21~22年秋冬パリ・メンズコレクション 試される「デジタルで伝える服」の力

2021.01.27 11:00
提供:繊研plus

21~22年秋冬パリ・メンズコレクションは、有力ブランドのデジタル配信が相次いだ。フィジカルと違って、デジタル映像で服のクオリティーをはっきりと感じさせるのは大変なこと。実際の服以外に、どれくらいのコストと時間を映像制作にかけられるのか、ブランドの規模と資金力で大きな差が出ると感じさせる内容となった。

(小笠原拓郎)

ルイ・ヴィトンのコレクションの招待状を開けると、組み立て式の飛行機のおもちゃが入っている。デジタル配信は、モノグラムの型押しのシルバーのアタッシュケースを手にして雪山を歩く男の映像で始まった。男が着るのは飛行機型のボタンのコート。その男が大理石の壁の空間に足を踏み入れると、次々とモデルたちが現れる。崩れるように横たわる男やグリーンのスタジャンを着て座る男、飛行機のジャカードニットやマーブル柄のスーツを着た男もいる。壁の周りを歩きながら人の名前をライムのようにつぶやく男が不思議な存在感を見せる。やがて、そのアタッシュケースを置くと眠り込んでいた男が立ち上がり、アタッシュケースを奪う。なぜか、映画「ユージュアル・サスペクツ」を思い出すミステリアスな映像。そしてまるでミュージックビデオを見ているようにも感じさせる。映像にかける資金力に驚きながら、同時にルイ・ヴィトンらしいラグジュアリーなアイテムもいっぱい。ファーコートやアストラカンのマーブル風切り替えコート、床を引きずるマキシコートなどが揃う。ブランドロゴをタイポグラフィーにしたセットアップのセンスもさえている。

ルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトン

ドリス・ヴァン・ノッテンは、背景に空が見える階段状の空間にモデルが登場する映像を見せた。トレンチコート、スーツ、Gジャン、ドリスらしいスタンダードなアイテムが揃う。そこに着丈や柄でアクセントをつける。シャツはコートと同じくらい長い着丈、それをコートと重ねて着たり、スエットトップとレイヤードしたり。シャツにシャツをレイヤードしたスタイルも目立つ。シャツのストライプ柄が重ねたシャツの柄の中に入り込んでいく。スカーフ状のプリントを違う柄の中に重ねる手法も面白い。ゆったりとしたポンチョやスエットトップなど快適な着心地のアイテムも充実した。ルーズソックスのようなニットのレッグウォーマーも優しい雰囲気。

ドリス・ヴァン・ノッテン

ポール・スミスはシンプルにモデルを歩かせた映像を配信した。「自身のキャリアの道標となったサブカルチャーを通し、新世代に向けて英国の服飾デザインの象徴をリミックス」したというコレクション。過去の自身のアーカイブから編集し直していくという手法をやらせると、ポール・スミスはうまい。シンプルな構成なのに、コートのシルエットやパンツのバランスが小気味良い。タータンチェックのテーラリーングは、70年代のスカバンドのスペシャルズからのイメージ。ゆったりとしたサイズのウールコートやドンキージャケットは80年代のニューロマンティックを背景にしている。モヘヤニットは、パンクかつプレッピーな印象。シンプルなラインに差し込んだシックな色使いのフローラルプリントのコートやシャツが彩りを添える。

ポール・スミス

◇  ◇

17年にユーグ・フォーシャルとレミ・バツがスタートしたユニフォームは、シンプルモダンなコレクションで環境に配慮した服作りで知られている。その取り組みが認められ、デジタル上で開催中のピッティ・ウオモでは、〝サステイナブル・スタイル〟ブランドとして紹介されている。シャツの前面には植物標本のような〝根〟のプリントが配され、コロナと戦う戦士かのごとく腕章のようなディテールも。ベルトでウエストを強調したウールのオーバーサイズコートや張りのある素材の構築的なシルエットのカーキショーツなどミリタリーの要素もある。素材違いの袖のブルゾンやネルシャツのようなアメカジも揃う。ブランドの意志を明確にするかのように、羽織ったブランケットには〝スローダウン〟と大きくシーズンのテーマが綴られた。

