豪快な「トスカーナ料理」を味わうならここ!広尾で25年愛され続ける郷土イタリアン『イルブッテロ』

豪快な「トスカーナ家庭料理」を味わうならここ!広尾で25年愛され続ける郷土イタリアン『イルブッテロ』

2019.08.28 18:00

「イタリア料理の真の姿を伝えたい」

日本に「イタ飯ブーム」が広まったのは、バブル期の1980年代後半。デートに必要な高級感、スペシャル感はありつつも、フランス料理ほど敷居が高くないイタリア料理は、バブル期の気分と親和性が高かったのか、またたく間に日本中を席捲した。だが本来のイタリア料理は個性豊かな郷土料理の集合体であり、日本で広まったのはその一部を寄せ集めた“日本流イタリアン”でしかない。そのことに疑問を感じ、イタリア料理の真の姿を伝えたいと考える店も近年、かなり増えている。

25年間、トスカーナの食文化を伝え続けるイタリア料理店『RISTORANTE IL BUTTERO』

今回紹介するイタリアンレストラン『RISTORANTE IL BUTTERO(リストランテ イル・ブッテロ)』は今から25年前、日本流イタリアン全盛期に、「本当のイタリア料理を日本人に知って欲しい」と願ったイタリア人オーナーにより作られた店だ。そのためにイタリア本土から職人を招いて11トンのピザ窯を作り、1500坪の敷地にイタリアの邸宅を再現。創業時から接客はイタリア人スタッフが中心に行っている。

提供しているのは、イタリア郷土料理の中でも最もメジャーといわれるトスカーナ料理。初代シェフのジョヴァンニ・チェンニ氏の薫陶(くんとう)を受けた梅原博克シェフが作るトスカーナ郷土料理は、現地そのままの味と評判。日本最大級という特大の窯を使い、薪で焼くフィレンツェ風の骨付きステーキ「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」は、ほかでは食べられない味だ。

料理
トスカーナ料理

特徴
イタリア中部に位置し、州都フィレンツェはルネッサンス文化発祥の地。そのため宮廷料理の伝統も残っているが、主流は焼くだけ、揚げるだけといった潔いほどシンプルな農家料理。バターではなくオリーブオイルを使い、素材重視のシンプルな調理法が好まれる。そして、特筆すべきは、トスカーナの人々の「トスカーナパン愛」。

トスカーナパンは、トスカーナをはじめイタリア中部で広く食べられているパンで、塩も油も加えない独特の作り方が特徴。皮は固めで中身も水分が少なく、フランスパンや日本の食パンを食べなれていると物足りなく思うかもしれない。でもその淡白さこそが、愛されている理由なのだと、梅原シェフは語る。

「トスカーナで作られる肉加工品は総じて、塩味が強め。だからこそ、塩を加えていないトスカーナパンといっしょに食べると、お互いのおいしさを引き立てあえるんです。白いご飯と塩鮭のおいしさがわかる日本人には、理解しやすいと思いますよ」(梅原シェフ)

トスカーナパンもサラミも生ハムも、シェフの手作り

『RISTORANTE IL BUTTERO』では、梅原シェフが巨大な薪窯で1kg以上もあるトスカーナパン(写真上・左)を焼いているほか、コッパ(豚の首の後部肉の生ハム)、プロシュート(豚もも肉の生ハム)、「モルタデッラ」(細かく挽いた豚肉にダイス状の豚の脂身を加えたソーセージ)、サルシッチャ(生ソーセージ)、サラミなど(写真上・右)も手作りで、常に数種類の肉加工品が熟成庫に用意されている。

それでは、自家製の食材を使い、現地の味と食文化と誠実に向き合う料理の数々を紹介しよう。

固くなった「トスカーナパン」も、最後までおいしく味わいつくすのがトスカーナ流

▲パンツァネッラ(トマトとパンのサラダ)

“トスカーナパン愛”を象徴するような料理が、固くなったトスカーナパンの利用したこのサラダ。トスカーナパンを水に浸して柔らかくし絞ったものに、トマト、バジリコ、キュウリ、紫タマネギなどを入れ、ワインヴィネガー、オリーブ油、塩、胡椒で味付けをしている。

パン入りのサラダというとクルトンのようなサクサク食感をイメージするが、このサラダの中のパンはドレッシングを吸ってしっとり膨らみ、野菜としっかり馴染んでいる。噛みしめるとパンに染みこんだドレッシングの味の後に、パンの素朴な香りがふっと感じられる。ひと噛みごとに、このパンの持つ底力を感じる。

