外階段で何度挨拶しても目をそらす隣の男性→ある日、玄関のチャイムを鳴らした彼が差し出したもの
引っ越しの挨拶で受け取ってもらえたのは、タオルの包みだけ
駅前の雑貨店で選んだタオルの包みを持って、隣のチャイムを押しました。少し間があってドアが開き、白髪まじりの男性が顔を出しました。
「こんにちは。隣に越してきた者です。よろしくお願いします」
私がそう言って包みを差し出すと、男性は両手で受け取り、「どうも」とだけ言ってドアを閉めました。廊下に残ったのは、私と、閉じたドアの郵便受け。
愛想のいい人ばかりではないと自分に言い聞かせて、部屋に戻りました。それでも、受け取ってもらえたのは包みだけだったような気がしました。
外階段でも集合ポストでも、返ってこない「こんにちは」
それからも、外階段や集合ポストの前で、隣の男性とは何度も顔を合わせました。そのたびに「こんにちは」と声をかけましたが、男性は一瞬こちらに目をやるだけで、すぐに視線を外して部屋に入っていきました。
聞こえていないのかもしれないと思い、少し大きな声で言ってみた日もありました。それでも返ってきたのは、同じ一瞬の視線だけ。
いつの間にか、ドアを開ける前に隣の物音を確かめる癖がつきました。ゴミ置き場で隣の男性の背中を見つけ、袋を提げたまま階段を引き返したこともありました。自分の家なのに、出入りのたびに隣の様子をうかがっている。それが、なんだか情けなく思えました。
そんなある日、買い物から帰って冷蔵庫に食材をしまい終えたところで、玄関のチャイムが鳴りました。宅配を頼んだ覚えもないまま、のぞき穴に目を当てると、ドアの向こうに立っていたのは隣の男性でした。
手のひらにのっていた、鈴のついた私の鍵
ドアを開けると、隣の男性は手のひらを差し出しました。そこにのっていたのは、小さな鈴のついた私の鍵でした。
「鍵、ささったままでしたよ」
さっき買い物袋を両手に提げたまま鍵を開け、抜かずに部屋へ入ってしまったのだと、そこでやっと気づきました。
「すみません、ありがとうございます」
私がそう言って鍵を受け取ると、鈴が小さく鳴りました。せっかく話せたのだからと、私は思い切って続けました。
「あの、いつも」
「気をつけて」
私の言葉が終わる前に、隣の男性はそう言って背を向け、隣のドアの向こうへ戻っていきました。玄関に立ったまま、手の中の鍵を何度か握り直しました。お礼はちゃんと伝わったのだろうか。それとも、余計なことを言いかけたせいで、かえって迷惑がられたのだろうか。
そして...
翌日、外階段で隣の男性と顔を合わせました。「こんにちは」と頭を下げると、男性はやはりちらりとこちらを見ただけで、階段を下りていきました。
あの鍵は、鈴をつけたまま玄関の棚に置きました。わざわざチャイムを鳴らしてまで鍵を届けてくれた人が、どうして挨拶だけは返してくれないのか。その理由が、私にはどうしても分かりませんでした。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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