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【何観る週末シネマ】『哀れなるものたち』ヨルゴス・ランティモス監督の変態性が際立つ問題作『憐みの3章』

2024.10.04 21:44
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この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『憐みの3章』。気になった方はぜひ劇場へ。

〇ストーリーこの作品は、3つの奇想天外な物語から構成されている。自分の人生を取り戻そうと格闘する選択肢を奪われた男、海難事故で失踪した妻が帰還後別人になっていた夫、卓越した宗教指導者になるべく運命付けられた特別な人物を懸命に探す女……そんな3章。

〇おすすめポイントヨルゴス・ランティモスといえば、『哀れなるものたち』(2023)や『女王陛下のお気に入り』(2018)など、アカデミー賞など多数の映画賞で評価されている、独特の作風で知られている監督であるが、今回は脚本にエフティミス・フィリップが復帰していることに注目してもらいたい。

エフティミスといえば、ヨルゴスの『籠の中の乙女』(2009)からタッグを組んでいる脚本家であり、その後『ロブスター』(2015)、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)と、ヨルゴス作品のブランドを確立させたブレーン的存在である。

しかし、近年はヨルゴスの作品から離れており、代わりに風刺劇を得意としたトニー・マクナマラとのコンビが続いていた。『哀れなるものたち』と『女王陛下のお気に入り』は、トニーが脚本を手掛けた作品であることから、やっていることは変態的であっても、フェミニズム映画としての側面をチラつかせることに成功していた。決してそのテイストも悪いわけではない。こちらもこちらで良いコンビだ。

もともとヨルゴス自体が、ねちっこい変態性をもった監督であることが根底にはあるのだが、実はエフティミスも負けず劣らずの変態。

例えばエフティミス脚本の『PITY ある不幸な男』(2018)では、昏睡状態になった妻をもつ夫が、周囲から心配されることに依存と快感をおぼえていたが、妻が目を覚ましたことで、それが一気に妻に向いてしまった。喪失感、疎外感など、誰にでもどこかにあるような人間の嫌な感情をえぐった内容であった。

そんなエフティミスが戻ってきた今作。ヨルゴスの変態性を、より際立たせていたエフティミス、ただで済むわけがない! 見事なほどに変態性が際立っている!!

今作は、キャストは同じであっても、全く異なる3つの物語が展開される短編集となっている。短編といっても、それぞれが1時間程度あるため、3つの映画がセットになっていると言った方が正しいだろう。

全く違うことを描いているように思えるかもしれないし、実際にそうなのだが、実はひとつ共通している部分がある。それは何かに依存、すがる、思い込み、信仰する側の心情、精神状態に極端に寄り添っていることだ。

人間のもつ身近な感情や思想を、第三者、あるいは観客の俯瞰的な視点から描かれるのではなく、かなり誇張されてはいるが、徹底的に、変態的に、当事者の視点に寄り添っている。

人間は行動や発言する前に様々なことを脳内で「ああでもない、こうでもない」と考え、その中で結論を出すものだが、その過程を映像としてカットしないで見せているのだから、妄想や思考が渦巻く脳内世界と現実世界が交じり合った世界観ともいえる。

『CLIMAX クライマックス』(2018)や『スキャナー・ダークリー』(2006)のように、薬物依存者、常用者視点のトリップ感を演出した作品というのは、今までにも多く制作されてきてはいるが、根本的な人間の思考における異常性を映像として演出した作品というのは珍しいのではないだろうか。

結論として、今作で描かれていること、起きていることは、何ひとつ信用できないし、なんだかんだ言っても、単純にエマ・ストーンを変態的に映したいだけのようにも感じる……。

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〇作品情報監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ出演:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリー、 ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエ、ハンター・シェイファーほか配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン原題:KINDS OF KINDNESS

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