

台湾映画・旬の才能に迫る 『鬼才の道』ジョン・スー監督、『我が家の事』パン・カーイン監督&ツェン・ジンホア【インタビュー】

台湾の映画監督と聞いて、誰の名前を想像するだろうか。エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェン、それともアン・リー?
日本の映画ファンに台湾映画がよく観られていた時代から数十年が経過した今、台湾にはまったく新しい才能が続々現れている。今年3月に開催された「第20回大阪アジアン映画祭」の特集企画<台湾電影ルネッサンス2025>から、3人の新鋭をご紹介しよう。
世界の映画祭を席巻した『鬼才の道』のジョン・スー監督。そして、初長編ながら堂々の演出力を見せつけた『我が家の事』のパン・カーイン監督と人気俳優ツェン・ジンホア。来日した3人から創作の裏側をじっくりと聞いた。
『鬼才の道』ジョン・スー監督
台湾ホラーの大ヒット作『返校 言葉が消えた日』で「台湾版アカデミー賞」こと金馬奨の最優秀新人監督賞に輝いたジョン・スーが、異色のホラーコメディ『鬼才の道』をひっさげて帰ってきた。
死後、自分を象徴するものが現世からなくなったが最後、30日以内に「価値ある幽霊」として認定されないと消滅する――。取り柄のない女性幽霊・同學は、幽霊界の元トップスター・キャサリンと、男性マネージャー・Makotoに出会い“女幽”としてのブレイクを目指す。ところが、やることなすこと失敗する同學に消滅の日は容赦なく迫っていた。
ある日、ひょんなことから同學は空前のチャンスに恵まれ、一夜にして注目の的となる。ところが、今度は現トップスター女幽のジェシカとキャサリンの対立に巻き込まれて……。果たして彼女は、無事に「価値ある幽霊」として認められるのか?
第61回金馬奨で長編劇映画賞・監督賞・脚本賞を含む11部門にノミネートされ、最多5部門を受賞。世界各国の映画祭でも熱狂的に受け入れられ、数々の賞に輝いたほか、トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門ではアカデミー賞候補作『サブスタンス』とも大接戦を繰り広げた話題作だ。
本作が生まれたきっかけは、ジョン・スー監督が『返校』を完成させたあと、しばらく休もうと決意していたこと。金馬奨の栄光に輝いたがすっかり疲弊しており、とりわけホラー映画は観たくもなかったそうだ。しかしある時、ホラー映画のプレミア上映に招かれた。
「私はホラー映画をあまり怖がらないので、映画の最中にいろんなことを考えていました。その映画の中に、とある女性の幽霊が出てくるシーンがあったんです。公園の汚いトイレからいきなり飛び出して怖がらせる。その時、『これは幽霊からすると大変な仕事だぞ』と思ったんです。人間を驚かせる準備をしたあと、誰かが来るのを汚いところでずっと待っていて、“今だ!”というタイミングで飛び出す。涙ぐましい努力ですよね」
上映のあと、同行していたプロデューサーに「幽霊の視点で映画を作ろう」とすぐに提案。「今までにないホラー映画ができあがりそうだ」と前向きに受け止められたことで企画が動き出した。もっとも、完成した脚本は監督自身の個人的な物語になったという。
主演は『返校』に続いての再タッグとなったワン・ジン。「私と彼女は『返校』をきっかけに人々の注目を浴び、その意味と副作用を知りました。『鬼才の道』は私自身が経験した変化の物語なので、彼女はその情感を最も理解してくれると思ったんです」という。自身の経験を盛り込みつつ、同學のキャラクターにはワン・ジン本人の性質を反映。いきなり注目される幽霊の苦悩を描くストーリーができあがった。
