

セレクトショップの信用を損なう仕事はしない。野尻美穂さんがファッションディレクターとして大切にしていること
外の世界に触れたいと、フリーランスになったものの、特にあてのなかった野尻美穂さん。独立後初となる仕事は意外なあの人からの依頼でした。フリーランスのファッションディレクターとして10年走り続け、新たにしたいことが見えてきたという野尻さんの現在地とは?
フリーランスになって初めての仕事は、大根仁監督からの依頼
●――会社を辞めて次のあてはあったんですか?
野尻 まったく。明日からの稼ぎがなくなるとは一瞬考えたけれど、それよりも外に出たい気持ちの方が大きくなっていて。組織が合わないとは感じていたので同業他社に転職する気もなかったし、お蕎麦が好きだからバイトするなら蕎麦屋がいいなー、くらい(笑)。ただ、何でもやる気ではありました。自分の適正って経験してみないとわからないですから。
それでも半月くらい何もしていないと、さすがに働かないとまずいかなってハローワークに行こうとしたら、映画監督の大根仁さんから連絡があったんですよ。

●――急に意外なお名前が。
野尻 大根さんの雑誌連載に呼んでいただいたことがあり、それをきっかけに連絡をいただいて。その頃、大根さんが『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』という映画を撮っていて、アパレル業界の人にエキストラをお願いしたいシーンがいくつかあるからキャスティングをしてもらえないか、って。持てる限りの人脈を使って100人以上集めましたよ〜! 今思い返しても大変だった(笑)。これがフリーランスとしての初めての仕事になりました。
フリーランスになった当初は洋服を作るなんて想像もしていなかった
●――ファッションディレクターとしての仕事もすぐに始まったんですか。
野尻 大根さんからのお仕事とほぼ同時期に【ナノ・ユニバース】で仲良くしている方から、コラボの誘いをいただきました。それが2014年にスタートした【ナノ・ユニバース】と私のコラボ、通称【ミホナノ】につながるんです。こう振り返るとタイミングがすごいですよね。
●――もともと洋服は作りたいと思っていたんですか?
野尻 フリーランスでもPRをしてくんだろうなって思ってたから、洋服を作るなんて想像もしてなかったですね。でも洋服を作りたい気持ちはどこかにあったかもしれません。
【ミホナノ】はオリジナルではなく、メーカーブランドの商品をカスタムをする取り組みがメイン。その時は【チャンピオン】や【リー】、【ラングラー】などのアイテムをカスタムディレクションしていました。新しいことばかりで無我夢中でしたが、ありがたいことに人気もあり、完売アイテムが出るほどでした。
●――今は古巣の【シップス】ともお仕事をされています。

野尻 最初は水着と街にも着ていけるラッシュガードを作らせてもらいました。その時にブランド名を決めることになり、ハワイ語で水の意味を持つ【Wai+】と決めました。少しづつですが【Wai+】の名前も覚えていただけるようになり、スタッフさんからの評判もよく、これからも大事にしたい取り組みです。在籍していた会社とお仕事をさせてもらえていることにもとても感謝しています。
セレクトショップの信用を損なう仕事はしちゃいけない
●――ファッションディレクターとして、様々なアパレルメーカーから声がかかるのでは?
野尻 お声がけはいただきますが、私を信頼して買ってくださるお客様を裏切れない気持ちがあるので、そこは慎重に検討させてもらいます。縫製や生地の感じなど、洋服は細部まで大事なので自分が納得できるアイテムを作れる環境でお仕事をしたいと思っています。

野尻 2017年ぐらいの時、当時私のインスタにフォロワーが3万人ほどいたからか、業界新聞に【ミホナノ】をインフルエンサーコラボって取り上げられたことがあったんです。「私はインフルエンサーじゃないのにな」って気持ちはずっとあって。インフルエンサーのブランドがこれだけあるからこそ、差別化できるよう努力したいですし、お互いにリスペクトし合えるところとお仕事をしていけたらなと思っています。
自分がセレクトショップに育てられてきたから、セレクトショップ全体の信用を損なうことはしちゃいけないって思いが強くあります。関わらせていただいているお仕事すべてに当てはまりますが、中でもセレクトショップとの取り組みは背筋が伸びる思いです。

●――フリーランスになって今年で10年。節目ですね。
野尻 早かったですね。フリーランスになったから人との付き合い方をはじめ、私の人生は変わったと思いますし。結果論ですが、会社を辞めて後悔はないですね。色々経験していく中で、楽しいことももちろんありますけど、仕事をする大変さはすごく思い知りました。企画からスタイリング、販売方法まで全部自分で考えなきゃいけないから、やりがいとともに責任の重さをすごく感じています。

野尻 10年ファッションディレクターとして活動する中で、いろいろな経験をさせていただいています。まだまだ勉強中の身ではありますが、依頼いただけるお仕事も大切にしつつ、いずれは自分自身がしたいことができる場所を作っていきたいです。私がほしいもの、共感してもらいたいことを共有できる場として、アパレルだけじゃなくて、雑貨や器、自分が気になっている人やブランドと一緒に何か作りたいんです。できれば今年中にスタートできたらいいな、なんて考えつつ、ガチガチに決め込まないで、楽しく無理のない程度に柔軟にやっていければなって。
●――次の展開も視野に入っているんですね。
野尻 そんな大げさな感じでもないんですけどね。今年40歳になったので、あと10年で50歳。「え、もう50歳?」みたいな(笑)。やれることをやれる時にならないと。後悔はしたくないし、毎日大事にすごしていきたいなと思ってます。いつか余裕ができたら、どこかにコーヒーショップ併設のセレクトショップを作ったりしたいなぁ、なんて夢見てます(笑)。
Photograph:川本史織
Senior Writer:津島千佳
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