忙し過ぎる人は要注意! 「マルチタスク」が脳を壊す? 脳の健康を守る「やらないことリスト」の作り方

2026.05.27 20:45
提供:All About

【脳科学者が解説】複数の作業を同時にこなす「マルチタスク」は、脳の前頭前野に大きな負担をかけます。前頭前野が疲弊するリスクと、脳を守りながら仕事の効率を上げる「やらないことリスト」の作り方をご紹介します。(※画像:Shutterstock.com)

「マルチタスク」とは、複数(multi)の作業(task)を同時進行または短時間で切り替えながら処理する能力や行動のことです。日常生活の中で、皆さんも何気なく実践しているはずです。例えば、電話で話しながらメモを取ったり、子どもの遊んでいる様子を見ながら食事の支度をしたり、会議中に議事録を作成しながら発言内容を整理したりすることなどが、その典型例として挙げられます。

こうしたマルチタスクを可能にしているのは、私たちの脳の前の方にある「前頭前野」の外側部です。脳のしくみと、マルチタスクによる意外な悪影響を分かりやすく解説します。

「マルチタスク」を支える脳のしくみ……前頭前野を損なうと料理も困難に

前頭前野の外側部が「マルチタスク」に関係していることを示す証拠として有名なエピソードがあります。

カナダの脳外科医ワイルダー・ペンフィールドの姉は、前頭前野外側部に脳腫瘍ができたため、1928年11月にその部分を切除する手術を受けました。手術は成功し、前頭前野のかなりの部分を失っても命に別状はなく、約1年後に退院できましたが、ちょっとした不具合が起こりました。

もともと料理が得意で、多くの友人を自宅に招くのが好きだった彼女は、自分の退院を祝うパーティーを開くことにして、そこで以前と同じように、料理を作ろうとしました。しかし、食材や料理器具を目の前にして、何から手を付けたらいいのか分からず、呆然と立ち尽くしかできなかったそうです。

料理はまさにマルチタスクの典型です。献立を考えて必要なものをリストアップし、買い物をして調理をしなければなりません。調理においても、材料によって異なる処理が必要で、それぞれの方法・時間・火加減・味付けを考えながら、複数の作業を並行してこなす必要があります。できあがった料理をどのように盛り付け、どの順序で出すかも考えなければなりません。

前頭前野の外側部に損傷を受けると、このようなマルチタスクができなくなってしまうのです。

前頭前野はなぜ「疲れやすい」のか? 脳全体の取締役のような役割

脳を損傷しなくても、前頭前野がうまく働かなくなり、マルチタスクができなくなることがあります。

前頭前野は、会社組織に例えるならば「取締役」のようなものです。脳全体の活動を見張り、バランスよく機能するように常にコントロールしています。状況が変わるたびに臨機応変な対応を求められるため、負担が大きく、疲れやすいという特徴があります。

私たちが「頭が疲れた」と感じるときは、正確にいえば「前頭前野が疲れた」状態です。前頭前野は十分に休まないとダウンしてしまいます。負担が大き過ぎると、元に戻らないようなダメージが残ることもあります。

そうならないための対策として、まず挙げられるのが「しっかりと睡眠をとること」です。睡眠中に前頭前野が活動を停止して休むことができれば、朝目覚めたときに再び脳全体がバランスよく働けるようになります。

「やらないことリスト」で前頭前野を守る! うまく手放せば、効率も上がる

もう1つの有効な対策法は、日中の活動において前頭前野に過度な負担をかけないよう、自分の行動を見直すことです。どんなに有能な取締役でも、あらゆる仕事を1人で抱え込んでしまったら、パンクするのは当然です。そのような状況では、抱えた仕事の一部を部下に任せるなどして自分の仕事量を減らすことが有効です。

一度に多くのことをやろうとするよりも、無理してやらなくてもよいことは手放し、重要なことだけに集中した方が、結果として仕事の効率は上がります。

これが、「やらないことリスト」を作るという考え方の基本です。

仕事のさまざまな業務に加え、家事・育児・介護などのマルチタスクで疲弊している方も多いことでしょう。そのような方には、ある1日に自分がやろうとした(あるいは実際にやった)ことを全て書き出し、それぞれの重要度を改めて考えてみることをおすすめします。「やらなくてもよかった」と思えるものを5~10個ほどピックアップし、意識的に「やらなくていい」と決めてしまいましょう。

「やらないことリスト」の作り方・具体例

仕事においても、家事や育児・プライベートにおいても、考えてみれば「やらなくていい」ことは意外と多くあるものです。「やらないことリスト」に入れられそうな具体例を、いくつか挙げてみましょう。

・完成度80%で十分な資料を、100%にこだわって作り込むのをやめる
・昼休みにメールやSlackをチェックするのをやめる
・自分でなくてもできる作業を抱え込むのをやめる
・返信不要な社内メールに返信するのをやめる
・気乗りしない社内のランチや飲み会への参加をやめる
・毎日掃除機をかけるのをやめる
・夕食を毎日手作りするのをやめる
・洗濯物を毎回全てたたんで収納するのをやめる
・子どもの習い事に毎回付き添うのをやめる
・学校のプリント類を完璧にファイリングするのをやめる
・SNSやニュースアプリを何度もチェックするのをやめる
・「ついでに」と思ってコンビニに寄り道するのをやめる
・急ぎでないLINEにいちいち“即レス”するのをやめる
・週末に「何か有意義なことをしなければ」と予定を無理に入れるのをやめる

はじめはリスト化の作業が面倒に思えるかもしれません。しかし、一度見直してしまえば、本当に大切なことに時間とエネルギーを集中できるようになり、その効果に驚くことでしょう。

マルチタスクは現代生活に欠かせないスキルである一方、脳の前頭前野に大きな負担をかけることも事実です。睡眠をしっかりとり、「やらないことリスト」を活用して前頭前野への過負荷を意識的に減らすことが、脳を守り、毎日のパフォーマンスを高めるための第一歩となります。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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