「擦ってないか見て」が口癖だった車好きの俺→雨の記念日、彼女が戻らなくなって初めて気づいた
車だけが自分だった
職場では「いてもいなくても同じ」ような存在でした。会議で発言しても流される。飲み会では端の席。「あいつ何やってるんだっけ」と同期に言われたこともあります。
そんな自分が、唯一“認められている”と感じられた場所が、SNSの車アカウントでした。フォロワーは5000人を超え、投稿すれば「かっこいい」「最高」とコメントがつく。車高を下げ、ホイールを替え、マフラーを変えるたびに、自分の価値まで上がったような気がしていました。
給料の半分近くを車につぎ込んでいました。デート代が割り勘になることも、記念日のプレゼントが安くなることも、全部「車に金がかかるから」で済ませていましたが、彼女は一度も文句を言いませんでした。それを勝手に「理解してくれている」と思い込んでいたのです。
「降りて見て」が普通だった
車好きの仲間内では、段差の前で同乗者を降ろして確認させるのはよくあることでした。仲間の彼女たちも当たり前のようにやっている。だから、自分の彼女に頼むのも普通だと思っていました。
記念日のあの日も、雨の中で彼女がしゃがんで確認してくれたとき、「ありがとう」ではなく「擦ってない?」と聞いていた自分に、何の違和感もありませんでした。
ストッキングが伝線していたことにも気づかず、濡れた彼女に「シートが濡れるから、ちゃんと拭いてから座って」と言ったことにも。
レストランの駐車場に着いたときも、また「見てきて」と言いました。彼女は「わかった、降りるね」と車を降り、そのまま戻ってきませんでした。
仲間に言われたこと
「え、どこ行った?」とLINEを送っても返事はなく、車を降りて周囲を見回しても、彼女の姿はありません。そのとき目に入ったのは、駐車場の段差でついた小さな擦り傷でした。
頭に浮かんだのは彼女の心配ではなく、「てか車に傷ついてたんだけど。ちゃんと見た?」という言葉でした。そのまま、それをLINEで送りました。
その夜、車仲間のグループLINEに「彼女が記念日に帰った」と送信しました。同情してもらえると思っていたのです。
でも返ってきたのは、「お前、記念日に雨の中降ろしたの?」 「さすがにそれはないわ」 「俺だって彼女といるときは自分で降りて見るぞ」という言葉でした。全員に否定されました。
「車好きならわかってくれる」と思っていた相手に、「お前が悪い」と言われたのです。「車を大事にすること」と「彼女を雑に扱うこと」は別だと、そのとき初めて突きつけられました。
そして...
翌日、SNSに車の写真を投稿しようとして、ふと気づきました。スマホに入っている一番いいアングルの写真は、全部彼女が撮ってくれたものでした。
「もうちょっと低い位置から撮って」 「光の加減がいいから今撮って」
そう頼むと、彼女は文句ひとつ言わずにしゃがみ込み、最高の一枚を撮ってくれていた。助手席から降ろされても、雨に濡れても。
あの1年間、彼女がしてくれていたことの重さに、いなくなってからようやく気づきました。3日後、「ごめん、言いすぎた」とLINEを送りましたが、既読はつきませんでした。
言いすぎたんじゃない。見なさすぎたんだ。フォロワー5000人の画面には、もう彼女が撮った写真を上げることはできません。助手席は空っぽのまま、車だけがピカピカに磨かれています。
(30代男性・営業職)
本記事は、読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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