松田凌、真っ白な下地と七色のエネルギー【演出家・吉谷光太郎 連載コラム】

2021.01.24 15:00
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連載コラム「吉谷光太郎のマチソワタイム」vol.2

演出家・吉谷光太郎さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第2弾は松田凌さんの魅力に迫ります。

松田さんは、吉谷さんが演出を手掛けた舞台「男水!」に出演。様々な色に染まれる能力を持ちながらも、“カメレオン俳優”ではない別の言葉が相応しいと吉谷さんはいいます。

* * *

松田凌について

何かの役となり色々な人生を歩く俳優にとって“様々な色に染まれる”能力は誰もが欲する貴重なものである。演技とは自分の肉体や精神をキャンバスにし、様々なキャラクターの色をそこに乗せていく行為とも言える。

松田凌という俳優のキャンバスは限りなく真っ白だ。僕はそう思う。彼はヒーローにだってなれるし、ダークなイメージもハマるだろう。情熱的でエネルギッシュ、はたまた理知的でドライ、洋物だって和物だって似合うだろう。

このような俳優は俗にカメレオン俳優と形容されることがあるが、カメレオン俳優はどこか個性的であるというニュアンスが含まれる。俳優自身に何かしらの色合いを感じるものだ。

松田くんはきっとそういうイメージではない気がする。それは稽古場での松田くんを見ていても感じることが出来る。

彼と接している時、情熱的な性格にも見えるし、理知的でドライに見える時もある。時間をかけても松田くんとはこういう人だと言うことを掴めずにいた。それが意図的なのか自然体なのかもわからない。ただ言えるのは常にニュートラルであるということ。

自動車で例えるなら、前進も後退もすぐにギアチェンジができるニュートラルポジション。実際に車体が止まっていてもパーキングではなく、いつでも走り出せるのがニュートラルだ。

常にニュートラルでいる松田くんは、そこからどうギアを入れるかで演技の向かい方が変わるのだ。稽古における理想的な佇まいだと感じた。そうして自身の感情に左右されることなく役を分析する。分析力こそが演技の質を上げるのだ。

昔から「神は細部に宿る」という有名な言葉がある。

細かなところ(ディテール)を突き詰めていけば、そこに奇跡のような瞬間が生まれるということであるが、稽古場での松田くんは、このディテールへの突き詰め方が実に多角的である。

彼をよく観察してみると、彼の演技におけるディテールへの突き詰め方は自分の内面とのコミュニケーションじゃないかと思える。

まるで松田くんの中に、コマツダくんが何人もいて作戦会議をやっている感じ。そしてコマツダくんたちは様々なキャラクターがいる。結果、色々なアイデアや発見がそこに生み出される。

自身から生み出されたそれらは真実性が高い。

俳優はそれっぽく演じようと思えばいくらでも出来る。悲しんでいるフリや怒っているフリ。しかし、そこに真実がなければ俳優から観客へ届くエネルギーは生み出されない。松田くんからは一切「それっぽい演技」は生まれない。

真実を生み出そうと常に自分と向き合い、模索し、挑戦し、探し当てている。

だからこそエネルギーが生まれるのだ。

だからこそ一色じゃないキャラクターが出来上がるのだ。

徹底的に自身と役について向き合い、本番ではキャラクターの感情を爆発させる。

そうして七色に放つエネルギーが観客の心に届いている。僕は松田凌をレインボー俳優だと思うことにする。

マチソワとはーー昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。

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