

伊丹十三監督映画の“三要素”を一作目「お葬式」から紐解く 全10作が日本映画専門CHにて放送

「一つ、“びっくり”した。二つ、“面白い”。三つ、“誰でも分かる”」。伊丹十三監督は、自身が手掛けた映画はこの三要素でできていると語ったという。配信では観られないそんな伊丹映画全10作品が、5月17日(土)20:00より、日本映画専門チャンネルにて「24時間まるごと 伊丹十三の映画4K」と題され、一挙放送される。昭和から平成初期の芸術が詰め込まれた伊丹映画が、令和の今、美しく鮮明な画質で、24時間丸々楽しめるという贅沢な機会。さらに、「伊丹十三4K映画祭」で行われた各作品のトークイベントの模様も放送されるという。
同トークイベントで、伊丹の妻であり、俳優で伊丹映画全作に出演していた宮本信子は語った。「いつも伊丹さんが言っておりましたが、伊丹映画は三つあります。一つ、“びっくり”した。二つ、“面白い”。三つ、“誰でも分かる”。これが伊丹さんの精神でした。賞をいただくための映画は作りたくないと。エンターテインメントの映画で、皆さんが観てくださって、面白かった、楽しかった、励まされた(と思える)…そういうような映画を僕は作りたいんだよ。この10作全部にその魂が入ってると思います」、と。そこで今回、伊丹映画全10作の中から、記念すべき第一作目となる「お葬式」(1984年)をピックアップし、この三要素から伊丹映画の魅力を改めて深掘りしていきたい。
“お葬式”の3日間を描くヒューマン・コメディの誕生秘話
「お葬式」とは、義父の葬式を体験する主人公を中心に、通夜から火葬まで3日間の出来事を様々なエピソードを盛り込んで描くヒューマン・コメディ。伊丹十三の監督デビュー作でその年の映画賞を席巻した。俳優夫婦の侘助(山崎努)と妻・千鶴子(宮本)のもとに、伊豆に住む千鶴子の父親(奥村公延)が亡くなったと知らせが入る。千鶴子の母・きく江(菅井きん)を喪主に通夜の準備を始めるが、葬式を執り行うのは初めてである侘助にとって、戸惑うことばかりだった。
本作は、宮本の父親が亡くなった際に、最後の火葬場の煙を宮本と共に見ていた伊丹監督が「なんか、小津(安二郎)さんの映画に出てるみたいだね。これは、映画になるね…映画を作ろう」と言ったことがきっかけだったという。だからこそ、「お葬式」は完全なエンターテインメントでありつつも妙なリアリティーを感じる。
派手な展開がないのに“びっくり”する物語性
まず何と言っても着目すべきは、その物語性である。義父が亡くなる直前から始まり、お通夜、葬儀、火葬までのたった3日間が描かれているのだが、派手な出来事や感情を大きく揺さぶるようなシーンはほぼないと言っていいだろう。日常の地続きのような淡々としたストーリーが続いていくのだが、なぜか見入ってしまうのだ。
そこにはもちろん、衣装や美術、映像といった視覚的な美しさゆえの映画としての面白さもあるのだが、筆者個人的には伊丹映画の魅力は、登場人物ひとり一人のキャラクターの濃さを含めたその物語性にあるように感じる。
知らないご家族のお葬式を勝手に覗き見してしまったかのような背徳感とリアリティー。登場人物に感情移入するというよりも、全体を俯瞰して見てしまう、どこか客観的な視点で進んでいく物語が癖になる。そして決して派手な笑いではないが、思わず笑ってしまう独特で不規則なユーモアが心地良い。
大きな事件が起こるわけでも、派手なアクションがあるわけでも、感情が突き動かされる強いセリフがあるわけでもない。だが、そこにはしっかりと物語性と人間くさい哀愁があり、脳に刻まれる…そんな不思議な物語にびっくりしてしまう。
日常と非日常の間に揺れる“面白さ”
“お葬式”という、日本である程度長く生きていれば、誰もが一度は体験するであろう出来事に焦点を当てている本作。ある意味では日常がそのまま描かれているとも言えるが、序盤のCM撮影のトリック映像をはじめ、愛人との山奥でのハプニングや花入れの儀で突然記念写真を撮り始める困った親戚など、どこか非日常を感じさせるシーンも散りばめられている。約2時間、そんな日常と非日常の狭間で揺れている曖昧な世界観。そこに境界線はなく違和感も全くない。実にナチュラルで鮮明なのにふわふわとしているのだ。その不思議な感覚がまるで魔法みたいで、面白い。
“誰でも共感できる”あるある
本作の主人公は、葬儀の喪主側に立つのは初めてという設定だ。筆者も初めてお葬式を体験する際には、インターネットで作法を調べたり、両親に葬儀マナーを聞いたりして、軽く準備をしてから挑み、当日はお焼香の際に前の方たちを凝視して、その動作を見よう見まねでやっていたことをハッキリと覚えている。
本作には、お葬式の正座で足が痺れてしまったり、病院で亡くなった場合に支払う料金の相場が分からなかったり、お棺のクオリティーやお通夜用のお寿司の量の相場が見当もつかなかったり、喪主である義母はキャパオーバーですべてにおいて受動的だったり、「冠婚葬祭入門」のビデオできっちり予習したり、お通夜を締めるタイミングを逃してズルズル長引いたり…ととにかくあるあるが満載で、きっと誰もが少なくとも一つは「分かる!」と大きく頷くはずだ。
伊丹十三監督が手掛けた映画は、映像界で高く評価され、さまざまな著名人に影響を与えた芸術作品に違いない。だが、とても親しみやすい。良い意味で格式高さがなく、庶民的なのである。その一方で、アンビバレントで実に不思議な感覚も抱く。まさにエンターテインメント作品。そんな誰でも分かって、びっくりして、面白い、伊丹映画でしか堪能できない唯一無二の世界に、あなたも足を踏み入れてみてはいかがだろうか?
「24時間まるごと 伊丹十三の映画4K」放送作品
「お葬式」「タンポポ」「マルサの女」「マルサの女2」「あげまん」「ミンボーの女」「大病人」「静かな生活」「スーパーの女」「マルタイの女」
構成・文=戸塚安友奈
※山崎努の崎は「たつさき」が正式。
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