国民的ドラマ・踊る大捜査線「室井慎次」はなぜ特別なのか柳葉敏郎とのリンク、シリーズが重ねてきた時間がもたらす奇跡の味

2025.06.06 08:30

2024年10月と11月に立て続けに公開された、“踊る”シリーズ最新作の映画「室井慎次　敗れざる者」および「室井慎次　生き続ける者」。両作は5月14日からデジタル配信も開始し、いまもさまざまなイベントなどが各地で話題に挙がっている。「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」の公開から12年以上の歳月を経て描かれた物語、そしてシリーズファンの心を躍らせた注目の展開とは。俳優・柳葉敏郎が魂を込めて演じた映画「室井慎次」の魅力について、あらためて深掘りしていく。

室井慎次とのリンクがもたらす柳葉敏郎の演技力

1997年に放送された「踊る大捜査線」シリーズは、フジテレビを代表する傑作刑事ドラマだ。放送開始から20年近くが経とうとしているが、いまもなおファンの心を掴んで離さない。

織田裕二演じる主人公の青島俊作はもちろん、同シリーズに欠かせない存在…陰の主人公ともいうべき存在が柳葉敏郎演じる室井慎次だ。現場組とキャリア組、指示を受ける側と出す側、目の前の人に向いた倫理と警察組織のための論理。綺麗なコントラストを描く青島と室井の立ち位置は、同シリーズの人気を不動にした大きな要因だろう。

主人公は間違いなく青島なのだが、室井も「青島、確保だ！」「責任をとる。それが私の仕事だ」など日本国民の心に強く印象に残った名台詞も多い。

そんな室井を演じる柳葉は秋田県出身であり、地元愛が強い人物として知られている。ドラマの中でも室井は東北大学出身の警察官僚という設定で、寡黙な人物として描かれた。青島とは対照的に決して多くを語ることはないが、時折見せる感情を押し殺したような表情や態度は室井の心中を物語るのには十分。むしろそんな“クールな態度と熱い内面”のギャップが、多くの視聴者から愛される結果につながった。

また感情を殺して将来を見据えた動きをする室井から、時折飛び出す優しい笑顔や故郷の秋田弁もたまらない。柳葉の故郷の言葉ということもあって、本当に「ぽろっと出た」ような自然さが室井というキャラクターに厚みを加えているのだ。

ただこうして見てわかるとおり、室井慎次というキャラクターは柳葉敏郎という俳優とさまざまな面でリンクしている。長くともに歩んできたシリーズの役という以上に、柳葉にとって映画「室井慎次」で描かれる物語は重いものだったはず。そしてその思い入れの熱は、たしかに映画に表れている。

警察庁を退職した室井は秋田へ…意外なセカンドキャリア

「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」から12年という歳月のなか、室井はかつて青島と交わした「警察組織を変える」という約束を果たすために組織改革に取り組んでいた。ところが上層部の意向により異動が決まってしまい、青島との約束を果たせなくなった室井。断腸の思いで定年を前に自ら警察庁を退職し、故郷の秋田へ帰った。

大きな沼のほとりに建つ古い一軒家を借りた室井。彼が第二の人生として選んだのは、犯罪被害者・加害者の子どもである柳町凛久(前山くうが・こうが)と森貴仁(齋藤潤)を里親として引き取って一緒に暮らしていくという道だ。

室井は長きにわたってさまざまな事件を解決してきたが、その裏で大きな代償を伴ってきたことに気づく。それは親以外に身寄りがおらず、施設での暮らしを余儀なくされた被害者・加害者の子どもたちだった。これは青島との約束を果たせないまま警察を退職した償いとして、室井なりに考えた結論が里親という道だった。

平穏な生活を送っていた室井だが、ある日池のほとりに埋められた遺体が発見される。さらに室井のもとへ杏(福本莉子)という1人の少女が現れ、ともに生活を送ることに。警視庁が中心となって事件の捜査が進んでいくと、見つかった遺体とかつて室井が指揮した事件との関連性が浮上してくる…。

「室井慎次　敗れざる者」「室井慎次　生き続ける者」は、これまで警察官僚としてキャリアの道を歩んできた室井とはまったく異なる姿を楽しめる作品だ。寡黙で多くを語らない性格は歳を重ねてもそのまま。しかし里親として子どもたちと過ごすうちに本当の親子以上に固い絆で結ばれていく姿は、「踊る」ファンにとって2つの意味で胸が締め付けられるだろう。

盟友・青島との約束を果たせなかった後悔、道半ばで自ら退職を選んだ後ろめたさ、事件を追うのに必死で正しく見えていなかった被害者・加害者たち家族のその後、いまだ組織の改革を願う心の火、子どもたちへ向ける本物の愛。非常に複雑で繊細な心の機微を、柳葉は見事に表情や声、仕草や目線で表現している。

初めて同シリーズに触れる人も楽しめる同作だが、やはりすべてのバックボーンを知って触れるのでは情報量が違う。深く濃い“眉間のシワ”が代名詞だった室井の変化、そして現場に立つことになった室井の“変わらない熱さ”、そして物語の結末。胸が締め付けられるような濃い感情は、長い歳月を歩んできた“踊る”シリーズならではだ。

また本作には「兵隊は犠牲になってもいいのか」の名台詞を残した筧利夫演じる新城や、「THE MOVIE2」で捜査本部長を室井に交代した真矢ミキ演じる沖田も登場。警察庁を離れた室井に対し、かつての盟友たちが手を差し伸べるシーンは必見だ。ストーリーが進行していくにつれて過去の事件と今回の事件がどう繋がっていくのか、予想もつかない展開が楽しめる。

「室井慎次　敗れざる者」および「室井慎次　生き続ける者」は5月14日からBlu-rayとDVDが発売されたほか、U-NEXTなど配信サイトにてデジタル配信もスタート。リリースを記念したイベントも7月19日(土)に都内某所で開催されることが決定しており、主演・柳葉敏郎とプロデューサー陣によるトークイベントを予定している。

Blu-rayとDVDに封入されているイベント抽選応募券の当選者が会場に招待され、映画撮影時の裏話や制作の舞台裏など、ここでしか聞けない貴重なトークが繰り広げられることだろう。ファンにとっては、まさに“真夏の合同捜査会議”とも言える特別な一日となるため、是非この機会にご応募いただきたい。今後の“踊る”シリーズにも繋がる大事な作品だが、それ以上に室井の表情や目線を何度も見返してほしい。柳葉敏郎という俳優の粋を詰め込んだような繊細な演技が、何度でも新しい発見をくれるはずだ。