深淵を覗く覚悟はあるか? 「舞台 PSYCHO-PASS VV2」で再び問われる“正義”【ゲネプロレポ】
アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」のスピンオフストーリーを描く、舞台シリーズ第2弾「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」が2020年11月20日(金)に初日を迎えた。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施されたゲネプロの様子をレポート。「PSYCHO-PASS サイコパス」独特の雰囲気を、劇中写真と共に感じ取ってもらえたらと思う。
シビュラシステムは“正しい”のか…進化した今作
異例の人事で執行官から監視官へと昇進した公安局刑事課三係の嘉納火炉(演:和田琢磨)の前日譚を描く本作。前作では、彼の存在そのものが“異質”であり、シビュラシステムの「人工監視官を作る」という実験のために生み出された存在であることが明かされた。
そんな嘉納の身に起きた“過去”とは一体何なのか。再び観客に“正義”を問う物語が、東京・明治座で幕を開けた。
▲監視官に任命された嘉納火炉(演:和田琢磨)
物語は、嘉納が執行官から監視官に昇進するところから始まる。彼が監視官として引っ張っていくことになるのは、前作でもおなじみの三係。ところが、その顔ぶれはまるで違う。
嘉納の監視官昇進と同時に三係に配属されたのは、新人の執行官・御子柴夕(演:中尾暢樹)、まだ経験の浅い執行官・逆咲一花(演:青野楓)、バツイチで娘もいるベテラン執行官・周麟太郎(演:弓削智久)。この3人に嘉納を加えた4人が三係の全メンバーとなる。
▲何かと衝突することの多い逆咲一花(演:青野楓)と嘉納
▲刑事に憧れている新人・御子柴夕(演:中尾暢樹)とベテラン・周麟太郎(演:弓削智久)
「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界観においては、基本的に一つの係に監視官2人、執行官4人が配属されるのが一般的だ。しかし彼らは全員で4人、監視官1人のみの歪(いびつ)ともいえる編成で、公安に送られてきたスーツケースに詰められた遺体の謎を追っていくことになる。
冒頭から、観客は小さいながらも違和感を抱くことになる。完璧に“正しい”判断を下すシビュラシステムはなぜ、素人目にも無茶と分かる人選と配置をしたのか。システムが「これで問題ない」と言えば、本当にオールグリーンとなるのか。
観客の胸に埋め込まれた“疑問の種”は、ストーリーが進むにつれて次第に芽吹き、大きく成長していく。
三係が事件に関連があるとにらんで接触を試みる「特別自治区 Neo・Nature・Division」(通称NND)は、シビュラで管理された社会から隔離された独立集落だ。このNNDの登場によって、ストーリーはさらに“きな臭く”なっていく。
特区の治安維持組織の構成員・神宮寺司(演:荒牧慶彦)や、その上官にあたる光宗悟(演:多和田任益、梅棒)は、暗闇に怪しい笑顔を浮かべ、三係の動向を眺める。その笑みの正体や真意が明かされていくクライマックスは、まさに怒涛の展開だ。
▲意味ありげな視線を投げる神宮寺司(演:荒牧慶彦)
▲不敵に微笑む光宗悟は、前作違う役で出演した多和田任益(梅棒)が演じる
もちろん、ここでその結末は明かさないが、ラスト数十分に待ち受ける展開は、心して観劇してほしい。物語を観終わったときに、胸に根付いた“正しい正義とは何か?”という問いについて、深く考えさせられることになるだろう。
シビュラ社会とNNDの対比、変幻自在な舞台空間
前作に引き続き、今作もセットや映像での演出が印象的だ。開演前からステージ上は巨大なセットがゆるゆると回転し、セットにはNNDの街並みが映し出される。
シビュラシステムに捕捉されずに暮らすことができるNNDは、ある意味、シビュラシステムの無いこの“現実”に近しい場所なのかもしれない。現実の世界から、NNDの雑踏にうっかり迷い込んだかのような錯覚を覚える開演前の演出も、存分に楽しんでもらいたい。
ステージ中央にそびえ立つ巨大な可動式セットは、回転しながらさらに形を変えていく。反転することで入れ替わる、シビュラに管理された社会と、そうでない社会。
よくある場面転換と言ってしまえばそれまでだが、2つの社会が表裏一体であることを強く感じさせられた。最後の結末まで知ってから改めてセットを見上げると、“表”となったシビュラ社会と“裏”のNNDの、複雑に絡み合うさまを表現しているように見えた。
▲彼らの衝突は価値観の対立を意味するのか…?
また、作中では映像が効果的に使われているが、映像を使いつつも“生の演劇”であることを感じさせてくれる作りとなっている。映像で作品を楽しむというのも、このご時世の主流になりつつあるが、それでもやはり劇場に足を運んだのなら、その空間でしか味わえない芝居を楽しみたいというのが観劇ファンの心境だろう。
映像によって巧妙に世界観を構築しながらも、舞台でやる意味を感じてもらいたいという作り手のこだわりを感じられた。
前日譚ならでは! 点と点がつながる面白さ
本作は前作の前日譚にあたる。冒頭は、嘉納執行官が監視官となり、新米監視官として奮闘し葛藤する姿が描かれる。前作を観たファンは、「あの嘉納にこんな過去があったのか」と、結末を知っているからこそ複雑な思いを抱きながら観ることになるだろう。
そこに深く関わってくるのが、NNDの神宮寺だ。演じる荒牧の、冷酷かつ冷静な視線と殺陣は、観る者の心を静かに燃やす。彼の殺陣が好きだというファンも、軍刀を華麗にさばく姿に胸が高鳴るはずだ。
さらに、キャスト解禁の時点で大きな反響を呼んだのが、多和田演じる光宗だ。前作は、三係のオタクな執行官・蘭具雪也を演じていた多和田。眼鏡キャラという共通点はあるものの、まるで別人である光宗と蘭具に何か関係はあるのか。
先に彼らの“未来”が描かれたことで、点と点との繋がりが生まれ、1作目への道が出来上がっていく。これも本作の見どころといえるだろう。
「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界観らしい問いかけは、観劇後の観客に重くのしかかるだろう。爽やかとはいえないこの重さが、本作の醍醐味ともいえる。
黒い思惑うごめく“深淵”を覗く覚悟をして、「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」の世界に飛び込んでみてはどうだろうか。
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