

「死んでも生きるがぁ~」が刺さる! 朝ドラ『ばけばけ』が描く“喪失の先にある希望”を読み解く
髙石あかりが主演を務めるNHK連続テレビ小説第113作目「ばけばけ」(NHK総合)が9月29日から放送が始まった。
本作は、旧来の幕藩体制が崩れ、近代化の進む日本を舞台とした物語。「耳なし芳一」や「雪女」の作者である小泉八雲をモデルにしたヘブン(トミー・バストウ)と妻のセツをモデルにしたトキ(髙石あかり)の人生がフィクションを交えて描かれている。怪奇現象と人間の深層心理の関係や本作への期待について英米文学を研究している筆者が読み解く。
怪奇現象と幽霊:人間の深層心理の世界私たちは自分の想像をはるかに超える現象が起きたら恐怖におののくことが多い。こうした現象の中には人間の理解を超える自然現象によるものもあるが、自身の精神状態に起因するものもある。
小泉八雲はエドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」に織り込まれている詩「病める王宮」を考察しており、この短編に心酔していたと想像できる。「アッシャー家の崩壊」は語り手と憂鬱症を患うロデリック・アッシャーを中心に展開される物語だ。アッシャーは妹・マデリンを死んだと思い込み、墓に安置したが、実際は生きていた。彼女がアッシャーと語り手の目の前に屋敷が崩れる音とともに現われるという人知を超えたラストを迎える。こうした現象を“怖い”“幽霊が現れた”と片付けてしまうのは短絡的だろう。目の前に現われたマデリンは不安定な精神状態が生み出した幻覚、理性で計り知れない形で支配された人間の闇の現れ、生き埋めにされたマデリンの恨みなどさまざまな解釈ができるからだ。
八雲は理性の崩壊を描いたこの作品を深く読み、見解を論じているだけでない。自身の作品においても、相手に染みわたり弱らせてしまうほどの憎悪を抱く喜兵衞の内儀(「生霊」)、理性を超えた霊の世界に吸い込まれる芳一(「耳なし芳一」)といったキャラクターを登場させている。彼がこうした世界に魅了されるのは、複雑な生い立ちを抜きには語れない。
八雲は幼少期から孤独を感じていたと思う。父はかつての恋人の未亡人と再婚し、母もまた八雲を捨てて再婚した。両親の離婚後、熱心なカトリック信者の大叔母に引き取られた。その後も、厳しい寄宿学校での生活や、16歳のときに事故で片目を失明するなど困難が続いた。さらに、彼はアメリカで極貧も味わっている。
また、八雲と同じく怪談やホラーに心惹かれたセツも、順風満帆な人生を歩んできたわけではない。幼い頃から勉強や物語に心惹かれていたものの、実家は家禄の奉還により没落し、父も祖父も新時代に適応できず、11歳にして上等科進学を諦め、働きに出なければならなかった。また、18歳のときに、士族出身の為二と結婚するものの、彼はセツの家が抱える負債や厳格な家風に耐えきれず出ていってしまった。
人はこの世でつらさや苦しみを抱えると、別の世界に目を向けたくなるものだ。八雲やセツにとって物語は現実逃避できる1つの場所だったのかもしれない。“うらめしい世の中”だけど、“がんばろう”と思える 本作は「怪談」の著者・八雲と妻のセツをモデルにした作品であり、「ばけばけ」というタイトルからもおばけやホラーを連想する。しかし筆者は、髙石あかりのほのぼのとした雰囲気やトキが現実に屈せず人生を切り拓いていく姿に、多くの視聴者が明るい気持ちになれると思っている。
第1週「ブシムスメ、ウラメシ。」では近代化の進む日本で、これまでのように武士の特権を活かして生きられなくなった松野家の苦悩が描かれていた。武士の世を終わらせた新政府や黒船で来日したペリーをうらみ、一家で丑の刻参りをするシーンは不気味であったが、どこかコミカルでもあり、「ミシシッピ!」「サラトガ!」と声を上げながら釘を打つ司之介(岡部たかし)と勘右衛門(小日向文世)の横で、立ったまま眠るトキに思わずクスッとした視聴者は多いと思う。また、トキはこの丑の刻参りをクラスメイトにからかわれ、父が働いていないことを責められたが、周囲の批判にひるむことなく、父に寄り添う姿が心に残った。
トキは父のウサギビジネスの失敗で学校に通えない事態に陥るどころか、“しじみ汁だけは飲ませてやる”という約束もあっけなく破られた。親族の水傳(堤真一)が経営する機織り工場で働くことになったが、「ええこと 一つもないけん」と同僚と愚痴をこぼしながらも笑顔で、たくましく生きている。仕事で疲れて帰宅し、「けど 生きるがぁ...死んでも生きるがぁ~」とさけびながら、床にふせっていたように、懸命に生きようとしている。本放送を帰宅後に観た視聴者の中には床にふせながら、“私もだわ~”とこのシーンに共感した人は多いと思う。
トキとヘブンが共に歩む姿が今後どう描かれるのかも楽しみだ。第5話の縁結びで有名な八重垣神社で紙の舟を使って恋占いを行うシーンでは、セツの舟は遠くへ進み、ヘブンとの出会いの兆しが感じられた。トキには「世界で一番のママさんです」と優しくも、真剣なまなざしで伝え、キスをしてくれるヘブンとの出会いが待っている。
現実は残酷だ。期待は裏切られることが多い。それでも、本作を通して“うらめしい世の中”にも“愛”や“生きるすばらしさ”があることを改めて実感できそうだ。
【あわせて読む】朝ドラ『ばけばけ』制作統括が絶賛する、高石あかりの演技力「演技が自然すぎて撮影が止まった」https://entamenext.com/articles/detail/38244
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