5件の提案書を自分の名前で出し続けた俺が、社長賞の壇上で思い知った代償
最初は、守るつもりだった
2年前、契約社員の彼女が配属されてきたとき、俺は正直に驚きました。仕事が丁寧で、視野も広い。けれど、この会社で契約社員が目立つとどうなるか、俺は知っていました。
以前いた契約社員が改善提案を出して注目されたあと、「自分の業務に集中してほしい」と上から言われ、更新されなかった。同じ目に遭わせたくなくて、彼女が会議で発言しかけたとき、俺はこう言いました。
「契約社員は黙って従え」
突き放した言い方をしたのは、それくらい強く言わないと伝わらないと思ったからです。彼女の表情がこわばったのは、見ていました。
線を越えた日
彼女が配送ルートの改善案を持ってきたとき、その完成度に舌を巻きました。「この提案、私の名前で出してもいいですか」と聞かれ、俺は「目立つと契約更新に響くぞ。俺の名前で出しておく」と答えました。あのときは本気で彼女を守るつもりでした。
けれど、提案が採用されるたびに朝礼で俺の名前が呼ばれ、上司の評価が目に見えて上がっていく。2件目、3件目と続くうちに、守っているのか奪っているのか、自分でもわからなくなっていきました。
5件目を受け取ったとき、胸の奥がちくりと痛んだのを、俺は見ないふりをしました。
壇上で聞いた名前
年度末の全社集会。「今期の社長賞は、業務改善提案に最も貢献された方です」と司会が読み上げた瞬間、反射的にネクタイに手が伸びました。立ち上がる準備をしていたのだと思います。
読み上げられたのは、彼女の名前でした。周囲の視線が俺に集まるのを感じながら、膝の上に置いた手を握りしめることしかできませんでした。
そして…
社長が提案書のデータを調べたと、あとから聞きました。5件すべてのファイル作成者が彼女のアカウントだったそうです。
式のあと、彼女は俺のほうを一度も見ませんでした。「最初は守るつもりだった」と言い訳する資格が、俺にあるのかわかりません。守ろうとした1件目と、結果的に奪っていた5件目の間のどこかで、俺は確かに線を越えていました。気づいていたのに、見ないふりをしていた。
翌朝、出社して彼女の席に向かい、「おはようございます」と声をかけました。彼女は少しだけ間を置いて、小さくうなずきました。たったそれだけのことが、喉の奥がつかえるほど重く感じました。
(40代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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