<綾野剛「楽園」インタビュー>“何もない僕”だった俳優デビュー時を回顧「人は人に見つめられて初めて人になる」
2019.10.18 08:00
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映画『楽園』(10月18日公開)に主演する俳優の綾野剛(37)が、モデルプレスのインタビューに応じた。
綾野剛“何もない僕”だった俳優デビュー時を回顧
ベストセラー作家・吉田修一氏の傑作小説「犯罪小説集」を、映画『64-ロクヨン-』などの瀬々敬久監督が映画化する今作は、青田に囲まれたY字路を舞台に、犯罪をめぐる“喪失”と“再生”を描く慟哭のヒューマン・サスペンス。綾野が演じるのは、12年前にY字路で起こった少女失踪事件の容疑者として疑われ、追い詰められていく、中村豪士(たけし)。友人もおらず、偽ブランド品を売る母親の手伝いをしながら生きる孤独な青年だ。
役を“演じる”のではなく“生きる”という感覚で作品に臨む綾野にとって、豪士を“生きる”ことは辛くなかったのか?――そんな疑問が浮かんでしまうほど、豪士の孤独は苦しく映る。
しかし、その問いはすぐに否定され、「豪士は誰かに見つめられているわけでもなく、誰かに興味を持たれているわけでもない。自分の存在を認知されず、ずっと1人で何も変わらないと分かっているから、本人からすると苦しくない。そもそも、彼は誰かに見つめられた経験がないんです」と、豪士にとってその環境は「当たり前」であると説明。一方で、「そういう人がいたら気づいてあげたいなと僕は思います。でも彼は気付かれなかった。人は人に見つめられて初めて人になる」と語ったその言葉は、周囲の人間から見て、いかに豪士が孤独であったかを際立たせる。
そして、自身の20代を振り返りながら「僕のことを見つめてくれた人」として、俳優デビュー作となった「仮面ライダー555」(2003年放送)の石田秀範監督の名前を挙げ、「当時、何もない僕のことを一生懸命見つめてくださった。だからこそ、僕は今に存在していると思います」と感謝。「もし、自分の身近に豪士のような人がいるなら全力で抱きしめてあげてほしい。抱きしめて体温さえ伝われば、何か選択が変わるかもしれないですから」と願った。
杉咲花と念願の再共演 綾野剛「あのCM」から注目していた
共演には、行方不明になった少女と事件直前まで一緒にいた湯川紡(つむぎ)役に杉咲花、父親の介護のため村へと戻り村おこし事業を進める養蜂家・田中善次郎(ぜんじろう)役に佐藤浩市ら。杉咲とは、ゲスト出演した2011年放送のドラマ「妖怪人間ベム」(日本テレビ系)で、1シーンのみ共演経験があったものの、1作品を通しての共演は今回が初。実力派として数多くの賞を受賞してきた2人は、2016年度「第40回日本アカデミー賞」など授賞式で再会した際、「またいつか共演できたら」と話をしていたそう。
杉咲が各賞を総なめにした映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)をはじめ、彼女の出演作は「(『湯を沸かすほどの熱い愛』)以前のものも含め、よく観ています」といい、“回鍋肉を食べる美少女”として話題を集めたCM(2011年)についても「やっぱりあのCM。全然目が笑っていなくて“絶対に回鍋肉をとってやるんだ”って顔をしていたし、15秒の世界の中に気合いと勢いを感じました」と、世間が注目し始めた当時から杉咲は綾野にとっても気になる存在だったようだ。
気遣いの人・綾野剛、『楽園』現場では「肉祭り」
綾野といえば、現場での豪華な差し入れも度々話題となるが、今作では“肉好き”の杉咲のために肉中心のケータリングを入れ「肉祭り」を実施。女性が多い現場だったということもあり、「ガツガツ肉だけだときついかもしれないと思ったので、韓国風にしました。女性スタッフが喜んでくれれば」とまさに気遣いの人。また、綾野のすごさは、それが“普通”であるということ。「特別考えてやっていないです。皆、楽しい方が良くないですか?」と笑う。
「現場が流動的に進んでいくことより、現場が魅力的に進んでいくことの方が大事。生き生きしている状態にしないと、映画なんて撮れないです。いかに体調良く、美味しいものを食べて、“よし、明日も頑張ろう!”って思えるか。それくらい単純でいいのです」。
綾野剛、祖母や母の“荷物を持つ理由”にきっと全女子が落ちる
差し入れのエピソードからも分かるように、綾野はキャスト・スタッフとコミュニケーションを積極的にとるタイプで、今回の現場でも杉咲に初日からフランクに話しかけたことを映画の完成披露舞台挨拶で明かしている。「怖いとか、役のことしか考えていなさそうとか、コミュニケーションをとらなそうと思われることが多いんです」と綾野本人は感じているそうだが、「年下だからという感覚で杉咲さんを見ることは間違っている。それは古い」ときっぱり。
