国民的俳優の2大巨頭となった有村架純、横浜流星 活動の軌跡を振り返り、見る者を圧倒する演技の源泉を探る
2024年12月に発表された報知映画賞で、横浜流星が3年連続受賞という栄誉に輝いた。2025年から始まる大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」主演も決まり、ますます勢いに乗る横浜。そんな彼が初めて同賞を受賞した2022年の第47回報知映画賞では、有村架純と福山雅治も初めての主演女優賞、主演男優賞を受賞している。なかでも有村は2025年公開の映画「花まんま」「ブラック・ショーマン」への出演も発表されており、横浜に負けないほどの勢いを持つ注目の女優。現代日本を代表する若手俳優の2大巨頭のこれまでを振り返り、見る者を惹きつける魅力に迫る。
主演から助演まで幅広く、そして力強く演じ切る横浜流星
横浜流星はいまやイケメン若手俳優の登竜門的な存在である「仮面ライダー」にゲスト出演を果たすと、その整ったビジュアルと存在感から瞬く間に人気に火をつけた。2014年には「烈車戦隊トッキュウジャー」のトッキュウ4号、グリーンカラーのヒカリ役としてメインを張る。
極真空手の国際大会で世界一の栄冠に輝いた経験を活かして、板についた華麗なアクションを披露した横浜。その後もさまざまな役柄で実力と人気を伸ばしていくなか、大きく飛躍したのが2019年のドラマ「初めて恋をした日に読む話」だ。
髪をピンクに染めた高校生・由利匡平役として同作に出演した横浜。自然な風合いを目指すため地毛をピンクに染めた横浜は、蠱惑的な魅力を持つ匡平の見事に体現して原作ファンをも驚かせた。
同作で「第100回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」の助演男優賞に選ばれてからは、「日経トレンディ」が選ぶ「今年の顔」(2019年)への選出、「第43回日本アカデミー賞」新人俳優賞受賞、釜山国際映画祭・アジアンフィルムマーケットなど数々の賞を受賞して名実ともに日本を代表する俳優としての地位を確固とする。
そんな横浜が初めて報知映画賞を受賞したのは、映画「流浪の月」助演男優賞。盲目的な愛ゆえに、愛する人を暴力によって支配する男へ変貌する青年を演じた。さらに翌年にも同賞で主演男優賞を獲得した際には「ヴィレッジ」「春に散る」などの演技が高く評価された横浜。
横浜が俳優として突出している点を挙げるとすれば、それは役作りへの真摯さだ。先述したドラマ「初めて恋をした日に読む話」では地毛を染め上げ、ボクシングをテーマにした映画「春に散る」ではプロボクサーを演じるためにプロボクシングライセンスを取得する力の入れよう。体作り、役作りという言葉を聞くことは多くなってきたが、ここまでのめりこむ俳優はかなり珍しい。
さらにそうした横浜の役作りを堪能できるのが、竹内涼真とのW主演で話題になった映画「アキラとあきら」。同作で横浜は大企業の御曹司ながら、血縁のしがらみを嫌って巨大銀行へ入社してきたエリート・階堂彬(あきら)を演じる。
竹内演じる山崎瑛(アキラ)は幼少期の苦労から“人のために金を貸す”という信念を持っていて、アキラとあきらは正反対な思考ながらも同期のなかで抜群の成績を誇っていた。その2人がやがて共通の大きな壁にぶつかり、大逆転の目を探して共闘する…というストーリーだ。
注目すべきは、「御曹司を演じる横浜」の立ち振る舞いにある。“内にアツいものを秘めた御曹司”という役はキャラクターとして立っているように思えるが、横浜の“役作り”はそうした表面をなぞるだけに留まらない。彼は同作に関して「御曹司に会ったことがない」という発想からスタートする。すると次に取る行動は、実際に御曹司と呼ばれる人が育ってきた環境を調べあげること。
さらに同作の原作者・池井戸潤が取材したという、栗林商船の関係者に話を聞きに行ったとも明かす横浜。アキラの父が営む大企業・東海郵船のモデルとなった同企業で身を入れて話を聞き、アキラの人間像を確固たるものにしていった。そこまで突き詰めた横浜が魅せる“血のしがらみを嫌う御曹司”像は、とにかく説得力が違う。
