壊れていくエマ・ストーンから目が離せない…“何でもあり”の衝撃作「憐れみの3章」での生々し過ぎる肌の質感
アカデミー賞で2度の主演女優賞を獲得したエマ・ストーンの主演最新作「憐れみの3章」(2024年)が、12月25日に配信された。映画「ラ・ラ・ランド」(2017年)ではピカピカの笑顔でチャーミングな魅力を振りまき「アカデミー賞」主演女優賞を獲得したストーンだが、「憐れみの3章」では別人のように化粧っ気のないリアルな肌を晒し、顔を涙でぐちゃぐちゃにし、壊れていく姿を熱演。衝撃に次ぐ衝撃が襲う同作の中でも、ひときわ強烈な存在感を放っている。(以下、ネタバレがあります)
3つの物語で3つの異なる人物を演じる
「憐れみの3章」は、ストーンとヨルゴス・ランティモス監督がタッグを組んだ最新作。2人のタッグは「女王陛下のお気に入り」(2018年)、「哀れなるものたち」(2023年)に続き3作目で、「哀れなるものたち」ではストーンが自身2度目の「アカデミー賞」主演女優賞を受賞。さらに「ベネチア国際映画祭」で金獅子賞を獲得するなど、映画界最高峰のタッグと言っていい結果を残してきた。
そんな黄金タッグの最新作は、ランティモスワールド全開の超難解でシニカルこの上ない作品。
2時間40分を超える長い本編は、3つの独立した物語で構成されている。選択肢を奪われた男が自分の人生を取り戻そうと格闘する第1章「R.M.Fの死」、海での失踪から帰還した妻を別人ではと疑い始める男を描いた第2章「R.M.Fは飛ぶ」、そして、あるカルト集団に心酔し“教祖”となるべき人物を懸命に探す女を描く第3章「R.M.Fはサンドイッチを食べる」だ。
ブロンド美女も、愛をねだる哀れな女も…ストーンが演じ分ける3つの女性像
3つの物語の登場人物はそれぞれまったく別のキャラクターだが、同じ俳優陣がメインキャストを演じているというのがこの作品の面白いところ。ストーンは、第1章で主人公ロバート(ジェシー・プレモンス)が出会う女性リタ、第2章で主人公ダニエル(プレモンス)が愛してやまなかった妻リズ、そして第3章では、相棒アンドリュー(プレモンス)と共に“教祖”となるべき人物を探す主人公エミリーを演じている。
3つのエピソードが共通して描くのは、支配や束縛におろかなまでに従い、そこに快感すら覚える人物たち。特に、2章と3章で“支配され、束縛される側”を演じるストーンの壊れっぷりがすさまじい。
1章のリタは、ミニ丈ドレスときらびやかなアクセサリーで着飾り、完璧にメイクを施しブロンドヘアをたなびかせる女性。その姿はさすが“オスカー女優”エマ・ストーンといった趣で、“いとあはれ”だが、その一方で魅力的な唇のまわりの毛穴までしっかりとアップで切り取るカットも…。美を美のままで終わらせないランティモスワールドは、この時点ですでにエマを取り込んでいる。
2章では、夫ダニエルの愛を取り戻したいリズが、ダニエルの被害妄想の餌食となっていく展開が凄惨だ。無償の愛と、過度の束縛に応えることの見極めは難しい。ダニエルに信じてほしいリズは、エスカレートするダニエルの要求に応えていく。なりふり構わず、忠実過ぎるほど忠実に。
どんなにひどい扱いを受け、周囲から心配されても目に涙をため、ダニエルをかばうリズ。その顔のアップは肌のそばかすまでくっきりと映し出され、泣き顔で鼻先は赤い。常軌を逸したシチュエーションとは裏腹に、その表情はどこまでもリアルだ。
ストーンが主人公を演じる第3章は63分で、3つのうち最も長いエピソード。この章で印象的なのは、ストーン演じるエミリーが、心酔するカルト集団から破門される場面だ。
涙ながらカルト集団のリーダーに「ごめんなさい…。失望させたけど…なぜあんなことに」と許しを請うエミリー。破門は支配と束縛からの解放でもあるのだが、エミリーの表情には絶望しか浮かんでいない。顔中をしわくちゃにゆがめて子どものように涙を流し、門の鉄格子越しに許しのキスをねだる哀れな姿から、目が逸らせない。無情にも立ち去っていくリーダーたちを鉄格子越しに見送る孤独な背中も…。ここに至り、「憐れみの3章」のエマ・ストーンは崩壊する。
ランティモス作品の“お約束”、エマが躍る本編ラストの斬新過ぎるダンスまでしっかりと、「憐れみの3章」の独創性を味わい尽くしてほしい。
「憐れみの3章」に加え、ランティモス監督×ストーンによる過去作「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」もディズニープラスのスターで配信中。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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