「いつも旦那さんが料理。奥さん何してるの」と噂→真実を知って恥じた理由
気になり始めた、隣の家
引越して半年ほど経った頃から、隣の家のことが気になり始めました。夕方になると、旦那さんが両手に買い物袋を提げて帰ってくる。しばらくすると、廊下に夕飯の匂いが漂ってくる。それが毎日のことでした。ゴミ出しの日に顔を合わせる奥さんは、どこか顔色が優れず、「こんにちは」と短く言葉を交わしてすぐに引き返す。
同じフロアの顔なじみの奥さんと話すたびに、自然と隣の家の話題になりました。「いつも旦那さんが料理。奥さん何してるの」。そんな言葉が、笑いながら何度もこぼれていた。
悪意はなかった。ただ少し、不思議に思っていただけで。
エレベーターで聞いた一言
ある日曜の昼下がり、エレベーターで隣の旦那さんと乗り合わせました。大きな買い物袋をいくつも抱えた彼は、いつもの穏やかな笑顔でした。「いつもお料理されてるんですね」と気まぐれに声をかけると、旦那さんは少し間を置いてから、こう答えました。
「妻は体の調子がよくないもので。美味しいものを食べさせてあげたくて」
愚痴でも自慢でもない、穏やかな声でした。私は「そうなんですか」とだけ返して、エレベーターを降りました。その言葉が、しばらく耳の奥に残り続けていました。
後から知ったこと
同じフロアの奥さんから教えてもらいました。隣の奥さんは難病を患っていて、長時間立ちっぱなしでいることが難しいのだと。調子のいい日もあれば、ほとんど動けない日もある。見た目にはわからないからこそ、誤解を招きやすい病気だと。
「奥さん何してるの」と笑いながら言い合っていた言葉が、胸の奥にじわりと沁みてきました。見えていなかっただけで、彼女はずっとそこにいた。私の目に届かない場所で、毎日を懸命に過ごしながら。
そして...
翌朝、廊下で奥さんとすれ違いました。「おはようございます」と声をかけると、彼女は柔らかく微笑んでくれました。私はとっさに「いつもいい匂いがしますよ、お料理」と言いかけて、やめました。のんきなことを言える立場じゃない気がして。
見えないものを見えないままに、見えることだけで人を量っていた。その浅さに、ようやく気づいた朝でした。
(30代女性・専業主婦)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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