「ブスは帰っていいよ」と合コンで笑った男→1年後、会議室で名刺を差し出して「はじめまして」
居酒屋の個室で笑われた日
友人に誘われた合コンに、私は仕事が長引いて遅れて着きました。引き戸を開けると、入り口近くの席にいた彼がこちらを見上げて、こう言ったのです。
「ブスは帰っていいよ」
笑いながらでした。つられたように何人かが笑い、幹事の友人が「ちょっと」とたしなめただけ。端の席でウーロン茶を1杯だけ飲み、自分の分のお金をテーブルに置いて店を出ました。
帰りの電車では、窓に映る自分の顔ばかり見ていた気がします。あの日から、写真に写るときは少しだけ顔を傾けるのが癖になりました。
「はじめまして」と差し出された名刺
1年後の会議室で、彼は私の前に立つと、名刺を両手で差し出しました。
「はじめまして」
私も名刺を返すと、彼は「本日はよろしくお願いいたします」と丁寧に頭を下げ、取引先の担当者として、私の正面の席に座ります。表情は少しも変わりません。覚えていないのだ、と思いました。私が1年引きずった一言も、彼には思い出す必要すらないことなのでしょう。
私が納期や配送について質問するたび、彼は課長のほうを向いて答えます。最後まで、彼と目が合うことはありませんでした。エレベーターの前で2人を見送り、会議室に戻ると、彼の席に黒い名刺入れが残っていました。
「届けてくる。片付けをお願いね」
課長はそれを手に、急いでエレベーターへ向かいました。
戻ってきた課長が告げたこと
しばらくして戻ってきた課長は、席に着く前に私のほうを見ました。
「この会社は今回外しましょう。理由は私から先方に伝えておくから」
「何かあったんですか」
「あなたが気にすることじゃないよ」
私が聞いても、課長はそれ以上は教えてくれませんでした。課長は彼の会社の提案書から付箋をはがし、「あの会社からの電話は、私には取り次がなくていいから」と周りに伝えました。
2日後、デスクの電話が鳴りました。名刺にある私の直通番号です。名乗ったのは彼でした。
「先日はありがとうございました。少し行き違いがあったようで、担当の方から課長さんにお口添えいただけないかと思いまして」
課長に取り次いでもらえないから、私に頼むことにしたのでしょう。この人はまだ、私があの日の相手だと気づいていない。そのうえで、頼みごとをしてきているのです。
そして...
黙って断れば、あの日、何も言わずに店を出た私と同じです。せめて、自分が誰に頼んでいるのかは知ってほしいと思いました。
「はじめまして、とおっしゃいましたよね」
「え?」
聞き返す彼に、続けました。
「1年前に1度お会いしています。そのとき帰っていいと言われたので、今回も私から申し上げることはありません」
「いや、あの」
「失礼いたします」
電話を切ると、隣の課長がちらりとこちらを見て、何も聞かずに画面へ目を戻しました。
机の引き出しには、彼の名刺がまだ1枚入っています。彼の言う行き違いとは何だったのか。打ち合わせの日、エレベーターを降りた先で何があったのでしょうか。
(20代女性・マーケティング職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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