「パン粉のように細かくする人もいるけど、私はちょっとパンの形が残るくらいにほぐしています。そのほうがトスカーナパンの食感が味わえるように思うんですよ」と梅原シェフ。

▲パッパ・アル・ポモドーロ(トマトのパン粥)

こちらも固くなったトスカーナパンの再利用料理で、パンを水で戻し、オリーブオイル、ニンニク、唐辛子、トマトなどとともに煮込んだパン粥のような料理。トスカーナではどこのトラットリアでも出てくる定番メニューだという。

喉をなめらかに通り過ぎる食感は、まさにお粥そのもの。だが、トマトの甘み、うまみの後に来る唐辛子のパンチのある辛さが後をひき、スプーンが止まらなくなる。素朴なルックスながら、ずっと食べ続けたくなる、不思議な魅力のある料理だ。

肉を食べられなかった庶民のごちそう、トリッパ料理

“フランス料理の原型が、ルネッサンス時代にイタリアのフィレンツェから嫁いだ大富豪メディチ家のコックからもたらされた”という史実にもあるように、14~16世紀のルネッサンス期のイタリアでは贅を極めた宮廷料理が発達した。
そのため、宮廷では食べられることのない臓物を使った料理が庶民に広まったが、中でもトスカーナでよく食べられているのが、日本で「ハチノス」と呼ばれる牛の第2胃、トリッパだ。

「フィレンツェの街を歩くと、塩とレモンで茹でただけのトリッパを歩きながら食べている人をよく見かけます。それくらいみんな、トリッパが好きなんです」(梅原シェフ)

▲トリッパのサラダ

本来は牛のトリッパを使うが、サラダにはやわらかく臭みの少ない仔牛のトリッパを使用している。牛のトリッパよりも網目が細かいく薄いため、歯切れのいい繊細な食感。淡白だがうまみも強く、チェリートマトの甘み、レモンを効かせたドレッシングとの相性も抜群で、爽やかな味わいのサラダに仕上がっている。

▲トリッパファジョーリ(トリッパの煮込み)

下処理したトリッパを薄切りにし、香味野菜やトマトと煮込んだ料理。トリッパの煮込みは他の地方の郷土料理でもよく見かけるが、多くは汁がほとんど無くなるまでこってりと煮込んでトリッパにからめたタイプ。だがこの煮込みはソースがごく軽いため、トリッパそのもののうまみをしっかり味わうことができる。
人によっては好き嫌いのあるトリッパだが、下処理が徹底しているせいだろう、臭みがなく淡白でやわらか。トリッパが主役の煮込みであり、トマトはあくまでもトリッパの持つうまみを引き出すための脇役に過ぎない。素材本来の味を重視するトスカーナ流の煮込みなのだ。

これぞ、素材勝負のトスカーナ料理!イタリア牛のTボーンステーキ

トスカーナを代表する料理といえば、やはりイタリア産の牛のTボーンステーキ「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」は外せない。

「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」には“指3本分の”厚みが必要なため、800g以上から注文可能。巨大な肉塊を骨ごと叩き切り、岩塩と胡椒のみで味付けをして網に乗せ、厨房の真ん中にある巨大な薪窯でダイナミックに骨ごと焼き上げる。

▲巨大な薪窯の奥で燃えている炭を手前に寄せ、網の下に敷いて高温で10~15分ほどかけてじっくりと焼く

立ち上る炎で表面をカリッと香ばしく焼きあがると同時に、炭の遠赤外線効果でやわらかく均一に熱が加わり、薪の香ばしい香りも加わる。また、薪に含まれている水分が適度な蒸気となって肉を包み込むため、パサパサにならず、みずみずしい焼き上がりになる。

▲焼きあがったばかりの「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」。このサイズで約1kg

焼きたては肉の香ばしい香りとともに、薪の甘い香りがふんわりと広がる。塊のままドカンとサーブし、卓上で切り分ける。

「骨の近くが一番おいしいので、イタリアではそこをお父さんが食べるんですよ(笑)」(梅原シェフ)

骨を境に、向かって右側がサーロイン、左側がフィレ(写真上)。サーロインは、噛みしめた瞬間の湧きあがるような肉汁のうまみと、脂の甘さが特徴で、肉々しくパンチのある味わい。対して、フィレは実に繊細なおいしさ。キメが非常に細かくやわらかいので、ひと噛みで十分なほどの歯切れのよさだ。

