2025年の台湾映画を先取り! 『トラブル・ガール』『愛という名の悪夢』『夏のレモングラス』
2024年はいくつもの台湾映画が日本で公開・配信された一年だった。『本日公休』や『オールド・フォックス 11歳の選択』、『流麻溝十五号』などのほか、日台合作『青春18×2 君へと続く道』も記憶に新しい。
日本における台湾映画ブームの到来を祈りながら、今回は昨年末から2025年1月にかけて公開・配信される作品のうち『トラブル・ガール』などの3本をセレクト。シリアスな家族劇、奇妙な恋愛映画、そしてピュアな青春ラブストーリーとジャンルはさまざまだ。みなさんが素敵な台湾映画初めを迎えられますように。
ほとんどスリラー映画、な家族の物語『トラブル・ガール』
2025年1月17日(金)に劇場公開される映画『トラブル・ガール』は、2023年に台湾で製作・公開され、第60回金馬奨で脚本賞・音楽賞など計7部門にノミネートされた。主演は『アメリカから来た少女』のオードリー・リンで、なんと弱冠12歳にして最優秀主演女優賞に輝いている。
主人公のシャオシャオは、軽度のADHDを患う小学5年生の少女。父親は海外赴任中であり、母と広いマンションで二人暮らしをしている。周囲に合わせられず考え方も独特なシャオシャオは、学校ではクラスメイトにいじめられ、母には厄介者として扱われていた。母もまた、自分の言葉に耳を傾けず、思うままにふるまうシャオシャオへのストレスが限界を迎えつつあったのだ。
シャオシャオと母のあいだに立つのは担任教師のポールだった。シャオシャオは、大人たちのなかでもとりわけ優しく穏やかに接してくれるポールに好感を抱いている。しかし、問題はポールと母が不倫関係にあることだ。シャオシャオは戸惑いながら、なんとか自分自身と周囲に折り合いをつけようとするが……。
『トラブル・ガール』というタイトルからは、もしかすると「個性あふれる変わり者の少女が、さまざまな騒動を起こしながらも周囲にポジティブな影響を与えていく」というようなストーリーを想像するかもしれない。しかし、本作は決してそのような映画ではない。ADHDの少女が懸命に格闘しながら周囲とかかわろうとし、大人たちもまた必死に少女と向き合うしかない現実を、とことんリアルなタッチで、ストイックに描いたシリアスな人間ドラマだ。
監督・脚本のジン・ジアフアは、広告業界で20年近くのキャリアを積んだのち映画監督に転身。本作が長編映画デビュー作となったが、人間関係が複雑にねじれたプロットを、研ぎ澄まされた映像感覚でスリリングに演出した。
冒頭、台風が接近するなかでの授業シーンや、シャオシャオが母と教師ポールをタクシーで追う場面から、全編に不穏な空気が充満し、独特の緊張感がゆるむことはほとんどない。夏が舞台にもかかわらず寒々しい色調の画面や、強風に揺れるカーテンなど、黒沢清監督によるサスペンス/ホラーの影響も感じられる。ほとんどスリラー映画のような作風もあいまって、その作品世界にたちまち引き込まれるはずだ。
母親役は『悲しみより、もっと悲しい物語』のアイヴィー・チェン。教師ポール役は香港の人気俳優テレンス・ラウが演じ、本作で台湾映画進出を果たした。シャオシャオ役のオードリー・リンを含む3人の芝居でほとんど全編が展開する、密度の高い演技アンサンブルは大きな見どころだ。映画のムードを確かなものにした、ベルギー人作曲家トマ・フォゲンヌによる劇伴音楽の効果も高い。
シャオシャオはこの社会で自分の居場所を見つけられるのか、大人たちとの関係は……。ハードな展開の先にたどり着く、彼女たちの結末を見届けてほしい。
恋愛のわがままと不条理『愛という名の悪夢』
映画『愛という名の悪夢』は、とある男が恋人との関係に疲れ、別の女性に浮気したことから思わぬ出来事に巻き込まれてゆく奇妙なラブストーリー。全編iPhoneで撮影されたことも話題を呼んだ一本で、2024年夏の台湾公開を経て、12月30日(月)よりNetflixにて配信がはじまった。
主人公の男は、ひょんなことから出会った読書好きの年下女性ジアチーに一目惚れをした。猛アプローチの結果、交際にこぎつけた男はジアチーを溺愛し、いよいよ同棲生活をスタートさせる。ところがジアチーは束縛が激しい性格で、数時間ごとの連絡だけでなく、家では同じ食事を摂る、婚前交渉を禁じるなど、さまざまなルールを守るよう求めてきた。
はじめこそ喜んで従っていた男だったが、やがてジアチーのルールは心の重荷に変わる。束縛されることに嫌気がさしたころ、男は高校時代の片思い相手だったダユアンと再会し、お互いの近況を明かしあううち、少しずつ関係を深めていった。
ある夜、男は夢のなかで白ウサギに出会う。そこで「恋人を入れ替えたい」と願った翌朝、彼の世界はまったく違うものになっていて……。
これ以上はネタバレ厳禁、予測不能のストーリーを紡ぎ出したのは、『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター』で潔癖症同士の恋愛をコミカルに描いたリャオ・ミンイー監督。ラブストーリー、ファンタジー、スリラー、ホラーなどさまざまなジャンルを融合し、二転三転する展開で観る者を飽きさせない。それでいて、「人を愛するとは?」を切れ味鋭く突きつけるところに唯一無二の作家性があらわれている。
出演者は『僕と幽霊が家族になった件』のリン・ボーホン、『台北アフタースクール』のニッキー・シエ(2人は『恋の病』でも主演を務めた)、『疫起 エピデミック』のクロエ・シャンほか。白ウサギ役に扮した人気歌手YELLOWの怪演も強烈なインパクトを残す。
いよいよ日本に本格上陸『夏のレモングラス』
最後にご紹介するのが、『愛という名の悪夢』と同じく12月30日よりNetflixで配信がはじまった青春映画『夏のレモングラス』だ。10月に開催された「TAIWAN MOVIE WEEK 2024」で日本初上映された『夏日的檸檬草(原題)』が、いよいよ日本で本格リリースされる。
原作はシリーズ累計で400万人が読んだといわれる人気ウェブ小説。『次の被害者』のムーン・リー、『KANO 1931海の向こうの甲子園』のツァオ・ヨウニン、人気ボーイズグループ「W0LF(S)」のロウ・ジョンシュオらが出演し、キュートだがちょっと変わり者のヒロインと幼なじみ、優秀な転校生の三角関係が描かれる。
監督・脚本は『暴走外科医がやってきた』で“台湾版エミー賞”こと金鐘奨の長編ドラマ作品賞・監督賞に輝いたライ・モンジエ。前半はベタでポップな青春ラブコメディだが、中盤から「愛」をめぐる普遍的なテーマがあらわれてくるのが心憎い(詳しくは以前ご紹介した際の記事にて)。2024年の台湾から届いた最新青春映画の一本、ぜひチェックしてみては。
文/稲垣貴俊
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