「子連れは迷惑でしょ」と睨まれた美術館で、隣に立った学芸員が見せた行動
娘とふたりで訪れた美術館
チケットを購入して第1展示室に入ると、娘は目を丸くしてあちこちの絵を指差しました。「これなあに?」「ママ、あの猫みたいなのかわいい」。声を抑えるよう何度か娘に伝え、ベビーカーを邪魔にならない位置に寄せながら、ゆっくりと作品を見て回ります。 家事と仕事に追われる日々のなかで、娘とこうして笑いあう時間は、私にとっても貴重な休息でした。「絵って、お話みたいだね」と笑う娘の横顔を見ながら、来てよかった、と思っていたのです。
「子連れは迷惑でしょ」というひとこと
第2展示室に進んだときでした。私たちの少し前を歩いていた40代くらいの女性が、ふいに立ち止まり、こちらに歩み寄ってきました。 「子連れは迷惑でしょ」 低い、けれどはっきりとした声でした。「すみません」とだけ口にして、頭を下げました。何か言い返したい気持ちはあったはずなのに、言葉になりませんでした。 娘が不思議そうに私を見上げています。何でもないよ、と微笑もうとしましたが、思うように笑えませんでした。
隣に立ってくれた学芸員さん
そのとき、すっと隣に人の気配が立ちました。ベージュのジャケットを着た学芸員さんでした。 「どの絵が一番気になりましたか?」 柔らかな声で、私と娘に向かって話しかけてくれたのです。女性は何も言わず、別の展示室へ歩き去っていきました。
学芸員さんは、私たちのペースに合わせてゆっくりと作品を案内してくれました。娘が「お姉さん、絵にも家族がいるの?」と尋ねると、少しかがんで娘の目線に合わせ、「いるんですよ。この絵を描いた人にも、お母さんがいたんです」と答えてくれました。娘はうれしそうにうなずいていました。
そして...
出口に向かうとき、学芸員さんが「またいつでもいらしてくださいね」と笑顔で見送ってくれました。娘は帰りの電車で、もらったパンフレットを大事そうに抱えていました。 あの女性に言われた言葉は、今も忘れられません。けれど、それ以上に強く残っているのは、隣に立ってくれた学芸員さんです。何も特別なことを言ったわけではない。ただ、私たちのとなりに立ってくれた。それだけのことが、これほど人の心を支えるのだと知りました。 娘は、また絵を見に行きたいと言っています。今度はきっと、もう少し胸を張って歩けそうな気がしています。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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