展開はハイテンポで、編集のリズムも小気味よい。台湾映画には珍しいスピード感だが、ジョン・スー監督はエドガー・ライトや宮藤官九郎の作品に大きな影響を受けたそう。「私はテンポが速い映画が好きなので、これくらいの速度が一番気持ちいい。台湾映画を観ていると、『1分で描けることにこんなに時間をかけて……』と思うこともあります(笑)」
本作を携え、アメリカやフランス、スペインなど各国の映画祭を巡った。台湾の都市伝説や幽霊をモチーフに、ローカルな文化をさまざま取り入れた映画だが、「笑うところ、泣くところはどの国でも同じ。ほとんど反応が変わらず、きちんと伝わっているのがわかりました」と話す。「もっと文化の違いを感じるかなと予想していたので驚きました」
この映画にはひとつの副作用がある。幽霊たちの奮闘ぶりを見ると、別のホラー映画を観てもあまり怖さを感じなくなってしまうのだ。「台湾ではホラー映画ブームが続いていますが、この映画の公開後はあまり怖がらないお客さんが増えたそうです(笑)。友人の監督には『なんてことをしてくれたんだ』と怒られています」
日本配給はツインが担当。Netflixでは配信が始まっているが、コメディやホラーは映画館に集まって観るのが一番楽しいジャンルで、本作も劇場でこそ真価を発揮する演出がたっぷりだ。日本での劇場公開情報が待たれる。
『我が家の事』パン・カーイン監督&ツェン・ジンホア
台湾中西部、彰化という街に一組の家族がいる。娘の春(チュン)は台北の大学に進学しているが、旧正月に帰省。奨学金の書類を提出するため入手した戸籍謄本で、自身にまつわる事実を知る。母親・秋(チウ)と父親・冬(トン)には、彼女に伝えていなかった長年の秘密があったのだ――。
映画は春の幼少期から始まり、春の大学時代、また春の弟である夏(シア)の高校時代、さらには夏が社会人になった後までの約30年間を描き出す。春・夏・秋・冬という季節の名がついた4人それぞれの視点で、時系列を行き来しつつ展開する4部構成が特徴だ。
監督のパン・カーインが大阪アジアン映画祭に参加するのはこれが3回目。映画の序盤、姉・春の視点で展開するパートは、初参加となったデビュー作の短編映画『姉ちゃん』が基になっている。
実はその当時から、すでに『我が家の事』の全体構想はできていたそう。実際に彰化の町で生まれ育ったカーイン監督が、「自分のリアルな体験と感情を描いた脚本」だという。
キーパーソンは大人になった弟・夏だ。『姉ちゃん』には幼少期しか登場しないぶん、長編版である本作の核心がこの人物にあることは明らか。カーイン監督が「自分に最も近い役」と語る夏を演じたのは、『君の心に刻んだ名前』やドラマ「一筆お祓いいたします」のツェン・ジンホアだ(ちなみにデビュー作はジョン・スー監督『返校』)。
ジンホア:僕も田舎の出身なので、この脚本を読んだ時、なぜこんなことが起きるのかがよくわかりました。夏は僕自身にもよく似ていると思ったし、彼ら一家の暮らしにも簡単に入っていける気がしたんです。自分の経験を活かして夏の感情を表現できるのではないか、ぜひやってみたい役だと感じました。
カーイン:撮影中、彼(ジンホア)とは役の話をほとんどしませんでした。僕が幼い頃の思い出をたくさん反映したぶん、あれこれ話しすぎると演技の幅を狭めてしまいかねないなと。あくまでも自由に演じてほしかったので、役の話はせず、むしろ生活や撮影のこと、演技全般の話をしていましたね。
撮影は彰化で行われ、出演者たちは生活をともにするように映画製作に取り組んだ。ジンホアは「いつも一緒に現場で暮らし、ご飯を食べ、夜市に出かけました。家族らしい雰囲気が自然に生まれてきて、感情も演技に乗りやすくなった」と話す。
