

キーラン・カルキンがオスカー受賞「リアル・ペイン〜心の旅〜」の奏でる“誠実な旋律”…対照的な2人のロードムービーに感嘆

アカデミー賞で2度の主演女優賞に輝いたエマ・ストーンがプロデュース、ジェシー・アイゼンバーグが脚本・監督・製作・主演を務めた映画「リアル・ペイン〜心の旅〜」が、4月16日に配信された。同作は、かつて兄弟同然に育ち、近年は疎遠になってしまった従兄弟のデヴィッドとベンジーが数年ぶりに再会し、亡くなった最愛の祖母をしのぶため、彼女の故郷ポーランドを旅する姿を描いたロードムービー。今回は幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が同作を視聴し、独自の視点でのレビューを送る。(以下、ネタバレを含みます)
第82回ゴールデングローブ賞も受賞した映画「リアル・ペイン〜心の旅〜」
「ソーシャル・ネットワーク」で俳優としてブレイク、「僕らの世界が交わるまで」で監督デビューを果たし、世界から高評価を受けたアイゼンバーグがデヴィッドを、「メディア王〜華麗なる一族〜」で2024年のゴールデングローブ賞とエミー賞をW受賞したカルキンが従兄弟であるベンジーを演じる今作。
第82回ゴールデングローブ賞では、作品賞(ミュージカル/コメディ部門)、脚本賞(アイゼンバーグ)、主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門:アイゼンバーグ)、助演男優賞(キーラン・カルキン)の合計4部門でノミネートされ、カルキンが映画部門 助演男優賞を受賞。カルキンは第97回アカデミー賞の助演男優賞も受賞し、オスカー俳優となった。
ちなみに“カルキン”というファミリーネームに聞き覚えのある方もいるかと思うが、日本でも有名な大ヒット映画「ホーム・アローン」(1990年)の天才子役マコーレー・カルキンの弟だ。キーランも「ホーム・アローン」には出ていたそう。今回初めてのオスカーノミネートで受賞する快挙に、兄のマコーレーも感涙したと聞く。
閑話休題。子どもの頃は兄弟同然の仲良しだったデヴィッドとベンジーだが、ここ数年はすっかり疎遠になってしまった。歳月を経て2人とも、しっかり「中年男性」という感じである。
デヴィッドは家庭を持っていて、仕事ぶりも手堅い。彼の側から考えれば、今回は「あえて多忙な日々を縫って、ベンジーのために合流した」というところもあるはずだ。2人が久しぶりに顔を合わせた目的は、亡くなった祖母を追悼すること。デヴィッドもベンジーも彼女のことが大好きで、良い思い出として心に刻まれているのだ。
一躍2人は、祖母の故郷であるポーランドを旅する。とは言っても、デヴィッドもベンジーもアメリカ人であり、英語ネイティヴ。ポーランド語には不案内である。そこでツアー旅行に参加し、英語に堪能な案内係のもと、ポーランドの各所を見学することに。
ちなみにそのツアーは、参加者を「ああ楽しい、あれもこれも映えまくり! 撮っちゃおう!」という気分だけにさせるエンターテインメント性に富むものとは180度異なる内容を持つ。ユダヤの血を引く人々が、あまりにも残虐な扱いをされざるを得なかった先祖を悼み、自分たちがそこから生還した「サバイバー」の子孫であることを再確認するためのプロジェクトといえばいいか。
目的地は、強制収容所と絶滅収容所の役割を兼ねてナチス・ドイツが設置したルブリン強制収容所(通称:マイダネク)。筆者でも虐殺の風景を想像するだけで吐き気がするのだから、このツアーに参じた者たちの気迫と勇気には計り知れないものがある。参加者として集まったのは、さまざまな国からの、割と幅広い年齢の人たち。その中にはユダヤ系だけではなく、アフリカ系の男性もいるが、その理由はしっかり映画内で明かされている。生への権利はいついかなるときも、誰にも阻害されるべきではないということだ。
歳月の流れは2人のキャラクターをすっかり対照的に
さてデヴィッドとベンジーは久々に顔を合わせ、しかも長旅に出るのだが、歳月の流れは2人のキャラクターをすっかり対照的にしてしまった。デヴィッドは堅実で、ベンジーは不真面目。ベンジーの振る舞いは「露悪的」といっていいほど、周りの人の顔をしかめさせることで快感を得るタイプなのかもしれない。
彼が人前では言ってはいけないとされる言葉を大声で言い、移動中に座席のランクを強引に変え(彼なりの“哲学”があるとしても)、1人でツアーに参加した女性を口説くように声をかけ、植物由来の薬物をやり、レストランで大きなゲップをしたりするごとに、デヴィッドの常識人ぶりが、いやがおうにも際立ってくる。
だがデヴィッドは自分が別に善人ではないことも、ベンジーの根っこがそんなに腐ったものではないことも知っている。ツアー参加者がベンジーの振る舞いに対して比較的穏やかなのは、先祖が犠牲になったという「共通体験」を持っているからなのだろうか。
レストランでおごそかに食事中、ベンジーはトイレに向かう。ここからしばらく彼の姿は画面から消えて、数分後、ピアノの生演奏が耳に入り込む。軽やかだが、時折トチリながらの演奏は、この弾き手がプロではないことを示す。果たしてピアノに触れていたのはベンジーだった。
楽曲は1924年、ということは今から100年ほど前に作られたジャズ・ソングである「ティー・フォー・トゥー」。好意を持っている異性との幸せな未来(家庭)を想像する、という歌詞がついていたはずだが、さしあたってベンジーに明るいビジョンはない。だがツアーを途中で抜け、従兄弟同士で祖母の暮らしていた家を訪ねたあたりから、物語には一筋の光が差す。
とはいえ、「これ以上ポジティブにすると、まるでファンタジー的になってしまう」ところの数歩手前という感じの、あくまでも現実的にあり得そうな「光」である。そこに私は製作側の誠実さを感じた。それにポーランドが舞台ということで、同国が世界に誇る作曲家であるショパンの名旋律がふんだんに使われているのもうれしく、感嘆の声を漏らしながら見てしまった。
「リアル・ペイン〜心の旅〜」はディズニープラス スターで見放題独占配信中。
◆文=原田和典
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