「たくさん愛してもらえたらうれしい」声優・富田美憂、これまでの軌跡と進化が凝縮された一枚
2019年11月15日、20歳の誕生日当日にアーティストデビューを果たした声優の富田美憂。今年でアーティストデビュー5周年、この期間でさまざまな素晴らしい作品を残してきた彼女が、この記念すべき年に2ndフルアルバム『Violet Bullet』をリリースした。1stアルバム『Prologue』から約3年2か月ぶりとなる今作は、今に至るまでの著しい成長を捉えつつ初期衝動までもパッケージした、まさに現時点でのアーティスト・富田美憂のすべてが詰まった「アベンジャーズのような1枚」に仕上がった。歌唱はもちろん作詞まで手がけ、大切な想いが込められた今作について話をうかがった。
“私らしい音”の輪郭をさらに進化させた面も織り交ぜていった
――完成おめでとうございます! これまでの軌跡と進化が凝縮された記念碑にして集大成的な一枚だと思いました。
ありがとうございます。節目の作品ということもあり、デビュー作「Present Moment」を彷彿させる要素もあり、コンセプトアルバムの『Fizzy Night』を経て見えてきた“私らしい音”の輪郭をさらに進化させた面も織り交ぜていって。全曲揃ったとき、「アベンジャーズみたいなアルバム!」と思ったぐらい、前作『Prologue』以上のバラエティに富んだ内容になりました。
――今作のタイトルもまた象徴的ですね。“Violet=紫”は富田さんの好きな色だったかと。
はい。それもありますし、『Prologue』が「始まり」の意味なので「赤色」を基調としています。5年という時間をかけ、その赤から徐々に「落ち着き」の青色に向かっている。けど、まだ青にはたどり着けない。その成長過程にいるという意味で赤と青の間の「紫」を軸に置きました。それに合うパキッとした言葉がほしいと考える中、ふと「Bullet」という単語が下りてきて。キザですが、「みんなの心を、この弾丸で撃ち抜きたい!」という意味も込め提案しました(笑)。
さまざまな経験を経た今だからこそ表現できる曲ばかりです
――冒頭を飾る「Ever Changing Violet」が「Prologue(はじまり)が終わって」という一節で始まり、『Prologue』からの物語の連続性を感じさせる内容になっています。
今回、リード曲は絶対にデビュー曲を提供していただいたお二人(金子麻友美、睦月周平)がいいとお願いしたんです。お二人なら“富田美憂像”を明確に出してくださり、新たな道も提示してくれる曲にしてくださるはずと、あえて曲の方向性やイメージなどはリクエストしませんでした。想像以上のものをいただき、これは最高の形にしなくちゃ!と、とても気合いが入りました。
――さらに今作中最も発表の早い「OveR」(2022年4月)へ続き、ラストを最新シングル「Paradoxes」(2024年4月)で結ぶ。3年2か月に渡る“成長”を追体験していくようなつくりなのが素晴らしい。
はい。全曲、20代半ばを迎えさまざまな経験を経た今だからこそ表現できる曲ばかり。例えば、デビュー間もないころに落ち着いた曲調の「Make a New Day」をいただいても、もしかしたら「フレッシュだね」で終わっていたかも。「Dear Teddy」は、「一言ずつ繊細に」と今まで以上に歌唱を意識しましたし。「Make a New Day」「Dear Teddy」、ラウド曲の「Oblivion」も、本当に同じ私が歌っているのか⁉というぐらいに、幅広い楽曲を歌えているのは成長の証だなぁって。
――中でも、富田美憂=“クール”という印象を崩す「Sweet Sweet Sweat」には驚きました。
ですよね(笑)。前曲の「la la lai」がタオル振って声出して盛り上がれる曲なので、ガヤとコールで成り立つ曲もほしいなと思いました。そこで園田健太郎さん(※「Sweet Sweet Sweat」作詞・作曲・編曲を担当)にお願いしたら、まさかのすごい曲が……。録音前日に園田さんが「世間が見た富田さんのイメージってこうかな?と思ってさ!」とおっしゃっていて。確かに、超塩っぽさと甘さがいい塩梅で混ざっているのは私っぽいなぁって。この曲が歌えたのも、ある意味で大人になったからですね。
私には見えていなかったことを見つけていただいて、それがうれしかった
――今作のクライマックスともいえる富田さん作詞の「Stellar」。作詞初挑戦となった前作「Letter」以上に、富田さんの内面にフォーカスした内容のように聴こえました。
「Letter」は希望を歌った楽曲だったので、「Stellar」は葛藤や悩みを書き進めようと思ったんです。実はこの数年は「自分の夢は、魅力はなんだ?」と、考え悩む毎日でした。ある日、周りの友人と夢について話す中、みんな「大舞台に立ちたい」や「いつか芝居を教えたい」と、10年以上先を見て今を頑張っている。一方の私は、昔から目の前のことを頑張ることに精一杯で、いくら頭を捻っても夢も目標も浮かんでこなかったんです。その瞬間、「今しか見えていないし、未来のために何も積み重ねていない。私、空っぽだ」と、気づき恥ずかしくなったんです(苦笑)。
――今を精一杯頑張るのは、いいことだと思いますが。
そうだと理解しつつも、なかなか前向きになれなくて(苦笑)。そんな状態なので、個性の面でも悩む日々だったんです。やはりこの仕事を続けると、たくさんの壁にぶつかるわけで。そうした時ふと、「ステキな方々が数多くいる中で、私って応援されるほどの個性や魅力がないなぁ」と、たまらなく不安を感じてしまって……。そこから、どんどん落ち込んでいったんです。そんな時、リリースイベントなどでファンの方から、「人間性が好き」や、「クールに見えて実は熱い部分があるのが好き」と、内面を褒めていただく機会が増えていったんです。私には見えていなかったことを見つけていただいて、それがうれしかったんです。本当に空っぽな私に、皆さんが意味を付けてくれる。そう気づいたとき、「応援してよかった」と思えるような存在になりたいと、今まで見えてこなかった夢まで少しずつ見つかり始めたんです。それで、空っぽな私を色のない星に見立て、「色のない空っぽな星が、自分らしさを見つけていく」という内容で物語を描いていき、「Stellar」は完成しました。こうした弱音や本音を口にするのは恥ずかしいけど、歌にすれば許されるので助かっています(照笑)。
――心の成長までも刻まれた、大切な一枚になりましたね。
はい。今まで出したすべての作品が、その時々の私にできる最高のものだなって思ってきました。その最高を毎回更新していきたい気持ちがあるので、『Violet Bullet』は今の自分が出せる最高の得点が出ていたら……いいなって。
――なぜそこで弱腰に!
私だけ「大満足!」と宣言するのはやっぱ怖いですよ(笑)。この作品を引っ提げて開催する11月10日の3rdワンマンライブで全曲披露し、皆さんの顔や反応をこの目で見て、やっと「満足いく作品だ」と初めて思えるんだろうなあ。本当に素晴らしい作家の皆さんが集まり、たくさんの想いが詰まった一枚なので、たくさん愛してもらえたらうれしいです。
(取材・文/田口俊輔)
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