彼女を入口側に座らせたのには理由があった。記念日のサプライズを、僕は自分で台無しにしました
奥の席を選んだ理由
お店を予約するとき、僕は店員さんにひとつだけお願いをしていました。食事の終わりに、用意しておいたデザートプレートを運んでほしい、と。彼女に気づかれないように合図を送るには、入口や店員さんの動きが見える奥の席に、自分が座る必要があったのです。
だから席に着くとき、僕は迷わず壁側に腰を下ろしました。彼女を通路に面した側に座らせることになるのは、少しだけ気がかりでした。それでも、彼女が後ろを振り返らなければ準備は見えません。きっと喜んでくれる、と心の中で言い訳をしていました。
うまく運ばせたくて
ところが、いざ始まってみると、僕はそわそわするばかりでした。合図のタイミングを見計らおうと、つい彼女の背後の入口に目が行ってしまいます。彼女が仕事の話をしてくれているのに、僕の相槌は「うん」「ああ」と短くなっていきました。
「ねえ、どこか具合でも悪い?」彼女にそう聞かれて、僕は「ううん、何でもないよ」とごまかしました。サプライズなのだから、ここで打ち明けるわけにはいきません。けれど、その「何でもない」のひとことが、彼女との距離を少しずつ広げていることに、僕は気づけずにいました。
しぼんでいった彼女の笑顔
「私といても、つまらない?」彼女のその一言で、僕はようやくまっすぐ顔を上げました。彼女の表情は、お店に入ってきたときの楽しそうな様子とは、まるで違っていました。「そんなことない。ちょっと落ち着かないだけ」そう答えるのが精いっぱいでした。
僕がこだわっていたのは、彼女を喜ばせる完璧な瞬間でした。けれど目の前の彼女は、サプライズよりもずっと前から、ただ僕とちゃんと向き合いたかっただけなのだと、ようやくわかりました。僕は店員さんにそっと首を振り、用意したプレートを引っ込めてもらいました。あの演出を出すには、もう遅すぎたのです。
そして...
帰り道、僕は何度も切り出そうとして、そのたびに口を閉じてしまいました。本当は、彼女を入口側に座らせた理由も、上の空だった理由も、全部その場で話してしまえばよかったのです。
記念日を特別にしたくて用意したものが、かえって彼女を寂しい気持ちにさせていました。大切だったのは、用意した品物でも、完璧な演出でもなく、ただ目の前の彼女とまっすぐ向き合うことだったのだと思います。次に二人で出かけるときは、隠しごとはやめて、彼女の目を見て話そう。引っ込めてもらったあのプレートのことも、いつか笑って打ち明けられたらいいなと思っています。
(20代男性・営業職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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