にしてみませんか?」と聞かれたときに、ふんわりと「…はい」って答えちゃったのが始まりですね(笑)。

――初めからすんなりと書けましたか?

「とりあえず思いついたままにたたき台を書いてみて」って言われたんですけど、8万字くらい必要なところを1万字くらいしか書けなくて。「もう無理、ギブアップです」って言ったんですけど、「あまり根を詰めないで、気軽に書いていいですよ」なんて優しく見守っていただいて、それでもまた4万字くらいで「やっぱりダメです」とか言いながら何とか書き上げました。かなり難産でしたね。

――どこまでが実話で、どこからがフィクションなのかはあまり明かさないほうがいいですよね。

全部実話だと思っていただくか、全部フィクションだと思っていただくか、どちらかがいいと思います。相方になる伊勢とのエピソードに関しては、賀屋(壮也)とは全く別人のフィクションですけど。

実際の父親や母親、同級生をモチーフにして、彼らのビジュアルを思い浮かべながら書きました。彼らを役者として考えて、どう動かそうかなという感じで。

母親は最初「つらくて読めない」って言って、一旦本を閉じたらしいんですけど「全部フィクションだと思って読んだら笑えた」って言ってくれました。おばあちゃんも読んで、泣いてくれたみたいですけど、周りの人たちから「大変だったんですね」って言われて「実際はこんなもんじゃなかったわよ!」なんて、逆ツッコミしてたらしいです(笑)。

「小説っぽいじゃん」なんて、こそばゆい気持ちになりました

――冒頭に描かれたお父さんの破天荒ぶりからして強烈ですね。

コントと一緒でつかみは大事にしないとって思って、書き出しは緊張しましたね。どんな書き方をしても、どれも正解じゃない気がしちゃって。いろいろ考えた結果、親父のキャラクターがよく分かるあのシーンから始めるのがいいのかなって思いました。

――ご自身で書かれていて、印象的なシーンはありますか?

花火大会のシーンはすごく印象に残ってますね。実際に地元のお祭りがあって、僕の家から花火が見えたんですよ。あの光景はどこかに入れたいなって思ってたんですけど、自分でも「なんか小説っぽいじゃん」なんて、こそばゆい気持ちになりました(笑)。小説を書いてるんだっていう感覚になり始めたシーンですね。

――コントの台本と小説とでは、全く書き方が違いますよね。

表現の違いの難しさはありましたね。コントなら1秒で済むことも、小説では何行も使ってしっかり伝えないといけなかったり。自分で1冊書き終わってから、人の小説を読むのが一段と楽しくなりました。「こんなふうに書くんだー。すごいなー」なんて。

――お父さんからバースデープレゼントをもらうシーンの二転三転を読んで、かが屋さんのBluetoothイヤホンのコントを思い浮かべました。

あー、ご存じでいらしてうれしいです。小説の方はコントみたいに、あんなハッピーエンドじゃないですけどね。あそこは親父にどんなふうに暴れてもらうかだけ考えて書きました。

――実際のご両親も離婚されていて、お父さんとはもう会われていないんですか?

そうですね。でも、以前に連絡があったときは、僕が芸人になったことを知ってくれてて。「俺が翔の父親だっていうことは誰にも言ってないから、安心してくれ」って言われました。再婚した奥さんや娘さんには迷惑をかけたくないし、内緒にしてくれてるおかげで今回の小説が出せた感じですね(笑)。

小説の主人公の草野が芸人になったとき、父親に「小説家をやってる」って言うシーンがありますけど、僕も実際にそう言ってたんですよ。うそが本当になったな、なんてしみじみと思いました。

次は思いっ切り幸せな家族の話を書いてみたいです

――2021年は初の小説発表以外にも、休業からの復帰もありました。

もうちょっと体を大きくしないと、テレビを見たおばあちゃんが「ちゃんと食べてるのか?」って心配するので、ボディービルをやっている芸人に聞いたりして、いっぱい食べてたら僕には合わなかったみたいで胃腸炎になっちゃったりもして。あの休業で終わっててもおかしくなかったので、復帰できたことは本当にありがたいです。

残る2021年はピザでも食べながら「M-1グランプリ」を見て楽しんで(笑)、来年からまた改めて頑張ろうって思ってます。筋力が落ちたり、ブランクを感じている部分はあるので、2022年は元気な姿を見せたいですね。ガリガリもいいですけど、やっぱりコントは体が大きいほうが面白いですから。

――賀屋さんとのビジュアルの違いも面白いですけどね。

あの人はダイエットするって言いながら、僕に隠れてビルの隙間でシュークリーム食べてたりするので、それはそれで何とかしてほしいです(笑)。

――小説家としての、次の目標はありますか?

今は大変だったことはすっかり忘れて、また書きたいという気持ちがすごくあります。たくさんの方が関わってくださって、書店でのランキングも1位をいただいて、こんな経験をもう一度してみたいなって思いますね。

まだ僕の人生経験で得たものは出し切っていないと思うので。次はものすごく明るい小説、思いっ切り幸せな家族の話を書いてみたいですね(笑)。

取材・文=青木孝司

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