新生活シーズン、うまくいかずにつらくなったら……医師が教える「レジリエンス(回復力)」の育て方
【内科指導医が解説】希望と共に、不安やストレスも感じやすい新生活シーズン。心が折れそうなときは「レジリエンス(回復力)」のはたらきが重要です。医療現場でも注目されるレジリエンスの高め方を、分かりやすく解説します。(※画像:amanaimages)
2026年は年明けから国内外で慌ただしいニュースが続き、今なお国際情勢は不安定です。そのような中でも新年度が始まり、桜が満開になった街では、期待と不安が入り混じった初々しい姿が見られます。
4月は、新たな目標や夢に向かって進む、希望に満ちた季節でもあります。しかし、慣れない環境では知らず知らずのうちに心に負担がかかってしまうものです。今回は、新年度のスタートを切る皆さんや周りの方にも知ってほしい「レジリエンス(回復力)」についてご紹介します。自分を上手にケアするヒントとして、ぜひ覚えておいていただければと思います。
「配属ガチャ」「人間関係ガチャ」、思いがけない状況に落ち込むことも……
新しい部署や環境に移ったり、組織に新しいメンバーが入ってきたりしたとき、避けて通れないのが、最近の言葉でいうところの「ガチャ」の問題です。希望の部署や地域にいけなかった「配属ガチャ」のハズレや、職場の上司や同僚と合わない「人間関係ガチャ」の不運などは起こりえます。友人と近況を話していて、相手を羨ましく感じたり、自分の状況に落ち込んでしまったりすることもあるでしょう。
新たに管理職になった人もまた、部下のモチベーション管理や離職の気配に不安を感じるシーンもあるかもしれません。
最近は、難関の就活を突破しても、あっさり離職・転職するケースや、メンタルヘルスの不調を訴えるケースもよく耳にします。私も外来で何人かの患者さんから、お子さんが急に会社を辞めてしまったというお話を伺ったことがあります。
実際に、離職の割合は増えているのでしょうか? 厚生労働省が2025年10月に発表した内容によれば、2022年3月卒業者の3年以内の離職率は、事業者規模・業種などで異なっているものの、大卒者33.8%、高卒者37.9%、短大など卒44.5%となっています。私のような昭和世代の人間からすると、そこまで早期離職が多いのかと感じますが、統計上は1990年代から高止まりのようです。
離職しなくても、メンタルヘルスの不調を抱えているケースもあります。2024年の労働安全衛生調査では、休業者がいた事業所の割合は10.2%となっています。
折れそうな心を立て直す! 医療現場でも注目されている「レジリエンス(回復力)」とは
新年度を迎えたときのワクワク感や、希望に満ちた思いはどこにいってしまったのか……? そのような気持ちになったときに役立つのが、「レジリエンス(回復力)」です。「レジリエンス」は、まだ耳なじみのない言葉かもしれません。日本では「回復力」「復元力」とも訳されています。近年は、うつなどの精神領域だけでなく、がんなどの慢性疾患の領域でも注目されている言葉です。
私は、がんや難病患者さんの治療に当たっていますが、患者さんご自身のレジリエンスが発揮され、病状がよくなる場面を何度も目撃してきました。レジリエンスを大切な研究テーマとして、日本人にあったレジリエンスの評価尺度であるJapan Resilience Scale(J-RS)を開発しています(BMC Public Health. 2025 doi: 10.1186/s12889-025-22765-6.)。さらに、20代から60代までの男女500名の大規模データを取って、その再現性を確認しています。
それらの研究を通じて、医療現場のみならず日常生活においても、レジリエンスの重要性を実感するようになりました。そして、レジリエンスを高める方法は決して難しいものではありません。
無理に前向きにならなくて大丈夫! レジリエンスを高める食事と人間関係
レジリエンスの新たな評価尺度を作成した際、日本人が大切にしてきた「思いやり」や「人とのつながり」について検証しました。一例を挙げると、レジリエンスは、応援してくれる人が増えるほど高まることが分かったのです。これは闘病中の人だけでなく、広く一般にも言えることです。
一見、仕事とは直接関係のない無駄に見えるような人間関係も、レジリエンスを維持し、心身を健やかに保つ上で大切な役割を持っています。人間関係を維持する価値は、いわゆるコスパやタイパでは測れないものなのです。
仕事を通して自分自身の成長や手ごたえを感じると自己肯定感が養われ、レジリエンスが高まります。気が付くと、少々きつい環境でも軽々と仕事をこなせていきます。検証では、レジリエンスが高まるとストレスを感じにくいことも確認しています。
つまり、成長や自身につながる経験から、レジリエンスが高まれば、チームの作業効率アップにもつながるということです。上司や周囲の方は新入社員に、成長を実感させる経験や働きかけを意識するのがよいでしょう。逆にプライドを打ち砕くような「使えない」といった言葉や、集団からはじき出すような言動は、レジリエンスを低下させ、仲間の心を折ってしまいます。
心が折れそうなときはどうしたらいいのでしょうか? うまくいかないときは、自分の悲しい気持ちに素直に向き合うことです。無理に前向きになる必要はありません。
仕事の話など抜きに、手軽でおいしい定食屋さんで楽しい時間を共有してみましょう。忙しいからとコンビニ弁当で済ませるのではなく、手作りの温かみがあるお弁当を食べたり、誰かと食事をしながら笑い合ったりすることは大切です。そうしたちょっとした時間は、自分がしたいことを思い出したり、今していることが何かしらつながっていると気付けたりして、心の回復力を引き出します。
応援してくれる人が一人でもいれば、レジリエンスは高まります。「元気ないね、大丈夫?」と声をかけてくれる人がいたら、もう大丈夫です。温かい目がレジリエンスをみちびきます。新入社員の方は、悩みを一人で抱え込まず、気軽に相談できたり、楽しく会話できたりする相手を見つけておくことが大切です。また、受け入れる側も温かく見守る姿勢を持つことで、長期的に健やかで、かつ効果的に業務を遂行できる職場環境が育まれると考えます。
今うまくいっている人は、今回の話は必要ないかもしれません。しかし、少し疲れたときや落ち込んでしまったときに、この話を思い出してもらえたらいいなと思っています。日々の食事やちょっとした会話を大切にするだけで、心はもっとしなやかに、強くなれるはずです。
先端医学と食でレジリエンスを高め、健康寿命と成長を見守る内科医。大阪大学先進融合医学共同研究講座特任教授として先端医学から伝統医学、レジリエンス・ケトン食などの研究活動に携わった後、現在はそれらの社会実装に精力的に取り組んでいる。
執筆者:萩原 圭祐(レジリエンス医学と栄養・代謝ガイド)
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