【後悔】「老後資金があっても、どこにも行けない……」 動ける体を守るため40代からするといいこと
【内科指導医・ケトン食専門家が解説】老後のお金をNISAで積み立てるように、何歳になっても自分で好きな場所に行くための「貯筋」を始めてみませんか? 40代から始めたい手軽な運動と生活習慣について、分かりやすく解説します。(※オリジナル画像)
40歳を過ぎると、これまで元気だった両親が体調の不安を口にするようになったり、介護について考えたりする機会が少しずつ増えてきます。多くの人にとって、介護はまだ「親の問題」でしょう。しかし、少しだけ視点を未来に向けてみてください。今は元気に仕事や趣味を楽しんでいる人も、年齢を重ねていきます。親の介護を考え始める40~50代は、「将来の自分の身体」について考え始めるタイミングでもあるのです。
最近では、NISAなどを活用し、老後に向けて資産形成を始める人も多いようです。しかし、将来のために準備したお金があっても、好きなことを楽しみ、行きたい場所に自分の足で行ける身体がなければ、できることは限られてしまいます。お金と同じように「身体」も、若いうちから老後に備えておくことが大切なのです。
何もしなければ、筋力は年齢とともに低下していきます。将来の自分のために、筋肉を蓄える「貯筋」は、40代からぜひ始めるべき健康投資と言えます。
40代から始まる筋力低下……動くのが面倒になり、さらに筋肉量が減る悪循環に

高齢者になると、ちょっとした病気や転倒をきっかけに介護が必要になることがあります。年齢を重ね、心身の余力が落ちた状態を「フレイル」と呼びます。
フレイルには、筋力などが関わる「身体的フレイル」、認知機能などが関わる「精神的フレイル」、人とのつながりが関わる「社会的フレイル」があります。このうち、身体的フレイルの大きな原因として注目されているのが筋肉です。
最近では、さまざまな疾患において、筋肉量が寿命と関連すると報告されるようになり、筋肉は一躍、医学領域で注目されるようになりました。
加齢により筋肉量が減少し、筋力が落ちてしまった状態は「サルコペニア」と呼ばれます。スポーツ庁の調査では、女性の平均握力は40代後半を境に、その後の年代で徐々に低くなっています。日本人を10年間追跡した研究でも、40~50代から握力が変化することが報告されています。筋力が落ちると動くのが面倒になり、動かないとさらに筋力が落ちていきます。親の世代で起こっているこうした悪循環は、ある朝、突然始まるわけではありません。
アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2025では、50~64歳の女性は握力20kg未満を筋力低下の目安としており、筋肉量も少なければサルコペニアとされます。まずはご自身の筋肉の健康を確かめるために、健診やジムなどで握力を測定してみるのがいいでしょう。
筋肉は将来の自分に残せる資産! 今ある筋肉を守れば20年後も動ける身体に

では、筋力を維持すれば、フレイルを予防できるのでしょうか。これについては、すでに一定のエビデンスが報告されています。英国の男女約6300人を約20年追跡した研究では、50歳時に週2時間半以上の中強度以上の身体活動をしていた人は、そうでない人に比べて、その後のフレイルのなりやすさが約34%低下したと報告されています。
オリンピックを目指すような、本格的な運動が必要なわけではありません。今ある筋力を保てば、出かける機会も保たれ、20年後のリスクを下げられるのです。運動が苦手な人にとっても、今から取り組むことには十分な意義があります。
40代からでも無理なくできる! 筋肉を守る運動のコツ
WHOは成人に対し、「有酸素運動」と「週2日以上の筋力運動」を勧めています。とはいえ、運動する時間がないという方も多いでしょう。そのような場合は、ちょっとした工夫で活動強度を上げるのがおすすめです。通勤電車ではあえて座らずに立つ、買い物には自転車を使わず早歩きで行く、2~3階なら階段を使う、週末には少し長く歩く、といった工夫でいいのです。身体活動とは、ジムでの運動だけではありません。
そのうえで、椅子からゆっくり立ち上がる動きも加えましょう。壁を両手で押し、息を止めずに5秒ほど力を入れる方法もあります。関節を動かさずに筋肉を使う「アイソメトリック運動」と呼ばれるものです。平均52歳の女性31人を対象とした研究では、10週間の観察後、週2回・10週間の筋力トレーニングで筋力が改善したと報告されています。歩くことと筋力を使うこと。日々の工夫で、日常に身体活動を取り入れていきましょう。
筋肉維持にはエネルギーの使い方もカギ! 「ケトン代謝」の可能性
また、ダイエットのために極端な糖質制限を行って体重を減らすと、エネルギーやたんぱく質が不足し、筋肉量が減ってしまうことがよくあります。体重計の数字だけに注目するのではなく、階段の上り下りや買い物など、日常の活動が楽になったかどうかにも気を付けることが大切です。筋肉をうまく維持するためには、身体活動に加え、十分なエネルギーとたんぱく質、さらに、エネルギーをうまく使える身体を保つことも意識してみましょう。
筋肉をしっかり働かせるには、車でいうガソリンにあたる「エネルギー」を効率よくつくり出し、活用する仕組みが欠かせません。近年、注目されているのが「ケトン代謝」と呼ばれるものです。私もケトン代謝の活性化に注目し、長年研究に携わっていますが、身体は糖だけでなく、脂肪から肝臓で作られるケトン体もエネルギーとして利用しているのです。
つまり身体には、糖を中心にエネルギーをつくる仕組みだけでなく、脂肪をもとに作られるケトン体を活用する仕組みも備わっているということです。普段の糖質エネルギーに加え、ケトン体を効率よく使えるようになれば、日常の運動や筋肉づくりを、より効果的にサポートできるようになります。
ケトン体生成の材料になるのが「中鎖脂肪酸(MCT)」です。低体重の中高年を対象に、MCTと歩行を12週間組み合わせた試験では、対照群に比べて膝を伸ばす筋力の改善が報告されています。こうした研究からも、運動や十分な栄養に加え、ケトン代謝を活用することが中高年の身体づくりにどのように役立つのか、注目されています。
・体重計の数字だけで健康を測らない
・ちょっとしたことから身体を動かし、筋肉を使う
・無理なダイエットをしない
・ケトン代謝を利用できる身体を作る
こうした知識と工夫は、筋肉貯金にきっと役立ちます。老後も好きなことを諦めず、行きたい場所に自分で行くために、健康なうちからぜひ始めてみてください。
先端医学と食でレジリエンスを高め、健康寿命と成長を見守る内科医。大阪大学先進融合医学共同研究講座特任教授として先端医学から伝統医学、レジリエンス・ケトン食などの研究活動に携わった後、現在はそれらの社会実装に精力的に取り組んでいる。
執筆者:萩原 圭祐(レジリエンス医学と栄養・代謝ガイド)
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