第37回東京国際映画祭おすすめ作品を紹介『チェイン・リアクションズ』『ペペ』『シマの唄』
10月28日~11月6日の10日間開催されている、第37回東京国際映画祭。ラインナップから抜粋したおすすめ作品を紹介します!
■『チェイン・リアクションズ』“悪魔のいけにえ”はいかにホラー界に影響を与えたかを映画マニアの視点から描く
今年50周年を迎える、トビー・フーバーが手掛けた伝説的ホラー映画『悪魔のいけにえ』(1974)は、後のホラー映画界だけに留まらず、映画界全体に多大なる影響を与えたことは言うまでもない。
その影響を、コミコンなどでもお馴染みの映画マニア、アレクサンドル・O・フィリップが、三池崇史やスティーヴン・キングなどの著名人のインタビューを交えながら、改めて紐解いていくドキュメンタリー。
今まで『封印殺人映画』(2006)などで総合的に扱われたことはあるし、モデルになったエド・ゲインまで視野を広げれば、去年MGM+で配信された『Psycho: The Lost Tapes of Ed Gein』などもあったが、『悪魔のいけにえ』だけにフォーカスした作品というのも珍しい。これはアレサンドルならではの視点だ。
アレクサンドルは過去にも、唯一日本でリリースされた作品としては『ピープルVSジョージ・ルーカス』(2010)を手掛けているが、ほかにもヒッチコックの『サイコ』(1960)が与えた影響を紐解いた『78/52』(2017年)、『エイリアン』(1979)の影響を紐解いた『Memory: The Origins of Alien』(2019)、あるいは「スター・トレック」を扱った『William Shatner: You Can Call Me Bill』(2023)など、何かとアニバーサリーイヤーには便乗してくる監督としても知られている。
映画を扱ったドキュメンタリーは、定期的に制作されているのだが、ほとんど日本に入ってこない現状がある。そのなかでもアレクサンドルの作品は、俯瞰的に一歩引くのではなく、オタッキーな視点全開で楽しいドキュメンタリーが多いだけに、今作をきっかけに過去作も観られるようになることを熱望する。
【作品情報】監督/脚本:アレクサンドル・O・フィリップ出演:スティーヴン・キング、三池崇史、アレクサンドラ・ヘラー=ニコラス、パットン・オズワルト、カリン・クサマほか
■『ペペ』カバの亡霊の視点から描く人間の愚かさ
福音主義のキリスト教徒アルベルトが、殺害された父親の仇をうつための旅に出る、ドキュメンタリータッチ(撮影環境から自然とそうなっているいるのかもしれない)のロードムービー『Cocote』(2017)を撮ったネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアスが、今度はカバの映画を撮った!と話題になった作品だ。
トルコ・イスタンブールの街で暮らす野良犬を描いた『ストレイ 犬が見た世界』(2020)やロバの視点から描いた『EO イーオー』(2022)、第34回でも上映された、家畜の牛をじっと観察させる『牛』(2021)など、動物視点から人間の愚かさや不可思議さを描いた作品が、近年増えてきている。
そして今作は、コロンビアのジャングルで殺害されたカバ”ペペ”の亡霊の視点から、カバの生態を描くのと同時に、カバの目から見た植民地主義や政治と暴力といった社会問題を描いているのだが、セリフがあるため、ダーク版『僕のワンダフル・ライフ』(2017)のような側面もある。
【作品情報】監督/脚本/編集/作曲/撮影監督/音響:ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス出演: ジョン・ナルバエス、ソル・マリア・リオス、ファリード・マティラ、ハーモニー・アハルワほか
■『シマの唄』アフガニスタンのデリケートな時期を、ふたりの女性目線で描く
女性の権利を主張する運動家でもあり、国際女性映画祭を立ち上げるなど、その活動は映画界だけに留まらず、現実を変えようという意欲の強いロヤ・サダトの最新作。
長編デビュー作『Se noghta』(2003)から、女性の行動が極端に制限されたアフガニスタンを舞台とした、社会派な作品を撮り続けてきた。
第90回アカデミー賞・長編国際映画賞において、アフガニスタン代表作として選出された『A Letter to the President』(2017)のような劇映画の場合もあれば、『The Sharp Edge of Peace』(2024)のようにドキュメンタリーの場合もあったりと、様々なアプローチで社会にメッセージを送り続けている。
今作では、1978年のアフガニスタンの共和制から社会主義に移行するデリケートで常に緊張感が漂う時期を、育ちの違うふたりの女子大学生の視点を通してスリリングに描かれていく。
【作品情報】監督/脚本:ロヤ・サダト出演:モジュデー・ジャマルザダー、ニルファル・クーカニ、アジズ・ディルダール、リーナ・アーラムほか
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