ジンホア演じる夏は、映画のユーモアの大部分を担う存在。カーイン監督は「家族4人にはそれぞれを通じて表現したいテーマがありました。夏の場合は『後悔』です」と明かす。
カーイン:夏がコミカルなキャラクターなのは、ある出来事の闇を背負いながらも明るく振る舞っているから。彼(ジンホア)に夏を演じてほしいと思ったのも、カッコよさの中にどこか切なさと悲しみを感じたからです。外では太陽のように明るいけれど、夜、家に帰ったら一人ひそかに泣いているのかもしれないなって。
ジンホア:僕自身は、夏のパートがユーモラスなのは監督らしさの現れだと思っています。監督は真面目に見えるけれど、ジョークが大好きで面白いことばかり言っている人(笑)。ユーモアの中に悲しみが表現された、パン・カーイン監督らしさの詰まった映画です。
『我が家の事』の日本公開は現在未定。緻密な構成のもと、すれ違う家族の心理描写を時にリリカルに、時にほがらかに紡いだ悲喜劇の傑作だ。美しい撮影と的確な編集によって、家族の小さな物語があざやかな広がりを見せ、深い余韻に着地する。劇場公開の実現に期待したい。
次回、「第21回大阪アジアン映画祭」は2025年8月29日(金)〜9月7日(日)に開催予定。
取材・文/稲垣貴俊
関連記事
-
新垣結衣が語りに!“伝説の家政婦”タサン志麻さん夫婦に密着「たくさんの人の心にスッとしみこむはず…」<ふたりのディスタンス>WEBザテレビジョン
-
東京03の超絶サクセスストーリー 全国ツアーだけで「1年食えるくらいはもらえる」WEBザテレビジョン
-
<BLACKPINK>「あつまれ どうぶつの森」内に“BLACKPINK島”がオープン!MVのセットやステージを再現WEBザテレビジョン
-
松井玲奈、大粒の涙…新型コロナ感染中の思い吐露「人生の中では一番苦しいぐらいの数日間」WEBザテレビジョン
-
ジャニーズWEST中間淳太 “探偵”イメージの細身スーツで「小説現代」表紙に!推しミステリから自身の創作活動まで明かすWEBザテレビジョン
-
瀬戸朝香、“なかなか良い感じ”7歳長女によるメイクSHOTに反響「優しくて自然な感じすごくいい」「娘さんお上手!」WEBザテレビジョン
「映画」カテゴリーの最新記事
-
本田望結・IMP.基俊介ら、南沙良主演「愛されなくても別に」出演決定 予告&主題歌も解禁モデルプレス
-
“元宝塚月組トップスター”月城かなと、美貌の男役から『白雪姫』女王で声優デビュー「美しさがすべて」にも納得のスター性とおちゃめな人柄WEBザテレビジョン
-
「ボヘミアン・ラプソディ」でオスカー受賞ラミ・マレックによる、見る者の心をがっちりロックする“復讐譚×ロードムービー”に感嘆<アマチュア>WEBザテレビジョン
-
「劇場版 忍たま乱太郎」Blu-ray&DVD発売決定 豪華版Blu-rayにはなにわ男子・大西流星&藤原丈一郎のアフレコ映像もWEBザテレビジョン
-
Aぇ! group・佐野晶哉&増田俊樹が公開御礼舞台挨拶に登壇 生トークセッションで会場盛り上がる<ヨウゼン>WEBザテレビジョン
-
福本莉子×八木勇征が紡ぐ“近くて遠い”恋…映画「隣のステラ」8月22日(金)公開決定、予告映像&ティザービジュアル初解禁WEBザテレビジョン
-
「名探偵コナン 隻眼の残像」世界最速上映決定 公開初日4月18日0時から全国23劇場モデルプレス
-
有村架純、ウェディングドレス姿披露 鈴木亮平らの心情滲むビジュアル解禁【花まんま】モデルプレス
-
ジェームズ・キャメロン作品などがディズニープラスにて配信 グローバルキャンペーン「our HOME」特別映像も公開WEBザテレビジョン