ユニフォーム

環境問題に立ち向かうリース・クーパーのテーマとなったのはアメリカ西海岸で年々深刻化している森林火災だ。〝ワイルド・ファイア・シーズン〟と呼ばれるほど、災害はレギュラー化している。多くの森林が焼失することになった20年に危機的な状況にさらされたのが、映像に登場したマウント・ウィルソン天文台だ。森林や天文台を守るために活躍した、USフォレストサービスのチャレンジが、プリントなどでコレクションに落とし込まれた。

リース・クーパー

(ライター・益井祐)

関連リンク

関連記事

  1. 「ラフ・シモンズ」のアーカイブコレクション 20~30代のファンが行列
    「ラフ・シモンズ」のアーカイブコレクション 20~30代のファンが行列
    繊研plus
  2. 「レスポートサック」がEXITとコラボ SDGsテーマに
    「レスポートサック」がEXITとコラボ SDGsテーマに
    繊研plus
  3. 「ザ・ノース・フェイス」 カーボンプレート搭載トレラン靴を発売
    「ザ・ノース・フェイス」 カーボンプレート搭載トレラン靴を発売
    繊研plus
  4. ギンザ・シックス 開業以来初の大規模リニューアル
    ギンザ・シックス 開業以来初の大規模リニューアル
    繊研plus
  5. 【ファッションとサステイナビリティー】サカエ ハンガー・カバーの完全リユース・リサイクル プラゴミを出さず資源を循環
    【ファッションとサステイナビリティー】サカエ ハンガー・カバーの完全リユース・リサイクル プラゴミを出さず資源を循環
    繊研plus
  6. 【ファッションとサステイナビリティー】ゴールドウイン社長 渡辺貴生氏 30年には90%超をエコ素材に
    【ファッションとサステイナビリティー】ゴールドウイン社長 渡辺貴生氏 30年には90%超をエコ素材に
    繊研plus

「ファッションニュース」カテゴリーの最新記事

  1. バレンシアガが銀座に旗艦店 過去のクチュール作品を公開
    バレンシアガが銀座に旗艦店 過去のクチュール作品を公開
    繊研plus
  2. ミラノでドルチェ&ガッバーナ展始まる イタリアへの愛と手仕事をつぶさに
    ミラノでドルチェ&ガッバーナ展始まる イタリアへの愛と手仕事をつぶさに
    繊研plus
  3. ミズノ 大阪・関西万博のミャクミャク使用シューズ 親子で楽しめる4種を販売
    ミズノ 大阪・関西万博のミャクミャク使用シューズ 親子で楽しめる4種を販売
    繊研plus
  4. 【サンローラン】知的に映えるシンプルデザイン!春に持ちたい“バッグ”特集
    【サンローラン】知的に映えるシンプルデザイン!春に持ちたい“バッグ”特集
    Ray
  5. 気になるのはこれ!【ハンティング・ワールド】から新シリーズが誕生
    気になるのはこれ!【ハンティング・ワールド】から新シリーズが誕生
    fashion trend news
  6. クリエーションにも考え方にも変化をもたらした金継ぎとの出会い ファインジュエリーブランド【ミラモア】稲木ジョージさんインタビュー
    クリエーションにも考え方にも変化をもたらした金継ぎとの出会い ファインジュエリーブランド【ミラモア】稲木ジョージさんインタビュー
    fashion trend news
  7. 24年秋冬デビューの「ムッシャン」 肌に心地良くフィットするセカンドスキン
    24年秋冬デビューの「ムッシャン」 肌に心地良くフィットするセカンドスキン
    繊研plus
  8. 「トーガ」 青山旗艦店がオープン 様々な垣根を超える店に
    「トーガ」 青山旗艦店がオープン 様々な垣根を超える店に
    繊研plus
  9. 東コレ会場スナップ メンズはテクニシャン、ウィメンズはテーラード
    東コレ会場スナップ メンズはテクニシャン、ウィメンズはテーラード
    繊研plus

あなたにおすすめの記事