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Z世代が観た『不適切にもほどがある!』、令和の”違和感”の正体とは一体何なのか
宮藤官九郎と阿部サダヲがタッグを組むドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。毎話放たれる放送禁止用語のオンパレードは、平成中期に生まれた”Z世代”の私にとって大変刺激的なものであった。だが、数日令和で過ごした市郎(阿部サダヲ)が「心にコンプライアンスが芽生えた」と言っていたように、2話、3話と見進めるうちに昭和の「ノンコンプライアンス」を求めている自分がいたのである。本記事ではZ世代の私が『不適切にもほどがある!』のフィルターを通して感じた、昭和と令和の在り方を紐解いていきたい。
第一話冒頭、まだ暗闇に炎上防止策とも言える忠告文が流れている中で聞こえた「起きろブス」「盛りのついたメスゴリラ」というセリフ。これが家族間のコミュニケーションだとはにわかに信じがたい。どちらも道徳の授業でそれとなく「言ってはいけません」と教えられてきた言葉だ。
職員室に漂うタバコの煙、女性教師へのナチュラルセクハラ発言、連帯責任でケツバット、部活中は水分補給NG…映るもの聞こえるもの全てが「ありえない」の連続で、この時点で「平成に生まれてよかった」とホッとしたのが正直なところである。
特にタバコは、私が物心ついた時には既に「悪」の存在であった。今より喫煙所の数は多かったが、家の中で吸うなんてもってのほか。個人的に印象的だったのが、第一話で市郎(阿部サダヲ)がタバコを吸いながらバスに乗っているシーンだ。小学生の頃、遠足でバスに乗ったときに気になっていた「背もたれにある小さな箱」の正体を知ることができた。いつの間にか「小さな箱」は姿を消し「携帯灰皿」へと姿を変えたため、幼い頃にそんな疑問を抱いていたことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
灰皿だけではなく、日常だった物たちが次々に姿を消し「スマート〇〇」やら「オンライン〇〇」やらに強制的に移行させられた昭和世代と、生まれたときから「スマート」「オンライン」が身近にあったZ世代。日々の生活で「価値観が合わない」と感じてしまうのも、当然のことだろう。
だが「価値観の違い」を理由に、私たちはいつの間にかコミュニケーションを放棄してしまっていたのかもしれない。「昭和生まれの上司は頭が固い」「ゆとり世代だからやる気がない」「Z世代は干渉を嫌がる」…生まれた時代の「枠」にとらわれ、目の前にいる相手の考え方や個人の価値観を知ろうとしていなかった。
第二話で描かれた「働き方改革」も「そう来るか」と自らを省みる展開のオンパレードだった。求人情報でついチェックしてしまう、年間休日の多さ、残業時間の少なさ、有給消化率。仕事よりも”プライベートの充実”が重視され「自由に働く」という言葉もよく目にするようになった。
その一方で「会社の役に立ちたい」「面白いものを作りたい」と思っている人がいるのも事実だ。そのためには、多少の残業や休日出勤が必要になることもあるだろう。せっかく「自由に働く」が認められる時代になってきたはずなのに、「働き方改革」がやる気の芽を潰すことになりかねない。
社会の制度と実際に働く人は圧倒的にコミュニケーション不足だ。全てが「話し合い」で解決できるとは思わないが、誰が何のために決めたのかも分からない不明慮なルールで、いつの間にか自由と個性を奪っている可能性があることを忘れないでおきたい。
”不明慮なルール”は第三話の「コンプライアンス」問題にもつながる。令和で繰り返される、誰に何のために謝っているのか分からない謝罪の言葉。保守的なエンタメ、誰も傷つかないお笑い、常に適切に先回り。「チョメチョメ」が繰り返される昭和との見事なまでのスイッチングに、内心「昭和の方が楽しそう」と思った視聴者も多いはずだ。
人を傷つけることはあってはならない。だが、残業をしてでもクリエイティブでいたい人がいるように、身体を張って笑いを取りに行きたいお笑い芸人、自分の魅力をアピールしたいグラビアアイドルだっている。そんな人々の”したい”の思いが、突然姿を現した「不適切」という価値観で、なかったことにされてしまう。”個性を大切に””自分らしく”が歌われる令和で、それらを発揮する場が失われているのはやはりどこか矛盾している。
『不適切にもほどがある!』は「昭和の方が良かった」と思わせる、もしくは「令和の方が良かった」と思わせるための物語ではない。どちらの時代にもいいところがあり、悪いところがある。見ていると少し心にコンプラが芽生えたり、ノンコンプラを羨む気持ちが沸き上がったりする。それこそがお互いを”知る”という、コミュニケーションの一歩だ。
時代のスピードはとてつもなく速い。どこからともなく新たな価値観が生まれ、ルールが変わり、それに乗っ取って人々の考えも変わっていく。すぐに適応できる人もいれば、できない人もいる。むしろ全員が一発で時代への正解を出してしまったら、この世からは何も生まれなくなってしまうだろう。
多様な生き方が認められつつある今、このドラマに出会えたことを非常に幸運に思う。
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