ちゃんぽんやタンメンはラーメンじゃない!? 深すぎるラーメン界のジャンル分け【ラーメン官僚】
日本全国のラーメン店の発掘と紹介をライフワークとし、年間700杯以上のラーメンを食べ続け、生涯実食杯数は20,000杯超という日本屈指のラーメンフリーク、通称「ラーメン官僚」こと、かずあっきぃ氏。日本におけるラーメンの歴史や文化、その進化を語り尽くす短期連載、第3回は「ラーメンのジャンル分けについて」。(前後編の後編)
前編で、ラーメンを「しょう油」、「しお」、「みそ」、「とんこつ」、「MIX」、「にぼし」、「鶏白湯」、「つけ麺清湯」、「つけ麺濃厚」、「汁なし」の10部門に分ける方法を提案しました。
もちろん、もっと細かく分類することはできますが、そうすると、どの部門にも属さないラーメンが更に増えることが想定されるため、個々の部門がカヴァーする範囲は、ある程度広めにとれるようにした方が良いと思います。
そのことを端的に示す一例として、「とんこつ」について、より細かく「純豚骨」、「家系」、「二郎系」に分けたときにどのような事態が生じるのかを説明します。
まず、このような分け方をすると、豚骨醤油ラーメンは、そのどれにも属さず「廊下に落ちて」しまいます。そこで、そうならないよう「純豚骨」、「家系」、「二郎系」に加え、「豚骨醤油」という部門を新たに設けたとしましょう。「万事解決」と思いきや、新たな問題が勃発します。そもそも「豚骨醤油」は、「しょう油」と被ります。また、「家系」と「二郎系」は「豚骨醤油」の一種ですから、「豚骨醤油」が立った瞬間、「家系」と「二郎系」は、「豚骨醤油」に吸収されてしまいます。
もちろん、現時点においても既に、冒頭の10部門のいずれにも当てはまらないラーメンは、確実に存在します。
『中華蕎麦ひら井』の「中華蕎麦」など、3種(鶏・豚・牛)の動物系素材から出汁を採るラーメンは、10部門のどれに該当するでしょうか。厳しいですよね。「とんこつ」でも「鶏白湯」でも、鶏・豚・牛から採ったスープが属する部門としては「帯に短し」です。
分かりやすい例を、もうひとつ紹介しましょう。『麺家たいせい』のラーメンは、ビジュアルだけを捉えれば「家系」にしか見えませんが、出汁の構成要素は、「家系」のスープ素材として一般的な豚・鶏ではなく、ほぼ鶏です。見た目は「家系」ですので、「とんこつ」に分類してしまいそうになりますが、素材はもっぱら鶏なので、「とんこつ」とするには無理があります。かといって、ビジュアルや味わいはまさに「家系」のそれなので、「鶏白湯」にカテゴライズするのも違和感がある。そんな、いわゆる「境界領域」のラーメンを提供する店が、近年、どんどん増えています。
「鶏白湯」と言えば、関西圏で一世を風靡している「泡系(エスプーマ系)」と呼ばれるラーメンが存在します。「泡系」とは、ブレンダーで泡立てたスープを用いるラーメンの総称で、大阪の『ラーメン家あかぎ』、奈良の『ラーメン家みつ葉』などが、代表的な「泡系」提供店舗です。ただ、これらの店舗のスープは、鶏のみならず、豚からも出汁を採っています。そうなると、たとえ、ラーメンのビジュアルがどれだけ「鶏白湯」に似ていても、「鶏白湯」、「とんこつ」のいずれにも分類できません。
ラーメンの種類について論ずる上で、もう一点、外せないポイントがあります。
「ラーメン」とされる麺料理の範囲は、時代が下がるにつれてどんどん広がっています。例えば、「担々麺」がその典型でしょう。というのも、私がラーメンの食べ歩きを始めた1990年代当時、ラーメン専門店が担々麺を商品として提供することは殆どなく、もっぱら中華料理店の麺料理のひとつという位置付けでした。
ところが、時代が下がり今では、醤油ラーメンと担々麺を共に提供するラーメン専門店は、日本中に星の数ほど存在する状況となっています。例えば、都内屈指の実力店『創作麺工房鳴龍』は、「醤油拉麺」、「塩拉麺」を提供する純然たるラーメン専門店ですが、「担々麺」も商品化しており、一番人気は「担々麺」です。今ではもはや、担々麺がラーメンの一種であることに異議を唱える人は、殆どいないでしょう。
かつては「ラーメンではない」とされていた「沖縄そば」や「長崎ちゃんぽん」も、最近では「広く考えて、ラーメンのバリエーションのひとつと考えても良いではないか」というムードになってきています。
「タンメン」も同じです。タレと出汁を合わせてスープを作る「塩ラーメン」と、タレを使わず、野菜を茹でる際に塩を溶かし込んでスープを作る「タンメン」とでは、製法からして根本的に異なりますが、2000年代以降、「タンメン」を手掛けるラーメン専門店が徐々に増え、今では、「タンメン」をラーメンでないと考える人の方が少ないのではないかと思います。
「担々麺」、「ちゃんぽん」、「タンメン」のような、ラーメンとみなされるようになってまだ日が浅い品々を、どの部門に位置付けるのが適当かといった議論は、今でもなお、複数のラーメン好きが一堂に会せば、時折交わされます。冒頭の10の部門分けは、あくまで今、ラーメンとされている品々について、できる限り「廊下に落とす」ことなく、各部門へと振り分けることができる、現状最適に過ぎません。今後、ラーメンのバリエーションが増えるなど、更なる変化が生じれば、自ずと変わっていくものなのです。
構成/大泉りか
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