松山ケンイチ、『リブート』『テミスの不確かな法廷』冬ドラ席巻で証明された変幻自在な演技力
松山ケンイチさんが、話題の冬ドラマ2作に立て続けに出演し、世間を驚かせています。本稿ではあらためて、松山さんのカメレオン俳優ぶりを振り返りたいと思います(以下、ネタバレを含みます)。
まず、松山さんの初回へのサプライズ登場が大きな反響を呼んだ日曜劇場『リブート』(TBS系)は、第3話までの平均世帯視聴率11.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、TVerお気に入り登録数122万と、様々な指標で冬期トップを走っています。
家族思いのパティシエ・早瀬陸が、妻殺しの容疑を晴らすため、整形して悪徳刑事・儀堂歩になりすまし生きる(リブートする)という大胆な導入でしたが、早瀬演じる松山さんの図抜けた表現もあり、視聴者を圧倒し納得させることに成功しました。
早瀬は本来、悪事に手を染めるような人間ではなかったはずですが、愛する家族のため幸後一香(戸田恵梨香さん)の口車に乗り、整形後の鈴木亮平さん演じる儀堂へと身も心も“リブート”させます。気弱で善人だった早瀬が覚悟を決めた時の鋭い眼差しと座った目から、人生を懸けた本気度が伝わってくる。
息子に対し、真犯人を見つけるために「しばらくいなくなる」と告げ、「絶対戻ってくるからな」と涙ながらに抱きしめる切迫したシーンでは、家族を守る父親としての愛情深さと執念を感じさせました。
一方、『リブート』ほど派手ではありませんが、ドラマファンの間で高い評価を得て、冬期No.1に推す声も多いのが松山さん主演の『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)です。2月9日執筆時点で、レビューサイト・Filmarksでは『リブート』の評価を上回り、5点満点中4.0と冬期ドラマで1位につけています。
同作は、任官7年目の裁判官が様々な事件に挑む物語ですが、松山さんが作り出す主人公・安堂清春の人物像がしっかりとしているからこそ成り立っていると言っても過言ではありません。安堂は、幼少期にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)と診断されつつも、社会の一員になろうともがき生きてきました。
松山さんは、2009年に主演した映画『ウルトラミラクルラブストーリー』(リトルモア)でも、軽度の発達障害を患う青年を演じ、少年のような言動をするという特性を体現していました。
また、2024年の『ライオンの隠れ家』(TBS系)で坂東龍汰さんが好演した自閉スペクトラム症の青年は、周りの介助が無ければ生活が困難という子供のような特性を持っていました。
それに対し、『テミスの不確かな法廷』の安堂は、周囲と合わせるのが苦手ではあるものの、特例判事補にまでなり、1人で勤務しています。裁判官になる際、父親から発達障害であることは隠すように言われ、誰にもカミングアウト出来ずにいる。裏を返せば安堂は、はっきり公言しなければ、ASDやADHDであることはギリギリ分からない境界線上にいることになります。
松山さんは、周りと違うけれど「ちょっと変わった人」という位置づけで社会になんとか馴染み、“普通”に生きようと努める裁判官という極めて難しい役どころを、解像度高くユーモラスに描き出しています。
裁判中に気になることがあるとカタカタと貧乏ゆすりをしたり、突如一点を見つめ行動が止まり思考を巡らせるなど、日常のいたるところで人とは違う特性が出てしまう。蚊の音に過敏に反応したり、複数のことを同時に処理出来ないために重要な情報が入ったリュックを置き忘れ、裁判に支障をきたしてしまうこともある。
それでも、他の人が気付かない小さな違和感に敏感で、そこから事件解決の糸口を見出し、裁判官として、人として、必死に生きて成長を見せる安堂は、普通に暮らす視聴者にとっても共感し応援したくなる存在です。「わからないことをわかっていないと、わからないことはわかりません」という彼の口ぐせは、万人に共通して肝に銘じておくべき名言ではないでしょうか。
『リブート』では第1話以降、わずかな回想シーンに登場するのみの松山さんですが、鈴木さんと共に『第3話ビジュアルコメンタリー』動画には出演しています。1人2役の鈴木さんが「早瀬陸そして儀堂歩を演じました鈴木亮平です」と言った後、「早瀬陸そして安堂清春を演じました松山ケンイチです」と名乗り、「(安堂は)局が違うからバツ」とツッコまれひと笑い取った松山さん。
妻役の山口紗弥加さんと撮影がいつまであるかの話もほんのりしており、『リブート』への再登場も期待しつつ、『テミスの不確かな法廷』の安堂が生きる道筋をどう描いていくのか、見守りたいと思います。
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