『海底47m』

ホラーより怖い!未体験のワン・シチュエーション映画3本を有村昆がレコメンド「100点満点の台本」

2024.09.29 15:03
提供:ENTAME next

夏の終わりにこそ観たい、納涼映画。今回は、ホラーより怖い、ワン・シチュエーション映画を映画評論家の有村昆が紹介します。

まだ残暑が続きますね。今年の夏は、観測史上最高だったとか。これだけ暑いとあまり出歩かずに、家でずっと映画を観ていたという方も多いんじゃないでしょうか。

昭和のころは、暑い時期には怪談映画を観てゾクっと涼を得るという謎の習慣がありました。あれ、なんだったんですかね? 夏休みにはテレビで怖い映画特集とかよくやってましたよね。

でも、いまどき映画でゾクゾクして涼しくなりたいなら、ホラーよりもワン・シチュエーション映画をがおすすめしたいですね。

ソリッド・シチュエーション・スリラーなどとも呼ばれますが、舞台設定が限定された空間で、追い詰められた登場人物たちが試行錯誤するような作品を指すジャンルになります。

ホラーだと1作目の『SAW/ソウ』、SFなら『CUBE』といった、限定空間で展開する名作がソリッド・シチュエーションと呼ばれるようになり、スキューバダイビングをしていたカップルが大海原に取り残されてしまう『オープンウォーター』が話題となったことでジャンルが活性化しはじめて、いまや毎年のように場所や設定に工夫を凝らした新作が作られています。

小島に取り残されてサメと戦う『ロスト・バケーション』、棺桶に入ったまま埋められて脱出を試みる『リミット』、日本でも中島裕翔くん主演の『#マンホール』という作品もありました。

ジャンルを広く捉えると、コリン・ファレルの『フォーン・ブース』なども入るかもしれないですね。『グランドピアノ 狙われた黒鍵』という、イライジャ・ウッド主演の映画があるんですけど、これはピアニストがステージで難しい曲を弾こうとしたら、楽譜に「1音でも間違えたら、お前を殺す」と書かれていて、どんどん追い詰められていくというお話で、これもワン・シチュエーションものと言っていいと思います。

本当に様々な作品があるんですけど、僕がまずオススメしたいのが『海底47メートル』という作品です。

シャークゲージと呼ばれる檻に入って海に潜り、近くに寄ってくるサメや魚を間近で観てスリルを楽しむというアクティヴィティがあるんです。これに2人組の女の子が挑戦するんですけど、そもそも1人は乗り気じゃなかったのに、もう1人の子が積極的に誘って、なんとか連れ出したという伏線があるんですね。

そしてサメがウヨウヨ泳いでいる沖までいって、エサをばら撒いて、ふたりの入ったケージを水深5メートルくらいのところにドボーンって吊り下げるんです。

ふたりは酸素ボンベをつけていてしばらくは潜れるので、目の前まで来たサメと写真を撮ったりして、それなりに楽しんでいたんですけど、ケージを吊っているチェーンを巻き取るウインチが壊れてしまい、ふたりは檻に閉じ込められまま水深47メートルの海底に沈んでしまう。

すぐにケージの扉を開けて脱出しようと思うんですけど、入口に重りみたいなものが乗っかっちゃって扉が開かない。なんとかこじあけても、海中にはサメがウヨウヨしてるので檻の中から離れられない。通信機器も電波が届かない。酸素ボンベの残りもどんどん減っていく。ふたりは様々な方法で脱出を試みるんですけど、上手くいきそうだと思ったら失敗するの繰り返し。水面に出るときには、水圧に体を慣れさせるために出来るだけゆっくり上がっていかなきゃいけないんですけど、そんな悠長にしてたらサメに襲われてしまう…というようなハラハラする展開が続きます。

映画を見てる間、ホントに息苦しくなるほどの没入感。涼しいを通り越して、背筋がゾクゾク、ヒヤヒヤする映画です。

納涼という意味では、雪山のリフトに取り残されてしまう『フローズン』という映画がおすすめなんですけど、これはサブスク配信にあまり入っていなかったので、まずはこの『海底47メートル』から観ていただければと思います。

ワン・シチュエーションものって、設定だけなら誰でも思いつくかもしれません。取り残されたらイヤな、絶望的な場所を考えればいいだけですから。でも、そこからどうやって脱出するかというアイディアや、サスペンスを持続させる脚本力が重要なんですよね。

それにどうしても同じような画面が続いてしまうので、演出的なメリハリも試される。粗製乱造される安っぽいジャンルと思われがちですが、スタッフ側の映画偏差値が高くないと面白くならないんです。

そこでもう1本、これぞ究極のワン・シチュエーション映画といえるのが『FALL/フォール』です。

クライミングが趣味で、いろいろあって心に傷を負っているベッキーという女性を、友達のハンターという女性が、人里離れた荒野に立つ、いまはもう使われていない高さ600メートルのテレビ塔に登ろうと誘うんです。登頂すればベッキーがトラウマを乗り越えられると思ったんですね。

ふたりは無事、頂上までたどり着くんですが、登る時に使っていたハシゴが崩落してしまう。高さ600メートルの狭い足場に取り残され、降りることもできず、身動きがとれない。携帯の電波も圏外。さぁ、ふたりはどうなってしまうんでしょうか…。

これはもうあまり語らず、作品を観ていただきたい。次から次に襲ってくる危機、そしてサバイバル。これこそ100点満点の台本だと思います。

それに加えて、極限状態になると人間はどうなってしまうのか、という部分にも踏み込んでます。やっぱり幻覚とかも浮かんでくるんですよね。

右腕が岩に挟まれてしまう『127時間』でも、そんな究極に追い込まれた人間の精神状態が描かれてました。ゾクゾクした感覚を味わいたいなら、むしろ『127時間』のほうがいいかもしれません。

ワン・シチュエーションものは、映画の面白さがシンプルに伝わるし、もし自分だったらどうするかという想像をさせるところがホラーよりもリアルで、ヒヤヒヤするんだと思います。刺激的な時間がほしいかたに、観てほしいジャンルですね。

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