ソースは皿の上の肉汁で十分。仕上げにオリーブオイルをかけて食べるが、ロース部分には脂があるため、フィレの部分にのみかける。素材の味が素晴らしいので、余計な味付けをする必要がないのだ。この直球勝負のような潔さが、トスカーナ料理の神髄といえる。

トスカーナを代表するワインの銘柄「キャンティ・クラシコ」が造られる地域カステリーナ・イン・キャンティに本拠地を置くワイナリー『カステラーレ・ディ・カステリーナ』のラインをそろえている。ラベルに描かれているのは、トスカーナの鳥や植物。

▲ガラス窓で覆われたテラス席は開放感抜群で、気軽に非日常を味わえる

床はイタリア製のテラコッタ、テラス席の奥には薪ストーブや使い込まれた革張りのソファ、ピアノがあり、満席のテーブルの間を飛び回ってサービスしているのは、陽気なイタリア人スタッフ。まるでイタリアの地方都市の邸宅で行われている結婚式に紛れ込んだような錯覚をおぼえる。

トスカーナ料理は、日本人にもとっつきやすい料理

横浜のいくつかのイタリア料理店で経験を積んでいた梅原シェフにとって大きな転機となったのは1994年、『RISTORANTE IL BUTTERO』オープン時に入店し、初代料理長のジョヴァンニ・チェンニ氏のもとで働いたこと。

「イタリア人シェフの元で働くのは初めてで、彼を通じてイタリア人の持つユーモアややさしさ、気遣いを知り、イタリアが大好きになったんです」(梅原シェフ)

またジョヴァンニ氏の作る料理から、イタリア料理の根底にあるものが家族の絆であることも知り、イタリア料理への想いがさらに深まった。「ジョヴァンニ氏の作る料理は、彼の人柄そのもののような、やさしい味でした。そして自分の作る料理を、何よりも愛していましたね」と梅原シェフは今も、師匠の人柄と味を懐かしむ。トスカーナパンや肉加工品を手作りし続けているのは、「彼がいつもそうしていたから、それだけです」。

ジョヴァンニ氏は梅原シェフに「君にはトスカーナ料理のAからZまで教えた」という言葉を残し、引退してイタリアに帰国。2014年から梅原シェフが総料理長に就任した。

残り物や臓物を再利用した料理が多いため、トスカーナ料理は“Piatti poveri(ピアットポーヴェロ=貧しい皿)”とも呼ばれている。だが食材を大事にし、余っても形を変えて最後までおいしく食べきる姿勢や、そうした料理にこそ奥深い美味を見出す感性は、日本人と共通のものがある。また、余計な手を加えず、素材自体の味をシンプルに味わおうとする点も、日本料理と共通している。

「だからトスカーナ料理は、日本人にもとっつきやすい味なんですよ」と梅原シェフも太鼓判。イタリア郷土料理を深く知りたいと思う人はまず、トスカーナ料理から始めてみてはいかがだろうか。

▲梅原博克シェフプロフィール
1970年、神奈川県出身。横浜の洋食店から料理人修行をスタートさせ、ピッツェリア、『Ristrante SABATINI YOKOHAMA(リストランテ・サバティーニ横浜)』(現在は閉店)などで経験を積んだ後、1994年『RISTORANTE IL BUTTERO』オープン時に入店。当時の料理長ジョヴァンニ・チェンニ氏のもとで研鑽を積み、トスカーナ料理を中心とする本場の味を習得して2014年に総料理長に就任。

【メニュー】
パッパ・アル・ポモドーロ 1,400円
パンツァネッラ 1,200円
トリッパのサラダ 1,600円
トリッパファジョーリ 2,000円
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(800グラムより)  100g /1,200円

グラスワイン 800円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です

リストランテ イル・ブッテロ

東京都渋谷区広尾5-13-3
050-3490-1639(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
ランチ・ディナー 11:30~20:00
(L.O.19:00)
5月7日(木)より【営業時間変更のお知らせ】
ランチ11:30~14:30(L.O)アラカルトメニュー14:30~19:00(L.O)

月~土
ランチ 11:30~14:30
(L.O.14:30)
ディナー 18:00~23:30
(L.O.22:30)


ディナー 18:00~23:00
(L.O.22:00)

http://www.il-buttero.com/
https://r.gnavi.co.jp/g454600/

この記事の筆者:桑原恵美子(ライター)

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