「今回、たくさんの覚悟をして作品に参加しているわけですから、ちゃんと信頼しなくてはいけない。杉咲さんは自分でコントロールできますし、こちらが喋りたいと思えば話しかけてもいいと思いますし。わざわざ無駄な気を遣う必要はない。気を遣い過ぎて腫れ物のように扱えば扱うほど、女優さんの魅力はなくなっていくと考えています。そもそも杉咲さんは女優ではなく役者ですから」と、コミュニケーションの重要性を説く。
さらに「子どもを子ども扱いするのと同じですよ」と続け、「僕は男の子だったら男、女の子だったら女性だと思って接しています。祖母や母の荷物を持ってあげるのも、年を重ねているからではなく女性だから持つんです」と、全女子が落ちてしまいそうなフレーズをさらりと言えてしまう人間力もまた魅力である。
綾野剛が語る“夢を叶える秘訣”
最後に、モデルプレス読者に向け “夢を叶える秘訣”を教えてもらった。「美しいものだけを目に入れなさい。汚いものは見なくていい、もっとわがままになっていい。スカスカでいい。そして、頑張らなくていい」。
決して、経験談ではない。「僕は頑張り過ぎた人間なので、現在の世の中を見て感じたことです」と付け加えた上で、「頑張る必要は全くもってない」と強調した。
「スカスカであれというのは、色んなものを吸収できるためにっていう意味なんです。“私はこうなんだ”って頑張っているとバリアを張って、ほかのものを吸収できなくなる。スカスカで空っぽにして、色んなものを見て、色んなものを感じて、たくさんの物語を生きて “これは好き”っていうものを一つでも多く見つけてほしい。それで飽きたらさっさと捨てていい。長くとっておく必要なんてない。思い出は胸にしまって、モノに残さない。どんどん前にだけ進んでいって、美しいものだけを見てほしい。美しいものはいっぱいあるから」。
もし、このメッセージが豪士にも届いていたら、彼の何かが変わっていたかもしれない…そう思わずにはいられないほどに、胸に迫るアツい言葉だった。(modelpress編集部)
映画『楽園』ストーリー
青田が広がるとある地方都市―。屋台や骨董市で賑わう夏祭りの日、一人の青年・中村豪士(綾野剛)が慌てふためきながら助けを求めてきた。偽ブランド品を売る母親が男に恫喝されていたのだ。
仲裁をした藤木五郎(柄本明)は、友人もおらずに母の手伝いをする豪士に同情し、職を紹介する約束を交わすが、青田から山間部へと別れるY字路で五郎の孫娘・愛華が忽然と姿を消し、その約束は果たされることは無かった。必死の捜索空しく、愛華の行方は知れぬまま。
愛華の親友で、Y字路で別れる直前まで一緒にいた紡(杉咲花)は罪悪感を抱えながら成長する。
12年後―、ある夜、紡は後方から迫る車に動揺して転倒、慌てて運転席から飛び出してきた豪士に助けられた。
豪士は、笛が破損したお詫びにと、新しい笛を弁償する。彼の優しさに触れた紡は心を開き、二人は互いの不遇に共感しあっていくが、心を乱すものもいた。
一人は紡に想いを寄せる幼馴染の野上広呂(ひろ/村上虹郎)、もう一人は愛華の祖父・五郎だった。
そして夏祭りの日、再び事件が起きる。12年前と同じようにY字路で少女が消息を絶ったのだ。
住民の疑念は一気に豪士に浴びせられ、追い詰められた豪士は街へと逃れるが…。
その惨事を目撃していた田中善次郎(佐藤浩市)は、Y字路に続く集落で、亡き妻を想いながら、愛犬レオと穏やかに暮らしていた。
しかし、養蜂での村おこしの計画がこじれ、村人から拒絶され孤立を深めていく。
次第に正気は失われ、想像もつかなかった事件が起こる。
Y字路から起こった二つの事件、容疑者の青年、傷ついた少女、追い込まれる男…三人の運命の結末は―。
綾野剛(あやの・ごう)プロフィール
生年月日:1982年1月26日出身地:岐阜県
身長:180cm
血液型:A型
2003年に「仮面ライダー555」で俳優デビュー。2011年放送の「Mother」(日本テレビ系)で注目を集め、2012年NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」で認知度を上げた。
近年の出演作は、映画『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』(2017年)、映画『パンク侍、斬られて候』(2018年)、ドラマ「ハゲタカ」(2018年、テレビ朝日系)など。今後は、映画『楽園』のほか、映画『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(11月1日公開)、映画『影裏』(2020年2月14日公開予定)が控える。
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