「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」より

ティモシー・シャラメ、“世界的カリスマ”ボブ・ディランの強烈な個性を完璧に“モノにした”役作りに驚嘆<名もなき者>

2025.02.26 07:10
「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」より

1960年代初頭のニューヨークの音楽シーンを舞台に、当時19歳で無名のミュージシャンだったボブ・ディランが、“時代の寵児”としてスターダムを駆け上がっていく姿を描いたサクセスストーリー「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」が2月28日(金)に公開される。ディラン本人も製作に協力し、既に劇場公開されている各国で大ヒットを記録、「第97回アカデミー賞」にも作品賞をはじめ8部門でノミネートされ、日本でも注目度が増している。そこで公開に先駆け、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が試写会で同作を視聴し、独自の視点でのレビューを送る。(以下、ネタバレを含みます)

大統領自由勲章とノーベル文学賞の両方に輝くカリスマ

ディランといえば、軍属以外の市民への叙勲としてはアメリカで最高位となっている「大統領自由勲章」と世界三大文学賞の一つ「ノーベル文学賞」の両方に輝く、まさに世界的なカリスマ。何度も音楽の世界に変革を起こし、全世界でのアルバム・トータルセールスは1億2500万枚超え。彼以降に登場した世界中のシンガーソングライターが、その影響を受けているといっても過言ではない。

ディランについてこのように書いていくと「とんでもなくすごい人」「他の追随を寄せ付けない偉人」というイメージが沸き上がるだろう。その通りだ。私もここ数十年、来日ごとにライブを見てきたが、毎度ヨダレと涙が同時にこぼれてきそうなほどの素晴らしい音世界とともに感じさせられるのは、まぶしくて分厚いオーラである。身近さなどない。「ああ、違う世界の人が、音楽を届けに、このライブ会場に舞い降りてきてくれたんだ」という実感をくれるのみだ。

だが、このボブ・ディランも、いきなり突然時代を変えたわけでも、新しい水夫となって古い船を動かしたわけでもない。今回の映画「名もなき者」の英語タイトルは「A COMPLETE UNKNOWN」まだ何者でもなかった、ただし創作上にはすでに揺るぎないビジョンを持っていたロバート・アレン・ジマーマン青年が、さまざまな出会いを経て、ボブ・ディランというキャラクターを形成していく物語だ。

背景となる主な年代は1960年のニューヨーク進出から、スターへの道を踏み出し、1965年の「ニューポート・フォーク・フェスティバル」(いわゆる“野外フェス”の原点の一つ)で賛否両論を巻き起こすまでの5年間。今から60年も前の出来事だから、ある意味もう片足を時代劇にツッコんでいる。だが、愛する人の気持ちが離れていくのは誰だってつらいし、未踏の方向に踏み出す者に冷たい風を吹かせる奴は東西南北どこにもいる。ディランは先輩ミュージシャンを心より尊敬しつつ、鋭敏な感性で時代の光をたっぷり吸収して、すさまじく鮮烈な新音楽を発芽させた。

ディラン漬けの日々を過ごし完璧にモノにしたシャラメ

今回ディランに扮(ふん)するのは、「君の名前で僕を呼んで」で「第90回アカデミー賞」主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメ。「名もなき者」の製作期間は、パンデミックを挟んで約5年間に及んだらしく、その間、彼は文字通りディラン漬けだったようだ。何しろディランの歌、ギター、ハーモニカは一聴しただけで、すぐに彼だと分かるほどの強烈な個性を持っている。それを驚嘆もののハイクオリティーで、シャラメは見事に「モノにしてしまった」。

しかもこの映画の中での演奏・歌唱シーンは「ライブ」で行われているという。つまり同時録音だ。アフレコなどの手法を使わずに、撮影スタジオで鳴っていたそのままの音が映画に焼き付けられているのだ。

しかも、当然ながらセリフもたっぷりある。いろんなインタビュー映像などを参考にして、声の出し方、表情などを気の遠くなるほどの精度でトレースして、シャラメが収録に臨んだことは言うまでもなく伝わってきた。ディランがやってくる前のニューヨークですでに名声を確立していた“フォークの女王”ジョーン・バエズを演じるのは「トップガン マーヴェリック」などに登場していたモニカ・バルバロだが、あの細かなビブラートのかかった、どこまでも伸びていくような歌声を、よくこれほど出し切ったものだと、これまた驚嘆させられた。

他にも音楽ファンなら「よくぞここまで!」と唸りたくなるようなマニアックな描写も満載、ディランがかなり荒っぽくバイクを操縦するシーンに関しても“この後の彼に起こる出来事”を強く暗示しているのだろうと思うが、とにかくストーリーが明快であること、歌や演奏のかっこよさもあって2時間半近くがあっという間に過ぎる。

シャラメはこの映画で、アカデミー賞の主演男優賞に2度目のノミネート。彼のファンとディランファンが一つの映画館で出会う時、また何かクリエーティブなものが生まれる予感がする。

◆文=原田和典

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