自分にとっての“まげ”を切り落とせるか?朝ドラ『ばけばけ』で感じた“らしさ”を貫く難しさ
自分を貫くことは素敵なことである。好きな服装、好きな髪型、好きな生き方。誰に何と言われようと、独自のスタイルを追求する姿はとてもかっこいい。だが、「自分を貫いている素敵な人」と「時代に乗り遅れた古い価値観の人」の境目は、一体どこにあるのだろうか。
現在放送中の朝ドラ『ばけばけ』(NHK)には、時代遅れな父・司之介(岡部たかし)と祖父・勘右衛門(小日向文世)が登場する。江戸時代の終わりとともに武士の時代が終わってもなお、彼らは武士としての生き方を貫いている。二人は、一人娘・トキ(高石あかり)の見合いという、これ以上ないと言ってもよい大切な場面でも“まげ”を切り落とさなかった。西洋化が進む世の中に逆らい続けた結果、娘の見合いの足を引っ張ってしまったのだ。
当時、彼らのような武士スタイルの男性は、どれほど異質だったのだろう。現代に置き換えるなら、昭和のロック魂をそのまま引きずり、リーゼントにサングラス姿で結婚式に参列する父親、といったところだろうか。破談とまではならなくても、この先ずっと親族から冷たい視線を向けられることは確かだ。もし自分の父親が……と想像するとヒヤリとしてしまう。
とはいえ、彼らにとってのまげのようなものは、どんな人にもあるはずだ。自分にとってすごく重要で、どうしても譲れないもの。それを失ったら、自分のアイデンティティも失ってしまうようなもの。私自身にも「自分らしい」と感じる服やヘアスタイルがある。たとえ流行ではなかったとしても、自己表現のひとつとしてそれらを選んでいるのだ。
自分らしさは場面によっては自分の大きな武器になるが、一歩間違えれば大切な何かを失ってしまう可能性もある。だからこそ、トキの「せめて人に迷惑かけない武士やってよ」という一言に、私もハッとさせられた。自分らしさを追求しすぎて意固地になっていないか。自分らしさを人に押し付けていないか。自分らしさを貫くあまり、周囲を不快にさせていないだろうか。
また、見た目はアップデートされていても、心の中の“まげ”はそのままという人も多い。たとえば、「若者は我慢が足りない」や「男は仕事、女は家事」といった昔の常識を、なんとなく正しいと思い込んでいるようなケースだ。それは決して悪意ではなく、“自分の信じてきた正しさ”を守っているだけなのだろう。けれど、その正しさが誰かを息苦しくさせてしまうこともあるのだ。
「自分を貫いている素敵な人」であるためには、自分らしさの割合をコントロールしなければならない。ある時は10割、またある時は5割。時には1割にしないといけない時もある。
トキの二度目のお見合いが決まり、司之介は自分のアイデンティティだったまげを切り落とした。彼の口から出たのは「わしは、おトキの幸せを願っちょる」という言葉。落ち武者スタイルには思わず笑ってしまったが、父の愛情を受け取ったトキの表情に、私もグッときてしまった。
自分を貫きながら、多様な価値観が次々と生まれる今を生きるのは難しい。流行に流されて自分らしさを見失ってしまうのも、また生きづらいだろう。そんな時は、切り落とさずとも、一度自分の“まげ”を結い直してみるのはいかがだろうか。この混純とした世の中を、自分らしく生き抜くヒントが得られるかもしれない。
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