元AKB48湯本亜美、元SKE48谷真理佳…両国国技館で見た「アイドルとプロレスの人間交差点」
東京女子プロレスが、3月31日に2度目の両国国技館大会「GRAND PRINCESS ’24」を開催した。この日、元AKB48の湯本亜美がプロレスデビューを果たし、元SKE48の谷真理佳がアイドルとしてライブに参加。アイドルとプロレスが交差した3.31、両国で何があったのか? 東京女子プロレスの現役&元アイドル選手4人を深堀りしたドキュメント『プロレスとアイドル』(太田出版)の著者であり、元週刊プロレスの記者、小島和宏が解説する(前後編の前編)。
JR秋葉原駅から総武線に乗って新宿方面に2駅進むと、水道橋駅に着く。いわずと知れた東京ドームの最寄り駅である。
秋葉原のAKB48劇場から東京ドームまで直線距離で1800m。この近くて遠い道のりを設立当初のAKB48は夢として掲げ、ファンと一体になって東京ドームでのコンサートを目指していった。国民的アイドルと呼ばれるようになる遥か前の話だ。
JR秋葉原駅から今度は反対側のホームから総武線の下り列車に乗ると、おなじく2駅で今度は両国駅に到着する。駅の目の前には両国国技館が建っている。
かつて東京ドームを目指し、そして到達したAKB48グループのアイドルたちが、気がついたら総武線を逆流するように、この春、両国国技館に集っていた。3月31日、東京女子プロレスの両国国技館大会。この日、アイドルとプロレスが織りなす人間交差点がいくつも展開されていた。
このビッグマッチでプロレスデビューを果たしたのが元AKB48の湯本亜美。彼女は2017年に後楽園ホールで開催されたドラマ『豆腐プロレス』のリアルイベントでリングに上がっている。あの日、僕は後楽園ホールで生観戦していた。何人か『あぁ、このまま女子プロレスに転向してくれたらいいのに』と思ったメンバーがいたのだが、その筆頭格が湯本亜美だった(この時点ではまだ荒井優希はリングに立っていない)。
プロレスというよりもルチャ・リブレに向いている。実際、あの日もびっくりするようなルチャのムーブをいくつも披露。さらにはムーンサルトプレスまで繰り出す、見事な闘いっぷりだったのだが、彼女はそのままアイドル活動を続け、プロレスとリンクすることは残念ながらなくなってしまった。
あれから7年。湯本亜美は昨年、AKB48を卒業。現在では女優として活躍しているのだが、女優とプロレスの二刀流で活動している角田奈穂と舞台で共演したことがきっかけで、プロレスとの接点が復活。その角田とのタッグで両国国技館のリングに立つことになったのだ。プロレスとアイドル、さらには女優。人生交差点はとっても複雑で、とっても面白い。
いまだ7年前の残像がしっかりと目に焼きついているので、どうしても湯本のファイトに期待してしまうが、そう甘くないのがプロレスの世界。ローンバトルで苦戦するシーンも多々、見られたが、華麗な身のこなしはアイドルを卒業した今でも健在だった。一撃必殺の荒井優希とはまた違ったタイプのプロレスラーとして大成する可能性は高い。今年の前半はすでに決まっている芸能の仕事が詰まっているとのことで、今後のプロレス参戦については、現時点ではアナウンスされなかったが、ぜひとも継続参戦して、この日のつづきをたっぷりと見せてもらいたいものだ。
この日は試合だけでなく、なんとSKE48のミニライブも開催された。ミニライブというにはたっぷりと時間がとられており、かつての大ヒット曲をズラリと並べた贅沢なセットリストが組まれていた。荒井優希との一騎打ちを控えていた上福ゆきは「こんなに時間をとるなら、私の入場にもっと金をかけろ!」と思ったというが、耳に入ってくる楽曲を聴いて「なんだよ、知っている曲ばかりじゃねーか。アイドルの荒井優希、すげぇな」と認識が一変した、という。
そのSKE48メンバーの中に谷真理佳がいた。東京女子プロレスのファンにはビッグマッチの解説者としておなじみの存在だが、アイドルとして両国国技館のリング上でパフォーマンスをするのはこれが最初にして最後となる。というのも、谷は3月31日付でSKE48を卒業してしまったから。正確にいえば、前日の3月30日に名古屋のSKE48劇場で卒業公演を終え、劇場に飾られていた写真額を取り外すセレモニーも済ませている。そのあとにまたアイドルとしてステージに立つことは異例中の異例。どうやら荒井優希が「絶対に谷さんをメンバーに入れてください!」と懇願して実現したようだ。
いつも実況席から二刀流を見守ってくれた先輩に大舞台でのラストステージをプレゼントするなんて、荒井優希、粋すぎるではないか! このライブを見るために来場したSKE48ファンも多数いたようだが、僕も個人的にライブを見ながらグッときた。谷真理佳はもともとHKT48のメンバーでアイドルになりたてのころはよく取材をしていた。
その後、SKE48に移籍してからは取材する頻度が減ってしまっていたのだが、こうやって最後のライブを生で見ることができるのは、まさに感無量。荒井優希がプロレスにチャレンジして、チャンピオンにまで昇りつめたからこそ、こんな素敵なアイドルとしてのラストステージが実現したんだと思うとジーンとくるし、10年以上前、HKT48のメンバーとして取材してきた日々を思い出したら、ちょっと泣きそうになってしまった。
「泣きそうになった、とはなんですか? ちゃんと泣いてくださいよ〜!」
ミニライブを終えた谷真理佳はそう言ってきたが、よく見たら、彼女の瞳にも涙はまったく浮かんでいなかった。
「正直な話、まだ卒業した実感が沸かなくて。優希ちゃんのおかげでこんな素敵な場に立つことができたのは、本当に感謝しかないんですけど、きっと、卒業したんだな、これが最後のステージなんだなって実感するには、何日も時間がかかるんだと思います」
これはアイドルあるあるで、ほとんどのアイドルが同じようなことを言ってステージを去っていく。だが、この数時間後、谷真理佳は実感に包まれて、両国国技館で大号泣することになる。
SKE48のミニライブを見ていたCyberFightの高木三四郎大社長は「アイドルってすげぇなぁ〜」と感心しまくっていた。「ついさっきリハーサルをやっているのを見たんですけど、リハでも全曲、歌って踊っていたんですよ。つまり短い時間で2ステージやっているようなものですよね? しかも荒井選手はこのあとタイトルマッチまである。SKE48の選抜とプロレスの活動を両立するってとんでもないことですよ!」。
ライブを終え、アイドルの衣装からプロレスラーのコスチュームに着替えた荒井優希はこの日、2回目のリングへと向かった。入場ゲートをくぐった瞬間「さっきと同じ光景がまったく違って見えたので、あぁ、大丈夫だと思いました」と荒井優希はいう。完全にアイドルからプロレスラーへとギアチェンジした彼女は、ある攻撃で両国国技館をどよめかせることになる。
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