写真:NHK

『ばけばけ』最終回へ、心のコンパスに素直に従ったトキが“人生の柔軟性”を教えてくれた

2026.03.27 07:03
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またこの時期がやってきた。半年間の朝ドラの放送が終わり、次の作品へ突入していく。長期間、毎日15分間の放送をマラソンランナーの伴走者のように応援してきた視聴者にとっては、どこか落ち着かない時間。今週末にフィナーレを迎えるのは、高石あかり主演の『ばけばけ』(NHK総合)だ。

◆ユーモアのある新タイプの朝ドラ

舞台は明治時代前期の島根県松江市。上級士族の家系の娘に生まれた松野トキ(高石)は、父の事業失敗により大きな借金を抱えて、貧乏生活に追い込まれてしまう。それでも祖父も含めた家族で仲良く暮らし、一度は結婚もしたけれど、まだ夢を追いたい夫に逃げられてしまう悲しい事件も……。そんなトキの暮らす松江に外国人教師として来日したレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)。縁あってトキを女中として雇い、彼女が好きな“怪談”を通じて、次第にふたりは心を惹かれ合わせ、夫婦となる。松江では稼ぎの良かったヘブンは松野家の借金を返済し、国籍を日本に移して3人の子どもらを含む家族と暮らす……といった大まかな流れで、半年間の朝を彩ってきた。

『ばけばけ』の何が良かったのかと挙げていくと、いくつか脳裏に浮かぶ。

まずはユーモアあふれる脚本だ。朝ドラの物語と聞くと、どこか生真面目さが漂う気がする。この数年間を平均しても視聴率が16.18%と言われるモンスター番組が朝ドラだ。老若男女に届く言葉といったスタンスを辿っていくと、生真面目は間違いではない。ただこのスタンスを崩さず、俳優陣に託す形でユーモアなセリフを取り入れていたのが、脚本家のふじきみつ彦。聞けばご本人もお笑い養成所に通った経験があるらしい。どおりでちょっとしたシーンに、俳優同士の「ん?」と見返したくなるやり取りがあったと納得した。

例えばまだトキが女中をしていた頃に、帰ろうとする錦織(吉沢亮)をあれこれと引き止めようとしたシーンに、いつも何かをブツブツと言いかけていた司之介(岡部たかし)……と、記憶がよみがえってくる。どれを見てもこれまでの朝ドラでは珍しい、朝からほっこりさせられる演出だった。

その遊び心のあるシーンを演じていたヒロイン・高石あかりも可愛いらしく、それでいて演技に清々しさがあった。ずっとヒロインが夢だったと、記者発表の場で大きな瞳から涙をこぼしていたのが、ほんの少し前のように感じるけれどもう2年前。この原稿を書いているのは3月23日で、先週、放送最終週の予告を見た。おそらくヘブンが亡くなるシーンで、トキが流していた大粒の涙があまりにも美しく、予告にも関わらず泣いてしまった。趣味と実益を兼ねて、相当数のドラマを見ているけれど、その中でも近年稀に見る愛の凝縮された涙だった。朝ドラを終えると、清廉なイメージの作品からどう進むのかと、主演俳優は次に選ぶ作品が注目される。高石にももちろん期待が高まるが、彼女ならどんな作品も自分のペースに巻き込んでいくのだろうと思う。

◆人生における普遍性の大事さを教えてくれた

では、そんな高石が中心となって描かれた『ばけばけ』は、見る側にどんなメッセージを送りたかったのか。これはあくまで主観だけれど、トキの生き方を見ていると「人生の柔軟性」だと私は感じた。トキは明治時代なのに離婚を経験していて、それも恥じていない。その後にまさかの国際結婚もしている。いずれも自分の心のコンパスに素直に従った結果だ。司之介が娘の縁談を滞りなく進めたい一心で、マゲも切った。箸より重いものを持った経験のない雨清水タエ(北川景子)だって、生活に合わせて台所に立って白飯を炊いた。幼なじみが結婚によって急に格上げしてしまい、経済状況の落差にどこか引け目を感じてしまって、一時は距離を取っても、仲の良さは崩れなかった庄田サワ(円井わん)もいた。彼女は最終的に自分の力で、幸せを掴んだ。定住癖のないヘブンは、大事な家族のために日本人になると決めていた。

みんなその時々によって宝物は変わる。そのたびに自分がそれまでのスタンスをサラリと変える。その姿に対して「節操がない」と言われるシチュエーションもあるけれど『ばけばけ』は、人生の普遍性を肯定してくれていた。

モデルになったのは「怪談」の作者で知られる小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンとその妻・小泉セツ。私は幼少期に八雲の生涯を描いたドラマ『日本の面影』(NHK総合/1984年)を見ていた記憶がある。怪談そのものもおもしろかったし、作品を通して国際結婚の難しさを知った、おぼろげな記憶がある。あれから約40年が経過して、またこのふたりに大好きなドラマで再会できるとは、長く生きているメリットだとしみじみ。そして改めて八雲が丹精を込めて書き上げた作品=熱量には熱き魂が宿り、こうして受け継がれていくのだと、気づかされた。私も読者の思い出の一丁目一番地に何かを刻んでいけるような書き手でありたい。

さあ、3月30日(月)からはまた新しく『風、薫る』が始まる。今度は何を教えてくれるのだろうか。

(文/コラムニスト・小林久乃)

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