「彼女の荷物は少なめなので」引っ越しの見積もりで彼がそう告げた日、私は黙ってうなずきました
二人の暮らしが始まる日のはずでした
付き合って2年になる彼と、いよいよ一緒に暮らすことになりました。間取りを選び、家具の配置を相談し、休みのたびに新しい部屋の話で盛り上がっていました。
引っ越しの見積もりも、私にとっては楽しみな準備のひとつだったのです。業者の方が訪れたその日も、私は少しそわそわしていました。自分の本やキッチン用品、季節ごとの服。ひとつひとつに思い出のある荷物を、これから彼と分け合う部屋へ運んでいく。そう考えるだけで、自然と笑みがこぼれていました。
彼が業者に告げた一言
業者の方が部屋を見て回り、荷物のおおよその量を確認していたときのことです。彼は私の本棚やクローゼットの前を通りながら、こう言いました。「彼女の荷物は少なめなので、これで足りると思います」。私は思わず彼の顔を見ました。少なめ。そんなはずはありません。私の荷物は、彼のものよりずっと多いくらいです。
けれど彼は、私と目を合わせることなく、業者の方との話を進めていきます。何かの間違いだろうと思いたかったのに、彼の口調はとても自然でした。気の利いた言葉も出てこなくて、私はとっさに黙ってうなずいてしまいました。
荷物の量が映していたもの
その日から、彼の一言が頭から離れませんでした。少なめと申告すれば、確かに費用は抑えられます。でも私が引っかかっていたのは、お金のことではありませんでした。私の荷物は、私がこれまで生きてきた時間そのものです。それを彼は、業者の前で「少なめ」と言い切りました。まるで、私の存在を小さくまとめてしまいたいかのように。
二人で暮らす部屋のはずなのに、私はお邪魔する側になってしまったのでしょうか。問いただしたい気持ちはあるのに、言葉にすると重く響いてしまいそうで、私はうなずくふりを続けていました。
そして...
引っ越しの準備は、それからも淡々と進んでいきました。彼は相変わらず優しくて、家具を選ぶときも私の意見をいちばんに聞いてくれます。だからこそ、あの一言だけが小さなとげのように残っているのです。
ある夜、私は段ボールに自分の名前を書いていました。本をまとめた箱は、持ち上げるのもやっとなほど重くなっています。きっとこれが、いちばん運びにくい荷物になるでしょう。それでも、ひとつも置いていくつもりはありません。荷物が多くても少なくても、私が私であることは変わらないのですから。きっと彼にも、言えなかった事情があったのかもしれない。そう思えた今なら、ちゃんと向き合える気がします。
引っ越しの日を待つのではなく、その前に自分の気持ちを言葉にしようと決めました。少なめだなんて言わせない。私の荷物も、私の時間も、まるごと二人の暮らしに連れていくのだと、いちばん重い箱に、いちばん大きく名前を書きました。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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