

米アカデミー賞6部門ノミネート、“音楽の世界に生きる人”にフォーカスしたおすすめ映画3作品を一挙紹介

3月2日(現地時間)にアメリカで開催された第97回アカデミー賞授賞式。これまでノミネートされてきた作品の中には、心に残る名作が多数存在する。今回は、その中から“音楽の世界に生きる人”の人生を描いたおすすめ作品をピックアップ。「TAR/ター」「エルヴィス」「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」の3作品のあらすじや見どころについて紹介していく。
ケイト・ブランシェットが天才指揮者を熱演した「TAR/ター」
まず紹介するのは、第95回アカデミー賞の主要6部門(作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、撮影賞、編集賞)にノミネートされた映画「TAR/ター」(2023年日本公開)。「イン・ザ・ベッドルーム」や「リトル・チルドレン」を手掛けたトッド・フィールド監督による、ベルリン・フィル初の女性マエストロ、リディア・ター(ケイト・ブランシェット)を描いた、芸術・人間の欲望・狂気が交錯する驚愕のサイコスリラーだ。
並外れた才能を持ち、今やマエストロとしてのみならず、作曲家としても圧倒的な地位を手にしたター。しかしマーラーの“交響曲第5番”の演奏や録音へのプレッシャー、新曲の創作に苦しんでいた。そんな折、かつてターが指導にあたっていた若手指揮者の訃報をきっかけに、彼女に“ある疑惑”がかけられ、追い詰められていく――。
本作で主演を務めるケイト・ブランシェットは、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。オーストラリア出身の彼女は、「アビエイター」で初めてアカデミー賞に輝くと、その後「ブルージャスミン」や「エリザベス」「キャロル」といった名だたる作品に立て続けに出演。今や国際的に評価を集める俳優の一人として知られる存在となっている。
フィールド監督が「唯一無二のアーティスト、ケイト・ブランシェットに向けて(脚本を)書いた」と語っていた本作。彼女は出演にあたって、ドイツ語とアメリカ英語、さらにはピアノと指揮をプロフェッショナルから学び、すべての演奏を自身で演じている。
その他にも、ターの恋人で養女を共に育てるシャロン役を、キャリアを通し30以上もの映画賞にノミネートされているドイツ出身のニーナ・ホスが担当。さらに、ターのアシスタントで副指揮者を目指すフランチェスカ役を、「燃ゆる女の肖像」でセザール賞・ヨーロッパ映画賞にノミネートされたフランス出身のノエミ・メルランが務めるなど、世界各国の実力派俳優陣が集結している点にも注目したい。
伝説のロックスターの生涯を描く「エルヴィス」
続いて紹介するのは、第95回アカデミー賞において作品賞、主演男優賞、衣装デザイン賞、音響賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、プロダクションデザイン賞、撮影賞、フィルム編集賞の計8部門にノミネートされた映画「エルヴィス」(2022年日本公開)。禁断の音楽“ロック”で世界を変えたと言われるエルヴィス・プレスリーの伝説の裏側を描いたミュージック・エンターテイメント映画となっている。
主人公は、1935年にアメリカ南部ミシシッピ州の貧しい家庭に生まれたエルヴィス(オースティン・バトラー)。家族とともにメンフィスに引っ越し、そこで出会ったアフリカ系市民たちの音楽に影響を受け、彼はプロ歌手としてデビューを果たした。しかし、彼が確立した“ロック”という音楽ジャンルは封建的な時代に“下品”などと社会的批判を受けることも…。さらに、マネージャーのパーカー大佐(トム・ハンクス)は、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとするのだが――。
本作を手掛けたのは「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督。若くして謎の死を遂げたスーパースター・エルヴィスの成功だけでなく、その“裏側”を名曲「監獄ロック」などさまざまな音楽とともに描いている。主人公・エルヴィスを務めたのは、TVシリーズドラマ「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」でデビューを果たしたオースティン・バトラー。
監督に“エルヴィスそのもの”と言わしめた実力の持ち主で、まるで伝説のスターが憑依したような迫真の演技に注目だ。また、悪名高いパーカー大佐を、2年連続でアカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した経験を持つ名優、トム・ハンクスが巧演。「フォレスト・ガンプ/一期一会」「グリーンマイル」などによる“善人”のイメージを封印し、本作では極悪非道な悪人っぷりを見事に披露している。
難聴になったドラマーの人生を描く「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」
最後に紹介するのは、第93回アカデミー賞で音響賞、編集賞を受賞したほか、作品賞を含む主要6部門にノミネートされた映画「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」(2021年日本公開)。突然難聴になってしまったアバンギャルドメタルバンドのドラマー・ルーベン(リズ・アーメッド)の人生を描いた物語だ。
難聴者のコミュニティに連れていかれたルーベンが、前向きに生きるコミュニティの人々とともに過ごしながら、現実を受け入れることの難しさに直面。そして、彼は自分の人生を前に進めるためにも“ある決断”をする――。
本作の見どころとなるのは、“聴覚で味わう映画”である点だ。音響デザイナーのニコラス・ベッカーは、主人公・ルーベンを取り巻く音の環境をより深く味わえるように仕上げている。実際に全編を通して“音”と“静寂”のコントラストが巧妙に表現されており、ルーベンが体験した人生の切なさや挫折、そして再生を、より“自分事”として捉えることができるだろう。
そんな本作でルーベンを演じたのは、「ナイトクローラー」や「ヴェノム」などに出演するリズ・アーメッド。ドラムの練習とASL(アメリカ手話)の習得に打ち込んだそうで、彼の心を揺さぶる演技は見どころの一つとなっている。
なお動画配信サービス・Huluでは、今回紹介した「TAR/ター」「エルヴィス」「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」の3作品をレンタル配信中。
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