言動の端々に自信がみなぎり、振る舞いはいかにも堂々としたもの。しかし傲慢な乱暴さはなく、育ちの良さが“品”となってにじみ出る。それらの所作は、信念ある教養人…というアキラの人間像にぴったり当てはまる。横浜の役作りが“フィジカルだけではない”ことを如実に物語る好例だ。
心に迫る演技力がたまらない、有村架純の演技力
有村が報知映画賞を受賞したのは、映画「前科者」での演技で評価を受けた主演女優賞。同作は罪を犯した前科者たちの更生や社会復帰を目指す保護司(犯罪や非行をした人が、ふたたび罪を犯すことのないように支える民間のボランティア)の姿を描いた同名漫画(原作:香川まさひと、作画:月島冬二)を映画化した作品。岸善幸が監督を務め、有村と森田剛が共演している。
有村といえば映画「ビリギャル」でのド派手な金髪姿や、天真爛漫ながら厳しい戦国の世を生き抜いた大河ドラマ「どうする家康」の瀬名役、さらに元風俗嬢であることを隠さずに自然体で生きる女性を演じた映画「ちひろさん」など幅広い役柄を担う。しかしそのなかで共通するのは、演じる役柄への深い理解だ。
彼女が以前のインタビューで明かしていたのは、役柄のイメージを掴むためにおこなう“ノート術”。演じるキャラクターの人生をイメージして、ノートに書き出していくのだという。せりふやキャラクターの人生を伺わせる設定から、さらに一歩踏み込んでキャラクター像を自分のなかで明確にする。言葉にすると簡単だが、相当にクリエイティブな役作りの方法といえるだろう。
しかしそうした役作りを経て臨む演技には、たしかに心を打つきらめきがある。その源泉は彼女が人生のなかで大切にしていることの1つである「想像すること」に繋がるはずだ。
たとえば第47回報知映画賞で有村が主演女優賞を獲得した「前科者」。有村が演じた阿川佳代は、過去に罪を犯した“前科者”たちの社会復帰・更生を目指す保護司として働く女性だ。有村は役作りのために保護司に関わる資料なども読み、加害者が元々は被害者でもあったこと、育ってきた環境が引き起こした問題の深刻さ、一見どうしようもない切なく悲しい“前科者”たちの境遇を理解したという。
保護司として向き合う登場人物たちの背景をそうした資料と重ね、設定として書いてある以上のことを想像して臨む有村の演技には、想像以上の献身さがにじみ出ている。佳代は保護司として、ひたすら保護観察対象者たちに寄り添う。事件のことを聞くわけでも、環境の問題を尋ねて解決を図るわけでもない。あくまで彼らの現状に耳を傾け、言いたいことを語ってもらい、励ますのみ。自分のなかの正義を押し付けるのではなく、世間の常識を説教するのでも、罪の大きさを言って聞かせるのでもない。
そんな彼女の姿勢は、対象者たちが救われていく姿に強い納得感を覚えさせる。そして彼女があくまでも物語のために存在する“聖母”的な存在ではなく、“社会奉仕で癒したい傷”を持つ1人の人間であることも大事な要素。そうした佳代という人間を、設定以上の“厚み”を感じさせるのが有村のすごさだ。
有村が持つ共感力と理解力が特に活きた映画「前科者」。さまざまな保護観察対象者と向き合って奔走する日々のなか、佳代が担当している工藤誠(森田剛)が姿を消してしまう。そしてその姿が見つからないまま、街では連続殺人事件が発生。工藤が容疑者として扱われるなか、阿川佳代は工藤誠との再会を望んで行動を始め…。
心に迫り、刺すような演技力を誇る有村。そんな彼女が演じる阿川佳代が保護司として前科者を全力で支え、寄り添い、真摯に更生させようとする姿は、有村という女優の集大成ともいえる包容力を持っている。
なお全国のJ:COMエリアで視聴可能な無料チャンネル「Jテレ」では、1月に「前科者」「アキラとあきら」の両作を放送。映画「アキラとあきら」は1月5日(日)夜9時から、映画「前科者」は1月19日(日)夜9時から、それぞれ放送予定だ。
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